7 大学院教育・若手研究者育成

7.1 概要

生理学研究所は総研大生命科学研究科生理科学専攻の基盤機関として、5年一貫制および後期博士課程(3年、ただし医学博士の場合は4年)における大学院教育を行っている。2009年の在籍者は5年一貫制が合計33名、後期博士課程が合計26名である。このほか他大学より、毎年10名以上の脳神経科学研究や医学生理学研究を志す大学院生を特別共同利用研究員として受け入れている。

また生理学研究所は、若手研究者の育成の場でもあり、生理学研究所の博士研究員、各種大型グラントによる博士研究員等合わせると約70名の博士研究員が在籍している。

7.2 5年一貫制

5年一貫制の導入後6年が経過するが、この間、生理科学専門科目や神経科学や細胞感覚学などのe-learning科目を新たに追加し、修士レベルの教育の充実を図ってきた。しかし入学者のバックグラウンドが多様で必ずしも生物系の基礎知識を習得していないことや一般的な知識レベルの低下などから、現在でも研究者を養成するという、総研大の目的に沿う基礎教育が十分達成できているとは言い難い。また、最近は学生の講義出席率の低下が認められる。このような状況を改善するために、今後は基礎生物学、遺伝学、数理統計学など、生理科学の基本となるべき基礎科目の充実とそれらを含めた共通専門科目の必修化、および単位認定についての出席率条件化などを進めることを検討している。

また生理科学専攻の定員は現在5年一貫制が年間3名、後期博士課程が年間5名であるが最近は、5年一貫制の受験者数が後期博士課程受験者数を上回るようになってきており、定員の見直しが今後必要であると考えられる。また少子化や各大学の学生囲い込みに伴う受験者の絶対数の低下が認められ、生理科学専攻でも今後一層の学生に対する広報や修学条件の改善が必要である。

7.3 受験者増加のための方策

最近減少傾向にある受験者数を増加させるために、所内に「大学院受験者数増加方策検討委員会」を設置し様々な対策を練ってきた。例えば今年度は例年行っている岡崎での大学院説明会に加え、秋に名古屋での大学院説明会も行い、この説明会に来訪した複数の学生が実際に受験している。また春から秋にかけて国内外の生理科学専攻受験希望者に対して体験入学を実施している。旅費と滞在費をサポートしたうえで1週間から約2カ月の間、実際に生理研での研究活動を体験していただき、入学の勧誘を行った。入学者への経済的サポートとしては、来年度から大学院生へのRA雇用による支給を一名当たり年間80万円に引き上げるなどの対策を取る予定である。

これに加えて独自に設置している生理学研究所奨学金によって5年一貫制の初年度の学生に対して年間36万円の奨学金を支出している。また特に優秀な学生に対するインセンティブを高める目的で後期博士課程の1位合格者に対しては、初年度の入学金および授業料全額に相当する奨学金を支出している。さらに今年度は顕著な業績を挙げた大学院生を顕彰する生理学研究所若手科学者賞を新たに設けた。受賞者には、生理学研究所の博士研究員としてのポジションが一定期間保証される。

7.4 国外からの大学院生リクルート

これら国内の大学院生リクルート促進に加え、国外からも優秀な大学院生をリクルートする必要がますます高まっている。生命科学研究科では国費外国人留学生(研究留学生)の優先配置を行う特別プログラムが現在実施されており、生理科学専攻では毎年2 - 3名の留学生を受け入れている。これまでの3年間で特別プログラムによって生命科学研究科に配置された国費留学生9名のうち5名が生理科学専攻で学んでいる。

これらの国費留学生のほか、生理学研究所奨学金により極めて優秀な私費留学生に対する国費留学生相当のサポートおよび優秀な私費留学生に対する年間60万円および授業料の半額に相当する奨学金を支出し、勉学、研究活動に専念できるよう配慮している。また特別プログラムではすべて英語による教育を行う事になっており、生理学専門科目の講義は原則として英語で行っている。またe-learningについても英語化が進んでおり、すべての科目について英語での学習が可能となるよう、教材の拡充が進められている。また留学生の日本での生活がスムーズに行えるよう、上級生のチューターによるサポートや人的交流促進のための催しも数多く行われている。

今後は、生理学研究所で行われている最先端の研究活動とともにこれらの留学生に対する厚いサポートについて英語ホームページを通じて広く世界に発信し、より多くの学生の受験を促進していくことが必要である。また学術協定を締結している海外の大学からの優秀な学生の推薦依頼やアジアの一流大学に的を絞った海外でのリクルート活動を行い、さらに多くの優れた留学生を集める。これらの活動を通じて、来年度で終了する特別プログラムのさらなる拡充を目指す。

7.5 若手研究者の育成

一方、大学院を修了した若手研究者の育成については、従来より各部門におけるポスドク雇用を研究所としてサポートしてきた。また昨年度より若手研究者の独自のアイディアに基づく研究をサポートすると同時に外部研究費獲得を支援するために、生理学研究所内での若手研究者によるプロジェクト提案の申請募集を行った。それらの提案については発表会形式による審査・指導を行い、各提案に対する評価に基づく1件あたり平均80万円程度の研究費サポートを実施している。この申請には同年度に採択されなかった科研費の応募書類をそのまま使うことができ、科研費申請書の書き方や研究戦略・戦術の改善を指導する上で大きな効果があった。また外部の若手研究者の育成についても昨年度から多次元共同脳科学推進センターを発足させ、各種の講演、モデル講義、実習等により広範囲に分野横断的な若手研究者の育成を図っている。これらの活動を通じて若手研究者を育成する拠点としての生理学研究所の機能は一層高まってきている。