10 研究に関わる倫理

10.1 ヒト及びヒト由来材料を対象とする研究に関する倫理問題

生理学研究所ではヒト脳機能の理解を目指しているので、動物実験ばかりでなく、ヒトやヒトから得られた材料を対象とした研究が行われている。動物実験と同じくヒトに関する実験も、所内及び所外の専門家で審査・承認された上で実施されている。このために、二つの専門委員会が置かれている。

一つは、ヒト由来材料の遺伝子解析実験を審査する、岡崎3機関共通の生命倫理審査委員会である。文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省から出された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成13年3月)に対応して作られた。岡崎3機関でヒトゲノム・遺伝子解析に関する研究を行う場合には、所定の計画書を提出し、この委員会の審査を受ける。委員には内部の研究者の他に、機構外部から医師、弁護士、学識経験者の3人の方に入っていただいており、女性の委員の方もおられる。岡崎3機関でヒトゲノムを扱う場合は、試料は匿名化されて外部の機関から送られてくるので、元の機関で実験手続きが的確に行われているかと、そこから岡崎3機関への移送許可が取られているかが審査の要点となる。

10.2 臨床研究に関する倫理問題

生理学研究所内部の倫理委員会は、生理学研究所で活発に行われているヒト脳活動研究の実験計画を審査している。審査対象実験の主なものは、脳磁計、磁気共鳴画像装置による脳イメージングである。この委員会では、遺伝子解析以外の、ブレインバンク等から提供される脳の標本等を用いた実験審査も行っている。生理学研究所倫理委員会には、外部委員として岡崎市医師会会長の先生に、女性の委員として吉村教授に入っていただいている。本年度は、臨床研究に関する講習会を2010年11月26日に開催した。

10.3 研究活動上の不正行為の防止

自然科学研究機構では、2008年2月に「大学共同利用機関法人自然科学研究機構における研究活動上の不正行為への対応に関する規程」及び「大学共同利用機関法人自然科学研究機構における研究活動上の不正行為への対応に関する規程」を作成して、不正行為に対処することになった。具体的には、研究活動上の不正行為に関する通報窓口を各研究所に設置するなどしている。告発が起きた場合には、自然科学研究機構不正防止委員会において、専門家を入れて慎重に調査することになっている。今年は、幸いなことに、不正行為が疑われる事例は起きていない。今後も、研究を行う意義について各人が自覚を持つことが大切だと考えられる。

10.4 研究費不正使用の防止

生理学研究所の研究は、多くの研究費補助金によって支えられている。その多くは税金によりまかなわれている。大学共同利用機関法人自然科学研究機構における競争的資金取扱規程を作成し、不適切な研究費使用が行われる事を事前に防ぐよう周知徹底している。具体的な研究資金の不正使用防止の仕組みとして、3年前に、新たに物品検収室を設置し、全ての納入される物品を第三者である事務官がチェックするシステムを作り、検収を行なっている。実質的に、研究費の不正使用ができないシステムを確立し、効果を上げている。

10.5 ハラスメントの防止

セクシュアル・ハラスメントの防止ために、岡崎3機関のセクシュアル・ハラスメント防止委員会が設置されており、統合バイオの吉村教授が委員長を務め、生理研の定藤教授、深田(優)准教授が委員として参加している。生理研内では、研究部門およびセンター等の各部署にセクシャル・ハラスメント防止活動協力員を配置するとともに、明大寺地区および山手地区に各1名の相談員を設置している。また、セクシャル・ハラスメント防止活動として、生理研に新規採用となった全職員に対し、ハラスメント防止のためのパンフレットを配布し、セクシャル・ハラスメント防止活動説明会を実施した。また、セクシャル・ハラスメントに限定せず、アカデミックハラスメントとパワーハラスメントも含めたハラスメントの防止研修会を、外部講師を招いて年2回行なうこととした(第1回研修会講師、広島大学ハラスメント相談室長、横山美栄子氏、第2回研修会講師 吉野太郎氏)。


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