4 機構内研究連携

4.1 新分野創成型連携プロジェクト「イメージングサイエンス」

2009年4月より機構長直属組織として新分野創成センターが立ち上がり、2年目を迎えた。ブレインサイエンスとイメージングサイエンスの2つの研究分野がある。新分野創成センター内のイメージングサイエンス研究分野運営委員会とイメージングサイエンス研究分野教授会議は昨年同様以下のとおりである。

 勝木元也 自然科学研究機構理事,新分野創成センター長
(機構外委員)
 伊藤啓 東京大学分子細胞生物学研究所 准教授
 岩間尚文 大同大学情報学部 教授
 多田博一 大阪大学大学院基礎工学研究科 教授
 難波啓一 大阪大学大学院生命機能研究科 教授
 樋口秀男 東京大学大学院理学系研究科 教授
(機構内委員)
 唐牛宏 国立天文台 教授
 長山好夫 核融合科学研究所 教授
 上野直人 基礎生物学研究所 教授
 永山國昭 生理学研究所 教授
 岡本裕巳 分子科学研究所 教授

教授会議は上記機構内委員で構成されている。

新分野創成センター直属の研究拠点は以下の3名で構成されている。

 客員教授 三浦均 武蔵野美術大学 教授
 専門研究職員 武田隆顕
 専門研究職員 木森義隆

研究拠点は、上記教授会議構成員と一体となってイメージングサイエンスの新パラダイムを推進していく。具体的には各研究所での研究の中で作成されたイメージングコンテンツを4次元イメージング化すること、イメージの定量解析について各研究所との共同研究を行うことである。

イメージングコンテンツを作る連携研究として2010年度は、4件のイメージング関連研究が採択された。いずれもイメージングサイエンス研究拠点との共同研究が行われている。以下その要約である。

  1. 生体イメージングのためのマイクロ波トモグラフィーの開発
    核融合科学研究所・教授・長山好夫 他3名
    近年、マイクロ波トモグラフィーが乳がん診断法として注目を集めているが、新たなイメージング数理科学開拓の原動力と期待されている。このイメージング技術は従来のX線CTとは全く異なった物理量を画像化するものであり、医療だけでなく物質や生物の新たな研究手法となることが期待される。
  2. 水の結晶化過程の分子論的機構解明とその三次元動画の作成
    分子科学研究所・教授・斉藤真司 他2名
    本課題では、最も身近な相転移現象である水から氷への結晶化過程について、分子シミュレーションを用いて液-固転移の変化過程を追跡およびその解析を目指すとともに、その可視化を目的とする。
  3. 電子線トモグラフィー並びに単粒子解析による3次元イメージング・ソフトウェア開発
    大同大学・特任教授・岩間尚文(新分野創成センター(IS)運営委員) 他9名
    生物・医学・材料研究において大きな関心を集めている電子顕微鏡による3次元画像再構成問題について、画像解析(パターン情報処理および像再構成)に関する独自の研究実績をベースにして新規の画像合成法ならびに画像表現法を開発する。
  4. Mathematical morphologyに基づく宇宙メダカの病理解剖学的画像解析技術の開発
    基礎生物学研究所・特任准教授・亀井保博 他3名
    近年、画像からスポット抽出技術(形状による抽出)と、そこに含まれる大きさ、形、輝度(濃度)値を数値化することで対象画像の比較検討を行う手法が開発されてきた。この手法を駆使して経験ではなく「画像の数値化」によって組織標本の正常・異常を判定する技術の開発を本研究課題の目的とする。

2010年度は、シンポジウムについては、主催はなく、協力シンポジウムが2件あった。1つは2010年11月20日東京秋葉原で開催された大学共同利用機関シンポジウム2010「万物は流転する」への協力で永山教授(生理研)がイメージングサイエンスの成果、4次元イメージング映像を“4次元イメージングで観る新しい自然像”の題目で講演上演した。もう1つは2010年12月28日核融合研で開催された2010画像科学シンポジウムで3次元画像化技術について5研究所及び外部共同研究者を招き画像3次元化の技術(CT像再構成の数理、位相回復と情報科学、CTによる広視野補償光学系、コンピュータビジョン技術の概説、画像認識の概説)と実践が紹介、議論された。

特にこのシンポジウムがきっかけとなり、2011年度の新学術領域研究への応募「自然科学分野画像科学の創成」が行われたことは特筆に値する。5研究所イメージングサイエンス運営委員会委員を中心に全国に組織を拡大し、画像科学(イメージングサイエンス)という新学術分野を作る意気込みを見せた。

4.2 脳神経情報の階層的研究

本年度から、機構の中期目標の1つとして開始した「自然科学における国際的学術拠点の形成」プロジェクトの一つとして「機能生命科学における揺らぎと決定」とともに「脳神経情報の階層的研究」を生理研が中心となり実施することになった。この研究の概要を以下に記載する。

生理研は人や各種モデル動物を用いて分子—細胞—回路—脳の階層をつなぎながら脳神経系の情報処理過程について研究を行っている。しかし、階層間のギャップを埋めるほどに異なる手法間の相関はまだ十分にとれていない。本提案では階層レベルをシームレスにつなぐ実験的手法を開発し、脳神経情報過程を、脳の構造と機能の相関として明らかにする。これらの研究は、新たな手法の開発や若い自由な発想を取り入れた体制が必要とされる。とくに、生理学研究所とアジアを中心とした各国(中国・韓国・インド・ウズベキスタンなど)の大学との間に学術交流協定を締結しており、日本がアジア内で指導的立場になることが求められており、生理学一般を含めて国際学術拠点形成を行う。

開始にあたって、生理研のコアメンバー等から本研究課題の趣旨に合致した研究公募を行い、以下の部門で研究を開始した。また、参画研究部門では東南アジアからの研究者の受け入れを行い、国際的な研究交流を実施した。2010年2月23日に本研究課題参画者による研究成果報告および、所外研究者による招聘講演を行った。

4.3 機能生命科学における揺らぎと決定

本年度より、機構「自然科学における国際的学術拠点の形成」のひとつとして、「機能生命科学における揺らぎと決定」を生理研が実施することとなった。その目的は以下の通りである。

ヒトの意思決定や進化をイメージすると「安定・平衡を保つこと」と「時折変わる力を持つこと」の両方が重要である。「揺らぎ」を用いた曖昧な決定プロセスは、一見いい加減で無駄が多いもののように見えて、実は、「安定」と「時折の変化」の両方を可能とする有効なシステムであると考えられる。このプロジェクトでは、単分子、多分子相互作用系から細胞系、生体システムまでの世界を「揺らぎと決定」というキーワードで捉え、生命の各階層に存在する揺らぎを知り、また揺らぎの果たす役割を明らかにすることにより、機能生命科学における「決定とその跳躍」に関する原理を探る。これによって、生体機能分子の揺らぎとそれらの相互作用がいかにして複雑な生命現象を生み出し、そして究極的にはヒトの意思の創発をもたらすのかを理解することを目指す。

開始にあたって、今年度はまず、コアメンバー等からこのプロジェクトの趣旨に合致する研究課題を応募し、以下の9つの研究課題を採択した。外国人研究職員を含む外国人研究者の参加を得て、分子からシステムまでの機能生命科学の多様な観点から「揺らぎ」に関する研究を推進している。また、2011年2月23日には成果発表および情報交換の会の開催し、活発な意見交換があった。プログラムを第VI部 機構内連携に掲載。

各プロジェクトの課題とコアメンバー

脳神経情報の階層的研究    
「顔認知」を媒介とする人間の社会的コミュニケーションの研究 感覚運動調節研究部門 柿木教授
機能的コネクトミクスによる脳神経情報の階層的研究 脳形態解析研究部門 重本教授
新皮質GABA作働性ニューロンの階層的構成 大脳神経回路研究部門 川口教授
脳神経情報の階層的研究:複数個体同時行動計測並びに神経活動計測による個体間相互作用の神経基盤解明 心理生理学研究部門 定藤教授
選択的神経経路伝達遮断法の導入による視覚-運動変換過程の解析 認知行動発達機構研究部門 伊佐教授
ヒルベルト位相差電子顕微鏡によるチャネルリポソームの膜電位観察 ナノ形態生理研究部門 永山教授
大脳皮質の活動依存的再編機構の解析 神経分化研究部門 吉村教授
大脳皮質感覚野におけるシナプスターンオーバーと末梢入力による制御機構の解明 生体恒常機能発達機構研究部門 鍋倉教授
機能生命科学における揺らぎと決定    
糖タンパク質糖鎖の揺らぎと機能の多様性 分子神経生理研究部門 池中教授
シナプス伝達の揺らぎに関する実験的・計算論的研究 神経シグナル研究部門 井本教授
膜機能蛋白の状況依存的な構造と機能の変化 神経機能素子研究部門 久保教授
あいまい性をもつ視覚情報の脳内処理メカニズム 感覚認知情報研究部門 小松教授
視床下部AMPK—脂肪酸代謝活性の揺らぎと食物選択行動に関する生理学的研究 生殖・内分泌系発達機構研究部門 箕越教授
大脳基底核情報処理における揺らぎの機能的意義 生体システム研究部門 南部教授
シナプス伝達制御における揺らぎと決定 生体膜研究部門 深田教授

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