4 機構内研究連携

4.1 分野間連携研究事業「バイオ分子センサーの学際的・融合的研究」

2005(平成17)年度に発足した本研究事業は最終年度(5年目)のまとめの年を迎えた。バイオ分子センサーの基礎的・多次元的研究を、自然科学研究機構内の各研究所の研究者間の分野連携的な個人提案型計画共同研究を中核にして展開し、これを基礎にして全国の大学や研究所や民間研究機関、外国研究機関との学際的共同研究を進めた。そして、岡崎3研究所及び岡崎統合バイオサイエンスセンターの研究者が精力的に解析しているセンサーであるNa+センサー、温度センサー、浸透圧センサー、容積センサー、膜電位センサー、光センサー、匂いセンサー、グルコースセンサー、レドックスセンサー、侵害刺激センサーなどのセンサー膜タンパク質を中心に、FRET法、パッチクランプ法、Ca2+イメージング法、2光子レーザー顕微鏡法、免疫電顕法、動物行動解析法など多彩な技術を駆使して、これらのバイオ分子センサーの構造と機能に関する研究を分野間連携的に展開した。

生理研からは、岡田所長、井本教授、重本教授、鍋倉教授、箕越教授、富永教授がコアメンバーとなり、基礎生物学研究所 野田昌晴教授(統合神経生物学研究部門)、分子科学研究所 宇理須恒雄教授(生体分子情報研究部門)も加わって研究を推進した。研究推進のために数名の特任助教を採用した。

2009年度は、本連携研究推進の研究課題を機構内研究者(共同研究も含めて)から主に設備備品補助を目的として公募を行い、以下の16件を採択して研究を推進した。

また、本連携研究に関わる若手研究者(特任助教、博士研究員、大学院学生)の育成に必要な消耗品費、旅費の支援を目的として公募を行い、9件を採択して研究を推進した。生理学研究所計画共同研究「バイオ分子センサーと生理機能」に採択された12課題も支援した。

加えて、以下の6件を採択して研究を推進した。

2010年1月15日に岡崎カンファレンスセンターで公開シンポジウムを開催し、これまで支援した機構連携研究23課題の成果発表を行うとともに、以下の外部講師2名による特別講演を行った。

2009年8月24日28日に岡崎で開催された第20回生理科学実験技術トレーニングコース「生体機能の解明に向けてー分子・細胞からシステムレベルまでー」で、以下の3つのコースを支援した。

4.2 新分野創成型連携プロジェクト「イメージングサイエンス」

2008年度スタートした自然科学研究機構新分野創成型連携プロジェクト「イメージングサイエンス」は2009年度新局面に入った。それは機構本部直属組織として新分野創成センターが2009年4月より立ち上がり、2大研究分野の1つとしてブレインサイエンスに並んでイメージングサイエンスが取り上げられたからである。これに伴い新分野創成センター内にイメージングサイエンス研究分野運営委員会とイメージングサイエンス研究分野教授会が組織された。運営委員会の構成は以下の通り。
勝木 元也自然科学研究機構理事,新分野創成センター長
(機構外委員)
伊藤 啓東京大学分子細胞生物学研究所 准教授
岩間 尚文大同大学情報学部 教授
多田 博一大阪大学大学院基礎工学研究科 教授
難波 啓一大阪大学大学院生命機能研究科 教授
樋口 秀男東京大学大学院理学系研究科 教授
(機構内委員)
唐牛 宏国立天文台 教授
長山 好夫核融合科学研究所 教授
上野 直人基礎生物学研究所 教授
永山 國昭生理学研究所 教授
岡本 裕巳分子科学研究所 教授

教授会の構成は以下の通り。
教授(併任)唐牛 宏国立天文台 教授
教授(併任)長山 好夫核融合科学研究所 教授
教授(併任)上野 直人基礎生物学研究所 教授
教授(併任)永山 國昭生理学研究所 教授
教授(併任)岡本 裕巳分子科学研究所 教授

またイメージングサイエンス推進の研究拠点を機構横断的に作るため新分野創成センター直属の研究組織を立ち上げた。5研究所が作り出す各種イメージングコンテンツを天文台の4D2U(4次元シアター)を範にとり4次元イメージング化するクリエーター集団である。客員教授と研究職員2名を公募し現在下記の2名が着任し具体的活動を開始している。残る1名の研究職員の人事は現在進行中である。

客員教授 三浦 均 武蔵野美術大学 教授
専門研究職員 武田 隆顕

研究拠点は上記教授会構成員と一体となってイメージングサイエンスの新パラダイムを推進していく。イメージングサイエンスセンターの成果は本年度機構シンポジウムで報告される(後述)。

イメージングコンテンツを作る連携研究として2009年度は、3件のイメージング関連研究が採択された。「超高圧位相差電子顕微鏡をベースとした光顕・電顕相関3次元イメージング」(永山國昭代表、統合バイオ)、「ナノ光イメージング」(岡本裕己代表、分子研)、「レーザーバイオロジー-生命活動を理解する新しい光技術-」(鍋倉淳一代表、生理研)である。生理研に関する2研究につきその概要を以下に記述する。

●プロジェクト名:レーザーバイオロジー ―生命活動を理解する新しい光技術―
●実施体制(責任者には◎)
◎生理学研究所 教授 鍋倉淳一、生理学研究所 教授 南部篤、生理学研究所 准教授 根本知己、生理学研究所 准教授 山中章、生理学研究所 助教 田中謙二、分子科学研究所 准教授 平等拓範、基礎生物研究所 教授 渡辺正勝、基礎生物研究所 准教授 野中茂紀、岡崎統合バイオセンター 准教授 東島眞一
●目的・目標
非線形光学技術及びマイクロチップレーザー技術の生体応用により、生物個体深部における微小構造観察技術の確立、及び微小限局領域における分子動態の長期計測と物質活性導入技術の確立を行う。さらに、光感受性活性化物質を生体に導入し、レーザーを生体操作ツールとしての技術開発を行う。

●プロジェクト名: 超高圧位相差電子顕微鏡をベースとした光顕・電顕相関3次元イメージング
●実施体制(責任者には◎)
◎統合バイオサイエンスセンター 教授 永山國昭、統合バイオサイエンスセンター 助教 Danev, Radostin、生理学研究所 教授 重本隆一、生理学研究所 助教 深澤有吾、生理学研究所 助教 釜澤尚美、浜松医科大学 教授 寺川 進、千葉大学 准教授 山口正視、埼玉大学 准教授 金子康子
●目的・目標
本研究は5つの顕微鏡要素技術(ⅰ.超高圧電顕、ⅱ.位相差法、ⅲ.光顕・電顕相関法、ⅳ.3次元イメージング(トモグラフィー)、ⅴ.低温固定法)の統合により“生”状態生物試料の細胞活動全体観察とその場の局所構造高分解能立体再構成を目的としている。最初の3 年間でⅰ~ⅴ全ての要素統合は超高圧電顕(1,000kV)の装置的制約のため困難であるが、200kV 電顕によるⅱ~ⅴの統合は可能であるとの結論を得た。最終年は手法の完成と具体的生物応用を行った。

新分野創成センターのイメージングサイエンス研究分野は自然科学研究機構所属5研究所間の研究連携が順調に進んだ具体例であり、機構が科学者コミュニティーと一般社会に等分に影響を与えられる新分野である。本年度の自然科学研究機構シンポジウム(第9回)はこのイメージングサイエンスを取り上げた。3月21日東京国際フォーラムにて6件の内部講演、3件の外部基調講演、1つのパネルディスカッションが計画され、また2009年度に作成された4次元映像を中心にその意義と展望が紹介される予定である。

4.3 機構連携プロジェクト 「自然科学における階層と全体」 について

2005年度より、分子研と核融合研を中心として、機構連携プロジェクト 「自然科学における階層と全体」が進められている。2006年度以降、「プラズマ系におけるシミュレーション」 と 「生物系における情報統合と階層連結」 との 2つの副課題を設定してそれぞれの内容を分担すると共に、研究成果の報告と議論を行う全体の研究会を継続して行い全体をとりまとめるという方針でプロジェクトを推進している。生理研からは、久保教授と箕越教授がコアメンバーとして参加している。

生体機能の成り立ちを知るためには、各階層において「階層を構成する素子(エレメント)についての理解」から始め、「階層内でのエレメントの複合体化と情報のやりとりによる機能創出機構」を解明し、さらには「上位階層への連結機構」を明らかにすることが必要である。本プロジェクトはこれらの問題を体系的に議論し、また、各分野に共通する、問題の解明に必要な基盤および方法論を見いだすことを目標としている。

2009年度は、12月24日、25日に、神奈川県熱海においてシンポジウムを行った。このシンポジウムでは4つのセッションすべてをプラズマ・生物両系の共通セッションとして行い、分野を横断する討論を行った。生理研関連としては、川口泰雄教授(生理研・大脳回路論)、宮川剛教授(藤田保健衛生大、生理研・客員教授)、西成活裕教授(東大・先端研)が講演を行った。川口教授、宮川教授はどちらも、脳研究分野において下位階層の情報を統合することにより上位階層の理解を目指している。具体的には、川口教授は、多様な個々の神経細胞の特性やその入出力関係を記載することにより上位階層である神経回路が作動する原理と脳機能の成り立ちにアプローチしている。その研究成果についての紹介がなされた。宮川教授は、遺伝子破壊動物の作成とその行動解析により分子レベルから脳機能にアプローチしている。今回の発表では、種々の異なる分子欠失により共通に「未成熟海馬歯状回」ともいうべき症状が見られ、海馬歯状回の諸要因に対する脆弱性がある種の精神疾患の原因である可能性があることが示された。西成教授は、人間集団を含む種々の渋滞現象をself-driven particleの振る舞いの相転移としてとらえるユニークな研究を進めている。その発表により、これまで生物個体が階層の上限であった本プロジェクトの対象が、個体集団というより高次の階層に拡張された感があった。 同じく個体集団の階層に関して、西森拓氏(広島大・院数理分子生命理学)は、アリの集団行動への数理モデルによるアプローチを紹介した。また、柳田敏雄教授(阪大・院生命機能)は、「ゆらぎと生命機能」と題した講演において、生命がゆらぎを利用することにより驚異的な省エネルギー化をはかっていること、また、種々の決定のプロセスにもゆらぎを有効利用していることを発表した。その他の講演者と講演タイトルのリストは資料編に掲載した。