13 動物実験関連

    

自然科学研究機構における動物実験に関する規程が、「大学共同利用 機関法人自然科学研究機構動物実験規程」として、2007年に全面的に改訂されてから2年が経過し、ほぼ定着した。懸案であった、講習会等の開催、動物実験に関しての情報公開などは、動物実験コーディネータ室が新設され、順調に進んでいる。

1、動物実験委員会
 以下の点について、変更が行われた。
 1)委員長を補佐するとともに委員長不在時のために、副委員長を新たに設置した。
 2)実験動物に、両生類・魚類を含めるか議論があったが、これまでの経緯等を踏まえ、最終的に実験動物に含めることになった。また、上記規定から申請書等の様式を除外して別に定めるものとし、改良・変更などを迅速に行えるようにした。
 3)動物実験計画書、動物実験室設置承認申請書、実験動物飼養保管施設設置承認申請書などの審査に際して、動物実験コーディネータ室が事前審査をするようになり、また実施審査の際にも積極的に関わるようになり、効率化、透明化が計られた。

2、動物実験コーディネータ室
 自然科学研究機構における動物実験の管理は、法律により生理学研究所ではなく機関としての機構で行うことが定められている。しかし、実際に動物実験が行われている研究所は岡崎地区のみであることから、岡崎3機関で行われる動物実験をより適正に行うために、前年度8月より「動物実験コーディネータ室」を新たに設置し、特任教授を配した。動物実験コーディネータ室では、動物実験の管理・指導を行うとともに、教育訓練のための講習会を年十数回開催し、動物実験実施者への便宜を図るとともに、より適正な動物実験の遂行に努めた。また、動物実験室、実験動物飼養保管施設審査のための具体的要件を設定したことから、近々、動物実験委員会の指示の下、承認後の施設等のチェック体制を確保する予定である。

3、動物実験等に関する2008年度の自己点検・評価について
 2006年度に、「動物愛護管理法」が改訂され、それに伴い「実験動物の飼養保管等基準」及び文部科学省の「基本指針」並びに日本学術会議の「ガイドライン」の告示や発表が行われ、自然科学研究機構においても「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」を制定したうえ、2007年度から施行した(詳細は、2006年度、2007年度点検評価書第14号、15号参照)。この中で、第9章「自己点検」では、機構における動物実験が文部科学省の基本指針に適合しているか否かを自己点検・評価を行い、また、第10章「情報の公開」では、動物実験等に関する情報(動物実験等に関する規程、実験動物の飼養保管状況、自己点検・評価、検証の結果等の公開方法等)を毎年1回程度公表する旨、規定されている。これらに則し、前年度に引き続き、本年度は2008年度の自己点検・評価を国立大学法人動物実験施設協議会のひな形書式を用いて行った。項立てとしては、

1)規程及び体制等の整備状況
a)機関内規程
b)動物実験委員会
c)動物実験の実施体制(動物実験計画書の立案、審査、承認、結果報告の実施体制が定められているか?)
d)安全管理に注意を要する動物実験の実施体制(遺伝子組換え動物実験、感染動物実験等の実施体制が定められているか?)
e)実験動物の飼養保管の体制(機関内における実験動物の飼養保管施設が把握され、各施設に実験動物管理者が置かれているか?)
f)その他

2)実施状況
a)動物実験委員会(動物実験委員会は、機関内規程に定めた機能を果たしているか?)
b)動物実験の実施状況(動物実験計画書の立案、審査、承認、結果報告が実施されているか?)
c)安全管理を要する動物実験の実施状況(当該実験が安全に実施されているか?)
d)実験動物の飼養保管状況(実験動物管理者の活動は適切か?飼養保管は飼養保管手順書等により適正に実施されているか?)
e)施設等の維持管理の状況(機関内の施設等は適正に維持管理が実施されているか?修理等の必要な施設や設備に、改善計画は立てられているか?)
f)教育訓練の実施状況(実験動物管理者、動物実験実施者、飼養者等に対する教育訓練を実施しているか?)
g)自己点検・評価、情報公開(基本指針への適合性に関する自己点検・評価、関連事項の情報公開を実施しているか?)
h)その他(動物実験の実施状況において、機関特有の点検・評価事項及びその結果)
などである。これらの自己点検・評価結果を踏まえて、自然科学研究機構岡崎3機関動物実験委員会として、機構ホームページ上http://www.nins.jp/information/animal/H20_houkokusho.pdfに情報公開した。

4、前年度問題点とされた事項に関する対応策について
2008年度は、上記の項目において、基本指針に則して概ね適切に遂行されたと自己点検・評価されたが、下記のような問題点が残った。
1)動物実験室、実験動物飼養保管施設の具体的要件と承認後のチェック体制
2)魚類・両生類の取扱いについて
3)岡崎3機関の動物実験に関するホームページの設置について
4)動物実験計画書のウエブ申請システムの構築について
などである。
1)に関しては、具体的要件を設定したことから、近々、チェック体制を整備・確保することとした。2)に関しては、規程を改定して動物実験の際の実験動物対象種に盛込んだ。3)に関しては、事務センター国際研究協力課に集約することとし、研究所単位の設置はしないこととした。4)に関しては、他の事務手続きと統一をはかる必要もあるが、メリット、デメリットの再検討及び他機関での使用状況等をさらに詳細に検討することとした。

5、本年度の問題点と対応について
1)岡崎3機関での実験動物飼養保管状況等の把握・確認
2)動物実験室、実験動物飼養保管施設の承認後のチェック体制
3)遺伝子組換えDNA実験安全委員会との緊密な連携
4)動物実験計画書のウエブ申請システムの構築について
などである。
1)については、22年度に相互検証を受検することからも調査の必要性があり、21年度内に飼養保管状況等調査を行うこととした。2)については、前年度に引き続き、上記の調査が終了次第、22年度早々に取りかかる予定である。3)については、遺伝子組換え動物を使用した動物実験の急増を踏まえ、より適正な動物実験の遂行とカルタヘナ法遵守の観点からより緊密な連携が必要であり、遺伝子組換え動物使用実験に関わる情報の共有強化を図りたい。4)については、他の事務手続きと統一をはかる必要もあるが、他機関での使用経験を踏まえ、より良いシステムの構築をさらに検討を続けたい。

6、動物実験センター
1)全般
本年度の大きな柱は、a)明大寺地区地下SPF施設の本格稼働、b)明大寺地区本館・新館施設における清浄化の維持、およびc)霊長類遺伝子導入実験室の設置およびそれに伴う動物実験センターの機能移転であった。
a)については漸く動き出し、個別換気ケージシステムの長所・短所を今後良く見極め、不具合の部分は改善を図りたい。b)については一年間感染症の再発はなく、撲滅宣言として、完了する。この間、センター職員も微生物汚染に関してかなり神経を使い、多くの時間と労力を注いだ。c)は思った通りに仕事が進まず、新しい受理室を設置したことに留まり、次年度に引き継ぐ事項である。
2)明大寺地区地下SPF施設の稼働
 2009年6月から明大寺地区地下SPF施設は試験稼働から本稼働に移行した。まだ、少数の利用ではあるが大きな問題は生じていない。2010年1月から3月までエレベーター工事で一時休止する間に、器具機材の最終購入を図り、来期以降の利用促進を心がける。
3)霊長類遺伝子導入実験室設置およびそれに伴う動物実験センターの機能移転
 脳科学研究戦略推進プログラムのうち、「独創性の高いモデル動物の開発」(課題C)の遂行にあたり、霊長類遺伝子導入実験室を明大寺地区動物実験センター本館1階に設置した(2008年度)。現在、ウィルスベクターを用いてコモンマーモセットやニホンザルの脳の遺伝子発現を操作し、分子ツールを活用した高次脳機能の新しい研究パラダイムの構築、高次脳機能の分子基盤を解明する研究が開始されている。今後、大学共同利用機関の特徴を生かして全国共同利用にも供したいと考えているが、その具体的方法や、霊長類の搬出・搬入に伴うルール作りが課題である。
また、霊長類遺伝子導入実験室の設置に伴い、これまで同所で果たしてきた受理室、マウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設、霊長類の一次保管施設などの動物実験センターの機能移転が必要になった。受理室に関しては、当初予定していた建物では、建築が難しいことや建築費が高額であることがわかり、家庭用のバルコニーを応用することとなった。そのため設置が大幅に遅れてしまい、その間実験動物や飼料の搬入に苦慮した。また、外気が直接侵入する問題が生じ、感染症の防疫対策で労力を割くこととなった。最終的に2009年10月に漸く新受理室ができ、通常の受け入れ業務に移行した。マウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設、霊長類の一次保管施設の設置は、今期実現することができなかったが、設計は済み建築許可申請の手続きに向かっている。来期はできる限り早めに設置稼働できるようにしたい。
動物実験センターの機能の移転は未だ十分ではないが、センターの業務に支障が起きないように現在努力をしている。グレーゾーンの実験動物の搬入や空調・給排気のバランスの崩れなど今後残る問題もあり、対策を講じなければならない。
4)山手地区一時保管室の定期的消毒
 これまで一時保管室は定期的モニタリングを行っていないので、一年に一回という考えで、全面消毒を今期実施した。研究のスケジュール上、一気に消毒を行うことができず、二期に分けて作業を実施した。ホルムアルデヒド薫蒸消毒ではなく、過酢酸および過酸化水素を用いた水溶性消毒剤噴霧を適用した。師走に完了したが、新しい消毒方法により良好な消毒成績を得た。
5)明大寺地区本館2階・新館3階のクリーン化および感染事故撲滅
 Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis, および Bordetella bronchiseptica の感染について、昨年度第一期・二期に分けて、消毒作業を行い、2008年12月末をもって終息をみた。その後も感染の広がりはなく、1年間の定期的モニタリング成績からも異状は認められなかった。一連の微生物検査成績に基づき、上記感染症の完全撲滅宣言としたい。Pasteurella pneumotropica および消化管内原虫は残り、拡散方向に進んだが、これは致し方ないと考える。今後も、気をゆるめることなく、設備や機材の整備(白衣、帽子、手袋、マスク、消毒薬、履き物等)に努めたい。ただし、定期的微生物モニタリングの協力件数が減ってきている点が気がかりではある。
6)山手地区SPF施設の清浄度レベルの確認
 国立大学法人動物実験施設協議会が示すExcellent status の項目を調べ、どのレベルまで達しているかを確認した。6か月間の調査ではあったが、Staphylococcus aureus を除き、すべての項目で陰性であることがわかった。国内のSPF施設の清浄度レベルとしては、最高レベルの状況で維持されている。特に、大学・公的研究機関のSPF施設としては申し分がなく微生物統御がなされていると判断された。黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus については、市販のSPF動物が20-70%ほど有する細菌のため、動物の導入に伴い施設に定着しているものと思われた。利用者のご協力に感謝申し上げるとともに、今後もこの高い清浄度レベルが維持できる様に努力する所存である。
 通常の定期モニタリング成績では、山手地区SPF施設はMinimum status+蟯虫、Pasteurella pneumotropica は陰性であった。山手地区部門内の実験動物では、蟯虫と緑膿菌が検出された。明大寺地区の成績については、動物実験センター、行動様式解析室および研究部門内の実験動物はカテゴリーA, Bの検査項目をクリアーしている。
7)吸入麻酔機の導入
実験動物の苦痛の軽減、従事者の労働安全の確保および実験の精度・効率の向上を目指すために、齧歯類の吸入麻酔機を導入した。現在試行段階であり、従来のバルビツレート系注射麻酔に比べ、取り扱いが良いことは確かである。来期は、吸入麻酔法の経験を多くして、データを積み重ねることを目標にしたい。
8)エレベーター・ダムウェーターの改修工事
動物実験センターの開設後、約30年が経過して、施設の老朽化がかなり目立ち始めている。とりわけ、エレベーター・ダムウェーターの障害は大きな問題となり、手直しを図り、機器の延命に努めて来た。今期マスタープランに則り、エレベーター・ダムウェーターの改修に漕ぎ着けた。事故が起こらずに済み、安堵している。今後、人が乗降できるエレベーターに変わり利便性が高まると同時に、人や物品の動線もさらに改まることが期待できる。
9)教育訓練
 麻酔および疼痛管理の教育訓練を4回に分けて開催した。中型動物(イヌ、ネコ、サル)、小型動物(ウサギ、モルモット)、両生類、魚類およびげっ歯類(マウス、ラット)と動物種ごとに分けて実施した。今後テキストとして利用できるように便宜を図る予定である。
10)その他の課題
以下の課題を検討しつつあり、非常に良い手応えを得ており、次年度以降も実施する。
1) サルの異常行動に対する監視システムの導入および解析
2) 動物福祉を目的とする脳神経系障害マウスの飼養管理方法
3) 実験動物の苦痛度およびストレス負荷状況の定量化