5 多次元共同脳科学推進センター

脳科学は分子から細胞、神経回路、個体などの多層からなる幅広い階層を対象としており、また、専門分野の枠組みとして従来の生命科学の範疇から情報学やロボティックス、心理学や経済学などの様々な分野との連携、融合研究が活発になってきている。このように知識の統合が必要とされてきている脳科学研究を我が国において推進するため、多次元共同脳科学推進センター(以下、多次元脳センター)では、このような全国の脳科学に関わる研究者とネットワークを組みながら、有機的に多次元的な共同研究を展開する場を提供し、また、異なる複数の視点から研究に取り組める若手人材育成を支援することを使命とし、活動を行っている。

2009年度においては、下記の事業等を行った。

  1. 流動連携研究室設立とサバティカル的制度を利用した共同研究体制の始動
  2. ワークショップ「脳科学教育の現状と理想 -バーチャル脳科学専攻設立を目指して-」の開催
  3. 多次元ブレインストーミング「物質と情報をつなぐ20年後の脳科学」開催
  4. 多次元トレーニング&レクチャー「運動制御回路の構造と機能」の実施

まず、21年4月に多次元脳センターに新しく流動連携研究室が開設された。この流動連携研究室では、研究テーマの転換を図ろうとする研究者や新たな技術を習得して研究の展開を図ろうとする研究者を支援するため、サバティカル制度等を活用し長期間(3ヶ月から1年)生理学研究所に滞在して共同研究を実施する客員教授・客員准教授、及び、客員助教の募集を開始した。本年度は旭川医科大学の准教授1名がこの制度を活用し、霊長類のシステム脳科学に関する共同研究が実施された。

9月にはワークショップ「脳科学教育の現状と理想 -バーチャル脳科学専攻設立を目指して-」を第32回日本神経科学大会サテライトシンポジウムとして開催した。現在、国内で脳科学に関連した若手育成を活発に実施している4ヵ所の教育研究拠点(北海道大学大学院医学研究科、東北大学大学院医学系研究科、玉川大学脳科学研究所、東京大学大学院理学系研究科)から現状と問題点について話題提供いただき、多次元脳センターからみた脳科学教育の将来像の提案とあわせて、全国的なネットワークの可能性について議論を行った。

2008年度のブレインストーミングをうけて、将来の脳科学研究の大きな方向性を探るため、12月に多次元ブレインストーミング「物質と情報をつなぐ20年後の脳科学」を開催した。情報科学などの工学系から、人文・社会科学系までの幅広い専門を有する参加者86名の参加者が、既存の枠にとらわれない学術としての脳科学の将来像について活発な討議を行った。第Ⅶ部4.1参照

1月には、多次元トレーニング&レクチャー「運動制御回路の構造と機能」を実施し、全国から大学院生や若手研究者から10名を選考し、1週間の講義と実習を行った。内容としては、運動制御に関わる神経回路に焦点を当てヒトの脳から霊長類やラット、マウスの脳の解剖や機能解析の実習及び講義を行った。このような系統的に脳の構造と機能についての理解を深める実習・講義はユニークな取組であり、継続・拡大して同様の企画を実施することが極めて強く要望された。第7部4.2参照