5 多次元共同脳科学推進センター

脳科学は分子から細胞、神経回路、個体などの多層からなる幅広い階層を対象としており、また、専門分野の枠組みとして従来の生命科学の範疇から情報学やロボティックス、心理学や経済学などの様々な分野との連携、融合研究が活発になってきている。このように知識の統合が必要とされてきている脳科学研究を我が国において推進するため、多次元共同脳科学推進センター(以下、「多次元脳センター」)では、このような全国の脳科学に関わる研究者とネットワークを組みながら、有機的に多次元的な共同研究を展開する場を提供し、また、異なる複数の視点から研究に取り組める若手人材育成を支援することを使命とし、活動を行っている。

2010年度においては、下記の事業を行った。

  1. 流動連携研究室を活用したサバティカル的制度を利用した共同研究の実施
  2. 脳科学系学会大会と連携した異なる専門を対象とした若手研究者へのレクチャーの開催
  3. 自然科学研究機構新分野創成センターとの連携による脳科学の将来の重要分野を探るブレインストーミングの実施

「多次元脳センター」では、研究テーマの転換を図ろうとする研究者や新たな技術を習得して研究の展開を図ろうとする研究者を支援するため、サバティカル制度等を活用し長期間(3ヶ月から1年間)生理学研究所に滞在して共同研究を実施する流動連携研究室の客員教授・客員准教授、及び、客員助教を募集した。本年度は自治医科大学分子病態治療研究センターより客員准教授として1名、北海道大学電子科学研究所より客員助教として1名がこの制度を活用し、共同研究が実施された。

8月には、日本神経科学学会、日本神経化学会、日本神経回路学会の合同大会であるNeuro2010と連携レクチャー「In vivo細胞機能計測・操作技術」を開催した。本連携レクチャーでは、Neuro2010のポスター発表などをその専門外の若手研究者が理解し質問等が行えるようにする講義と見学を実施した。全国から選考した受講者18名に対し、学会直前の2日間に講師11名による、最近活発に研究が拡大している動物個体内の神経細胞活動の計測や操作に関わる講義を行った。

また、年間を通して「多次元脳センター」と自然科学研究機構新分野創成センターの連携強化を進めた。この中で、これまで「多次元脳センター」で実施したブレインストーミングから抽出された次の視点から議論を発展させるため、全国のインタビュー候補者、ブレインストーミングでの話題提供者等のリストを作成し、意見聴取を開始した。

ブレインストーミングの視点

  1. 脳活動の自発性、安定性、誤り訂正機能
  2. 特定の機能を担う神経回路を対象とする網羅的解析
  3. 脳の機能「ユニット」間を繋ぎ制御する仕組み
  4. ヒトが持つ独自の脳機能(言語など)の出現
  5. 脳・神経活動の大規模データの取得・解析・評価手法
  6. 神経細胞の精密制御技術

一方で、ゲノム情報を脳の構造画像情報と組み合わせて解析する「認知ゲノミクス」をテーマに、精神科医、霊長類を対象とした生理学、行動生態学、生殖工学に関わる研究者、及び、ゲノム情報科学に関わる研究者等が議論するブレインストーミングを開催した。


Copyright © 2010 NIPS