3 大学共同利用機関法人自然科学研究機構の平成19年度に 係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

自然科学研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の天文学、物質科学、エネルギ ー科学、生命科学その他の自然科学分野の中核的研究拠点として、「国立天文台」、「核融 合科学研究所」、「基礎生物学研究所」、「生理学研究所」及び「分子科学研究所」の5つ の大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。

機構は、各分野の国際的拠点であると同時に、分野間連携による学際的研究拠点及び 新分野形成の国際的中核拠点としての活動を展開するために、欧米、アジア諸国などと の連携を進め、自然科学の長期的発展を見通した国際共同研究組織の主体となることを 目指し、研究活動を行っている。

業務運営面については、研究者コミュニティの意見を踏まえた研究体制の見直しが継 続的に行われており、評価できる。現場の研究者や研究者コミュニティの満足感や達成 感、向上心へのインセンティブを与え続けるようなマネジメントを継続することが期待 される。

また、経費抑制については、様々な工夫による経費削減の効果が出てきているが、今 後は、教育研究活動の質を維持・向上する上で必要な経費を勘案し、可能な範囲での数 値目標の設定を検討することが期待される。

教育研究面については、外部評価の結果も踏まえつつ、各機関の特色を生かしながら、 分野を越えた研究組織間で連携して実施する「分野間連携プロジェクト」を引き続き推 進するとともに、国際シンポジウム「自然科学における階層と全体」の開催や海外の研 究拠点との大規模な人事交流により、異分野間の研究交流を国際レベルでも推進しており、評価できる。

若手研究者等の人材育成については、大学院教育の在り方等について検討を行ってい るが、高度な研究レベルを有する機構だからこそ可能な教育やトレーニングプログラム を構築すること等により、若手研究者が魅力を感じるような教育を行うことが期待される。

機構発足後4年が経過し、異なる領域間の様々な連携の試みを推進しているが、その 一方で、機構としての一体的・総合的な取組が十分見えてこないとの印象を受ける。今 後、中期目標・中期計画の達成に向け、機構長の力強いリーダーシップの下、各機関の 独自性・独創性を生かしつつも、機構を形成していることの組織的・学術的なメリット がより具体的な形として見えてくるよう、分野間連携の更なる推進や業務運営の一層の 改善・効率化を進めることが期待される。

2 項目別評価

Ⅰ.業務運営・財務内容等の状況
(1)業務運営の改善及び効率化
① 運営体制の改善
② 研究組織の見直し
③ 人事の適正化
④ 事務等の効率化・合理化

平成19 年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 機構独自の人事・給与計算事務システムを新たに導入することにより、全ての給与 計算業務を機構事務局に一元化するとともに、メインバンクとのオンラインによる支 払システムを導入し、業務の効率化を図っている。

○ 平成19 年4月から機構長の下に独立した監査室を設置し、内部監査体制を強化する とともに、監査室長の下、機関間の相互監査を実施した。

○ 国立天文台ハワイ観測所での国際共同研究支援職員研修を機構横断的な研修として 制度化し、職員の国際関係業務に対応する能力を向上させている。

○ 動物の愛護及び管理に関する法律の改正を受け、機構において「動物実験規程」を 制定し、実施体制を整備した。

○ 「随意契約見直し計画」を策定し、原則として、一般競争入札契約方式に移行する とともに、工事については、客観性・透明性・競争性をより高めるためにすべて一般 競争入札とした。また、電子入札方式を取り入れ、事務の効率化・合理化を図ってい る。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載23事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、 上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善
① 外部研究資金その他の自己収入の増加
② 経費の抑制
③ 資産の運用管理の改善

平成19 年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 外部資金等に関する情報収集を行うとともに説明会の開催等により機構内の職員に 周知するなど、その獲得に努め、約48 億3,500 万円を獲得した(前年度比6億6,800 万円増)。また、「競争的資金等取扱規程」等を定め、適切な管理体制を整備した。

○ 「温室効果ガス排出抑制等のための実施計画」に基づき、機構全体で省エネルギー 推進等を更に進めた結果、平成19 年度末において、温室効果ガス排出量を平成17 年 度末より6.2%削減した。

○ 「資金管理方針」を策定し、メインバンクや専門家の意見を踏まえ元本の安全性を 確保した上で、短期的・長期的な資金の運用を行っており、前年度に比べて1,900 万 円の増収を得た。

○ 知的財産の管理に関する企画・立案や知的財産に関する啓発活動・研修等を行うた め、機構に知的財産室を設置し、知的財産に関するマネジメント体制を強化した。ま た、生理学研究所では、機構利益相反ポリシー及び生理学研究所利益相反ガイドライ ンに基づき、研究所での職務発明を基礎とするベンチャー企業への支援を行った。今 後、イメージングサイエンスなど、国際的競争性を有する領域において、迅速かつ積 極的なパテント化等への対応が期待される。

○ 岡崎3機関(基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所)においては、老 朽化した共同研究者宿泊施設を廃止するとともに、当該施設及びその土地を他の土地 と交換することにより、代替宿泊施設を確保し、資産の有効活用を図っている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に 人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究 の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、 上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び情報提供
① 評価の充実
② 情報公開等の推進

平成19 年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 各機関において、外部評価の結果を踏まえ、組織の見直し等を行っている。核融合 科学研究所では、連携研究推進センターにサイエンスコミュニケーション部門を設置 し、核融合研究への理解を目指し、日本科学未来館での核融合展示の決定(平成20 年度実施)や一般公開への高校生参加などの企画・実施等を行った。また、生理学研 究所では、企画と評価の機能を分離し、企画立案委員会を設置するとともに、点検連 携資料室を設置したことにより、データ収集・整理の重複が解消され、編集・公表の 過程が迅速化された。さらに、広報展開推進室を設置し、専任准教授を配置したこと により、外部への情報提供が著しく増大した。

○ 国立天文台で、三鷹キャンパスの見学に訪れる外国人のために、英語・韓国語・中 国語の見学パンフレットを作成(多言語パンフレットは平成20 年度から配布予定)す るなど、各機関において、外国人向けの広報にも取り組んでいる。今後は、機構の活 動を広く内外にアピールするという観点から、機構として、国内における広報活動は もとより、国際的な広報活動を充実することが期待される。

○ 国立天文台では、レプソルド子午儀・連合子午儀を復元し、子午儀資料館として公 開を開始するとともに、天文に関する貴重書を「貴重書展示室」において公開した。

○ 基礎生物学研究所では、すべての教授、准教授について、3名の外部評価委員(う ち1名は外国人)により、10 年間の業績とコミュニティに対する貢献等の観点から、 各自1時間を越えるインタビュー形式による評価等を実施しており、ユニークな取組 として評価できる。

○ 分子科学研究所では、史料編纂室を設置し、研究所史料の保存・整理・収集を行っ た。また、核融合科学研究所核融合アーカイブ室においては、史料の登録データ数が 約18,000 件に達したため史料目録を充実させ、自然科学分野では我が国で初めて、国 際標準である符号化記録史料記述(EAD)に準拠した公開を行った。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載12 事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年 度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したこと による。

(4)その他業務運営に関する重要事項
① 施設・設備の整備・活用
② 安全管理

平成19 年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 外国人向け安全管理マニュアルの策定を行うなど、安全管理に対する意識啓発につ いて積極的に推進している。

○ 精神的ストレスの多い研究業務に従事する職員のメンタルヘルスケアの一環として、 メンタルヘルス講習会を実施するとともに、外部にメンタルヘルスの相談窓口を設け た。また、国立天文台では、三鷹地区において一律的な勤務時間管理がなじまない技 術職員に対し、フレックスタイム制を導入・試行するなど勤務時間の適正化に努めた。

○ 研究費の不正使用や研究活動上の不正行為の防止・抑制等の観点から、機構に「競 争的資金等の不正使用防止委員会」、「不正行為防止委員会」を設置するとともに「競 争的資金等取扱規程」等を制定した。これらに基づき、各機関においても「競争的資 金等の不正防止計画」等を策定するなど、体制整備を図った。

○ 核融合科学研究所では、研究室等の再配置により新たに確保したスペースを活用し て、平成19 年度より発足したサイエンスコミュニケーション部門の研究室や、客員研 究員室等を確保した。また、岡崎3 機関では、施設利用実態調査・満足度調査を基に、 若手研究者用スペース・行動様式解析室・機器センター等の実験スペースの再配分を 行うなど、各機関において施設の有効活用を行った。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載9事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、 上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

Ⅱ.教育研究等の質の向上の状況

評価委員会が平成19 年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事 項が注目される。
① 研究水準及び研究の成果等
② 研究実施体制等の整備

○ 研究連携委員会及び研究連携室会議において、機関間の研究連携・研究交流の具体 的方策について検討を行うとともに、分野間の連携による学際的・国際的研究拠点形 成のため、分野間連携プロジェクト(17 件)を採択し、総額5億300 万円を配分した。 このうち「国際共同研究拠点ネットワークの形成」プロジェクトでは、国際的な分野 間連携を目指し、海外拠点との間で延べ1,240 名の人事交流を行った。また、外部評 価者も含めて、プロジェクトの研究成果報告会を開催し、評価結果を今後のプロジェ クトの実施に活用した。

○ 各機関は、それぞれの分野の中核的研究機関として、共同利用・共同研究により独 創的・先端的な学術研究を推進し、大学共同利用機関としての役割を果たしている。 平成19 年度における成果の一例は以下のとおりである。

③ 共同利用等の内容・水準
④ 共同利用等の実施体制

○ 平成19 年度は国内外の大学・研究機関等合計747 機関から共同利用・共同研究者数 10,222 名(国立天文台:2,578 名、核融合科学研究所:2,225 名、基礎生物学研究所: 674 名、生理学研究所:1,573 名、分子科学研究所:3,172 名)を受け入れ、各機関の 特性に応じた共同利用・共同研究を推進した。

○ 国立天文台では、北海道大学、岐阜大学、山口大学、鹿児島大学、宇宙航空研究開 発機構及び情報通信研究機構等との「大学間連携」により、国内VLBI(超長基線干 渉計)観測網による観測を推進するなど、大学との共同研究・共同観測を実施した。 また、東京大学、高エネルギー加速器研究機構との協定に基づき、重力波観測研究を 推進した。

○ 国立天文台では、東京工業大学と共同でガンマ線バースト残光追跡観測用望遠鏡の データアーカイブの運用を開始するとともに、バーチャル天文台システムの試験公開 を開始した。また、遠隔地の計算機同士を連携させるグリッド・ミドルウェアに関す る技術試験を高エネルギー加速器研究機構と共同で実施した。

○ 核融合科学研究所では、新しく、LHD・磁場閉じ込めシミュレーション研究系、新 領域シミュレーション研究系、国際熱核融合実験炉(ITER)等との連携を目的とした 六ヶ所研究センターから構成されるシミュレーション科学研究部を発足し、磁場閉じ 込め核融合プラズマ、レーザー核融合プラズマ及び関連する基礎プラズマ等の共同研 究を推進する体制を構築した。また、計算機作業班及びネットワーク作業班を設置し、 計算機資源の共同利用を促進するための体制を整備した。

○ 基礎生物学研究所では、新たに「モデル生物・技術開発共同利用研究」を開始した。 また、EMBL(欧州分子生物学研究所)との共同研究の成果として、生きた生物個体 を時間軸に沿って三次元的に観察できる平面照射顕微鏡SPIMの改良モデルDSLM(デ ジタル走査式平面照射顕微鏡)を導入した。

○ 分子科学研究所では、極端紫外光研究施設において光源と観測装置の高度化を進め たことにより、ユーザー層が拡大した。また、同研究所の計算科学センターでは、従 来よりも大きな計算機資源を共同利用に提供するため、新たな施設利用クラスを設定 することで、これまで実行不可能だった研究を可能とした。

○ 分子科学研究所では、全国の大学が有する研究設備の相互利用を活性化する「化学 系研究設備有効活用ネットワーク」を中心機関となって構築し、その試行を開始した (1,192 研究室、5,491 名の利用者登録)。

⑤ 大学院への教育協力・人材養成\\

○ 総合研究大学院大学の大学院生8専攻181 名について、5年一貫制大学院教育を実 施した。また、連携大学院制度により56 名(4大学5研究科)、大学からの要請に応 じて受け入れた特別共同利用研究員98 名について、大学共同利用機関の特色を活かし た研究指導等を行うなど、大学院教育に積極的に協力した。

○ 各機関において、「夏の体験入学」及び「アジア冬の学校」を実施し、国内外の学部 学生、大学院生を対象として研究教育体験を通した人材発掘とそのための広報活動を 積極的に行った。また、核融合科学研究所では、主として外国人留学生を対象に「賢 島セミナー」を実施するとともに、平成19 年度から始まった「ITER 夏の学校」への 大学院生の参加を支援した。

○ 平成19 年度から大学院教育担当の理事を委員長とする大学院教育に関する検討会 を設置し、今後の大学院教育の在り方やポストドクトラルフェローのキャリアパスに 有利となる体制の構築等について検討している。今後、高度な研究レベルや国際性を 有する機構だからこそ可能となる教育やトレーニングプログラムを構築すること等に より、若手研究者が魅力を感じるような教育を行うことが期待される。

○ 機構全体で、ポスドク253 名、リサーチ・アシスタント185 名を採用し、若手研究 者の育成を行った。

⑥ 社会との連携、国際交流等

○ 各機関は、高校生を対象としたスーパーサイエンスハイスクール事業や、サイエン スパートナーシッププロジェクト事業に積極的に協力した。また、若者の職業能力の 開発・育成のための「日本版デュアルシステム」、中学校及び高等学校の職場体験学習 にも積極的に参加して地域との教育連携を行った。

○ 国立天文台と核融合科学研究所は、機構内連携を軸として、光学機器メーカーやセ ラミックスメーカー等、異業種間にネットワークを構築し、ゼロ膨張セラミックスを 用いた大型超精密光学機器製造技術開発を進め、高度産業基盤の構築・産学連携活動 の推進を図った。

○ 機構の国際戦略本部においては、機構内の国際活動の状況を横断的に把握し、今後 の企画立案や情報発信に生かすため、国際共同研究、国際研究集会、若手研究者育成 について国際活動調査を実施し、その結果をホームページに公表した。また、国際共 同研究を支援する職員の能力向上や組織としての国際性の強化を図るため、外国人研究者受入れ業務の改善計画を策定・実施した。

○ 分野間連携プロジェクトのうち、国際的研究拠点の形成プロジェクト(3件)を実 施するとともに、分野間連携の具体的テーマである「自然科学における階層と全体」 の国際シンポジウムを開催した。これらの取組を今後も継続することにより、機構な らではの新学術領域の創造が期待される。

○ 国立天文台では、アルマ計画において、国立天文台アルマチリ事務所をサンチャゴ に設置し、合同アルマ事務所(JAO)との協力体制を確立した。また、平成19 年8月 に開催された東アジア中核天文台連合(EACOA)の台長会議において、平成20 年4 月からの3年間、EACOA 事務局を日本の国立天文台に置くことなど、本格的活動の ための体制整備を進めるとともに、東アジアVLBI 観測網コンソーシアムを形成し、 韓国・中国と日本国内のVLBI 観測の試験観測を進めた。