12 基盤整備

研究所の研究基盤には様々な施設・設備があり、それらの設置、保守、更新にはいずれもかなりの財政的措置を必要とするため、基盤整備の計画は長期的な視野をもって行われなくてはならない。しかし、特に最近は財政も逼迫し、研究の進歩にともなった施設整備が十分に進められなくなってきている。

12.1 中長期施設計画

生理学研究所では今年度、研究を進める方向性として示された研究テーマの柱が5つから6つに、研究対象の階層も6層に改められた。これらの研究方針に沿うように施設整備に取り組んでいる。今年度は「遺伝子改変動物及び様々な病態生理学的状況に置ける実験動物の代謝、神経活動を、in vivo において解析し、標的遺伝子、タンパク質の機能を明らかにする」ことを目的に「代謝生理解析室」が設置された。さらに、「社会脳研究に向けたヒトの社会的相互作用時における神経活動抽出」のためのDual-fMRI装置の整備を行った。今後、「4次元脳・生体分子統合イメージング法の開発」のために、神経情報のキャリアーである神経電流の非侵襲的・大域的可視化を行う。またサブミリメートル分解能を持つ新しいfMRI 法やMEG 法(マイクロMRI法/マイクロMEG 法)の開発を中心に、無固定・無染色標本をサブミクロンで可視化する多光子励起レーザー顕微鏡法を開発し、レーザー顕微鏡用標本をそのままナノメーター分解能で可視化することができる極低温位相差超高圧電子顕微鏡トモグラフィーを開発する。これらの3次元イメージングの統合的時間記述(4次元統合イメージング)によって、精神活動を含む脳機能の定量化と、分子レベルからの統合化、およびそれらの実時間的可視化を実現する。これらの開発に合わせて、脳・人体の生体内分子イメージングの一大センターとなるような施設の拡充も必要である。

12.2 図書

2010(平成22)年度に生理研では約80編の外国図書・雑誌の購読契約をしている。現在の契約は一部出版社に関しては、契約雑誌以外も閲覧できるフリーダムコレクション契約を総研大が追加支出して結んでいる。契約金額自体が毎年5--10%上昇しているため、今後エルゼビア社とのフリーダムコレクション契約を総研大図書費では維持が難しくなっている。そのため、総研大として契約している雑誌のみダウンロード毎の課金なしに閲覧出来る購読形態に2011(平成23)年度から移行することが決定し、2010年度には2011年度以降にエルゼビア社と契約する雑誌の選定を行ってきた。総研大で1専攻が購読契約を結ぶと全専攻で閲覧できるため、重複購読雑誌の排除にむけて各専攻と調整を行うととともに、生理科学専攻(生理研)における近年の各雑誌へのアクセス状況、および各研究室における研究の専門性に基づく購読希望雑誌の調査を行い、2011年度に生理研で購読契約を結ぶ雑誌の大幅な改訂を行った。2011年度以降は、総研大が購読契約を結んでいない雑誌の閲覧については、1ダウンロード毎に料金を支払うことになる。料金については現在、総研大・生理研およびエルゼビア社と交渉が行われている。今後、他出版社から発行されている科学雑誌の購読料も上がることが予測されており、今後も購読雑誌の選定を行うことが必要となる可能性がある。

12.3 電子顕微鏡室

電子顕微鏡室は、生理学研究所と基礎生物学研究所の共通実験施設として設置され、各種電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、生物試料作製のための実験機器、写真処理・スライド作成に必要な機器が設備され、試料作製から電子顕微鏡観察、写真処理・作画までの一連の工程が行える施設である。明大寺地区(共通施設棟Ⅰ地下電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が2台、走査型電子顕微鏡が1台あり、共焦点レーザー顕微鏡(正立)が1台ある。山手地区(山手2号館3階西電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が7台(内 電子顕微鏡室所有の電子顕微鏡は2台)設置され、研究目的に応じて利用できるようになっている。

電子顕微鏡室の変更点としては、山手地区電子顕微鏡室の透過型電子顕微鏡JEM1010には新たに高性能CCDカメラが導入され、これまでJEM1010に設置されていたCCDカメラは明大寺地区のJEM1200EXに設置された。これにより、電子顕微鏡室所属のすべての電子顕微鏡にCCDカメラが装着された。

電子顕微鏡の利用率については、JEM1010付属のCCDカメラの性能向上により、当機の利用率が格段に上がった。他の機器に関しては例年どおりである。

電子顕微鏡室機器の状況としては、明大寺地区JEM1200EXに関しては保守契約解約後、コンプレッサーの異常、電磁弁の故障、ゴニオメータの故障、JEM1010より移設したCCDカメラの故障等の不具合が立て続けに発生し、その対応を行った。現在はCCDカメラの修理を除いて正常に稼動中である。その他の機器に関しては大きな修理等は発生していない。

電子顕微鏡室の問題点としては概ね前年同様であるが、山手地区のJEM1010に高性能CCDカメラ(2000×2000ピクセル以上)が装着されたため、写真フィルムの現像の頻度がかなり低下するとともに、電子顕微鏡画像のデジタル化が容易になった点などの改善点も見られた。しかし、これにより山手地区と明大寺地区の電子顕微鏡使用環境に大きな差異が生じてしまった。明大寺地区にも同等程度のCCDカメラの装着が望まれる。さらに可能であれば新しい透過型電子顕微鏡の導入も強く望まれる。

電子顕微鏡室の活動としては、前年同様に職場体験の受け入れ、電子顕微鏡室所有機器のマニュアル作成を行うとともに、本年度は透過型電子顕微鏡講習会を2回に渡って開催し、電子顕微鏡の試料作成から観察までの一連の作業の実習を行った。こちらに関しては外国人研究者の受け入れや、電子顕微鏡に関する最新技術の紹介等を加えるなどして更なる充実を図ってゆきたい。

12.4 機器研究試作室

機器研究試作室は、生理学研究所および基礎生物学研究所の共通施設として、生物科学の研究実験機器を開発・試作するために設置された。当施設は、床面積 400 m$^2$で規模は小さいが、生理学医学系・生物学系大学の施設としては、日本でも有数の施設である。最近の利用者数は年間延べ約1,000人である。また、旋盤、フライス盤、ボール盤をはじめ、切断機、横切盤等を設置し、高度の技術ニーズにも対応できる設備を有しているが、機器の経年劣化を考慮して、今後必要な更新を進めていく必要がある。

最近では、MRIやSQUID装置用に金属材料を使用できない装置や器具も多々あり、樹脂材料や新素材の加工への対応に迫られ、情報のあまりないエンジニアリングプラスティック等についての特性についても調査を行う必要がある。

しかし、技術職員数は近年非常に限られているため、1996(平成8)年4月以降は技術職員1人で研究支援を行っており、十分に工作依頼を受けられないという問題を抱えている。そこで、簡単な機器製作は自分でと言う観点から、『ものづくり』能力の重要性の理解と機械工作ニーズの新たな発掘と展開を目指すために、当施設では、2000(平成12)年から、医学・生物学の実験研究に使用される実験装置や器具を題材にして、機械工作の基礎的知識を実習主体で行う機械工作基礎講座を開講している。これまでに200名近い受講があり、機器研究試作室の利用拡大に効果をあげている。2010(平成22)年度も、安全講習とフライス盤及び旋盤の使用方法を主体に簡単な器具の製作実習を行うコースとCADコースを開講し、合わせ24名が参加した。講習会、工作実習や作業環境の整備の成果として、簡単な機器は自分で製作するユーザーか多くなり、ここ数年事故も起こっていないことが挙げられる。

また、所内のユーザーだけでなく、生理学研究所が実施している生理科学実験技術トレーニングコースにも「生理学実験のための電気回路・機械工作・プログラミング(生体アンプとバスチェンバーの作製)というテーマで参加し、4名の受講者を受け入れた。さらに、生理学研究所広報展開推進室が進めるアウトリーチ活動にも積極的に協力し、一般市民向けデモンストレーション用機材の開発も行っている。

12.5 ネットワーク管理室

インターネット等の基盤であるネットワーク設備は、研究所の最重要インフラ設備となっている。ネットワーク設備の管理運営は、岡崎3機関の岡崎情報ネッワーク管理室を中心に、各研究所の計算機室が連携し、管理運営に当たっている。生理研では情報処理・発信センター ネットワーク管理室の技術課職員2名が、ネットワークの保守、運用などの実際的な業務を担当している。

ネットワークのセキュリティに関しては、岡崎3機関で共通で、接続端末コンピュータの管理、ファイアウォールの設置、アンチウイルスソフトの配布、各種プロトコルの使用制限などの対応をとっている。下記が従来からの問題点で、機器、設備に関しては今年度の補正予算により改善される予定であるが、人員に関しては引き続き増強が必要である。

(1) ネットワークの増速ができない。PCは通信速度1 Gbps対応にもかかわらず、提供しているネットワークは100 Mbpsで10分の1の速度にしか対応していない。2009年度末に1 Gbps対応のエッジスイッチに内部措置で更新したが、エッジスイッチのアップリンク速度は1 Gbpsのままでスイッチ間の転送速度がボトルネックとなっている(2011年度に更新予定)。別に1995年度に導入した100 Mbpsまでしか保証できない情報コンセントやLANケーブルの交換工事が必要であるが、規格を超えた運用を行っている(2011年度に更新予定)。

(2) 8年間24時間運転してきたネットワーク機器の故障率の増加(2011年度に更新予定)。

(3) 無停電電源装置の電池寿命により瞬時停電に対応できない(2011年度に更新予定)。

(4) ハードウェア、ソフトウェアのメーカーサポート打ち切りを受け、サービスを停止しないように内部措置にて更新を行っている。
2006年度打ち切り:AntiVirus、ネットワーク監視ソフト(2007年2月に更新)
2007年度打ち切り:メールサーバ等ワークステーション(2007年度末に更新)
2008年度打ち切り:ファイアウォール機器(2008年度10月に更新)
2009年度打ち切り:基幹ノード装置(2009年度末に更新)

(5) 新旧機器の協調的運用による複雑化したネットワークのため、保守作業は増加し、同時にネットワークの停止が多発している。

(6) ネットワークインフラや情報量の拡大、virusやspamなどの脅威の増加、これらの対応機器導入等による運用人員不足。2009年度末には新たに総合研究大学院大学より遠隔講義システムとセミナー配信システムを導入し遠隔講義を開始したが、人員は確保されておらず運用人員不足は深刻化している。

12.6 老朽対策

明大寺地区には実験研究棟、超高圧電子顕微鏡棟、共通棟施設Ⅰ(電子顕微鏡室)、共通施設棟Ⅱ(機器研究試作室)、動物実験センター棟、磁気共鳴装置実験棟がある。これら棟は築後28年を越え、建物、電気設備、機械設備、防災・防火設備も劣化が進み、大型改修または設備の更新が必要になっている。しかし、その経費の確保が難しく、事故や故障への一過性の処理対応に終始しており、その処理対応や今後の課題は次の通りである。

(1) 建物全般:
建物に関わることでは、地震に対する耐震補強と雨水の浸水、漏水がある。前者は、岡崎3機関の耐震診断調査の結果から、明大寺地区実験研究棟がその対象であり、岡崎3機関・耐震補強計画が立てられ、順次進められる。今年度分子研実験棟の耐震改修工事は完了した。続いて2011(平成23)年度から2年間にわたって生理学研究所の耐震改修が行われることとなった。耐震改修は、耐震工事とともに老朽化した配管等を取替える等の大がかりな工事であり、研究室を一時的に移転することが必要である。動物飼育室や研究実験室の問題もあり、耐震改修工事を行うとなると期間中のスペース確保が大きな課題となる。後者については、今年も、台風ばかりでなく激しい降雨の後に実験研究棟の実験室や廊下で浸水、漏水が多数見られた。地下通路や窓枠から雨降りのたびに漏水が見られるところもあり、その都度対応している。建物劣化によるこうした問題は今後も頻発が懸念され、その場合の経費の確保が引き続き問題となっている。

(2) 電気設備:
電気設備においては、施設課が担当する研究所等の基盤設備として実験棟地階変電設備の更新工事、照明設備老朽化と省エネ対策のための工事、地デジ放送対応の配線工事などが挙げられ、その必要性、重要性、優先度を考慮して順次計画的に進められている。さらに、特高受変電設備の老朽化が大きな問題としてあげられる。これについても、計画的な対策が必要である。実験研究における重要な設備として、停電時に稼働する緊急用電力供給設備としての非常用パッケージ型発電機がある。非常用電力は、研究試料を保管する冷蔵庫や温度に影響されやすい実験動物の空調などに使用される。近年、老朽化により発電機が故障したため、オーバーホールして現在も稼働させている。発電機が古いため、いつまた再故障が起きてもおかしくない状態であり、近く更新される予定である。今年度も引き続き、非常用パッケージ型発電機に接続されている機器の調査を行い、発電機に過負荷をかけないように適正な運用を図った。

(3) 機械設備:
機械設備の経年劣化が進んでいる。各実験室には、空調機用の冷却水配管や水道管が引かれている。今年も、水道管や冷却水配管からの水漏れが発生したが、応急処置で対応した。配管の交換工事は相当な経費を必要とするため、当面は漏水が置きた場所での一時的対処とならざるを得ない。老朽化した配管は深刻な問題となっているため、早急な対応が望まれる。

空調機は、基本的設備として居室を含め実験研究棟だけで300基近くが設置されている。これまでは基幹整備により順次交換されてきたが、経費のこともあり計画的な整備が進んでいない。そうした中で、経年劣化による故障修理と部品供給の停止による一式全交換を行っているが、本年度は修理を 15 基、全交換を 5 基、行った。こうした経費も大きな負担である。また、パッケージ型空調機の設置も多く、室の効率的な使用の障害となっているので撤去を進めたいが、その経費も大きく、緊急を要する実験室の改修以外、進まない状況にある。またパッケージ型空調機の配管でも劣化による漏水事故が起きており、早急な対応が必要となっている。

明大寺地区動物実験センター棟では、空調機用配管の循環水用ポンプが故障し、動物飼育室の空調が一時停止した。緊急交換となったが、これらも経年劣化によるもので、定期的な更新の対象となる設備であるが、突発的な故障の対応も今後の検討事項である。

実験研究棟では給湯設備である電気ボイラーのヒーターが故障し、同型のものが入手できず、1週間以上かけてオーバーホールを行った。古くなり過ぎた設備はそのメンテナンスもままならない。こうした設備についても年次的な交換計画が必要となっている。

(4) 防災・防火設備:
建物の防災・防火設備として自動火災感知器、防火扉、消火栓、消火器、非常照明、非常口誘導灯が備えられている。これらは事務センター・施設課およびエネルギセンターにより毎年定期的に点検整備され、維持管理されているが、こうした設備の劣化も進んでおり、更新計画が必要となっている。

12.7 スペースマネジメント

研究活動の変化に対応した円滑な利用とその効率的な活用が実験室使用に求められているが、研究所ではスペース委員会を設け、室の効率的な利用を進めている。今年度は、代謝生理解析室の新設による室の見直しを行った。

岡崎3機関ではNetFM施設管理システムによる実験室居室の利用状況のデータベース化と有効的利用が推し進められている。

12.8 省エネ対策

岡崎3機関は省エネルギー法に基づき明大寺地区と山手地区が第1種エネルギー管理指定工場に指定されているため、これらの地区においてエネルギーの使用が原単位年平均1% 以上の改善を義務付されている。このことから、施設課では改修工事において計画的に各種の省エネルギー対策の実施、また、省エネルギーの意識向上の一環として毎月の所長会議において明大寺、山手地区における電気、ガス、水の使用量の報告、毎月1日を省エネルギー普及活動の日として省エネルギー対策事項を機構オールで配信及び省エネ垂れ幕の掲示を行っている。研究所では、夏、冬用の省エネポスターを配布し、啓蒙に努め、夏季には定時退所日、節電休暇日を設け、省エネを促進している。また、実験研究棟のトイレ、階段およびエレベータホールの照明設備に人感センサーを設け、省エネ対策を推進している。

12.9 生活環境整備

山手地区では、研究支援センターの設置の見通しがつかないなかで、山手地区職員の生活環境整備が山手地区連絡協議会で議論され、進められてきた。今年度も引き続き、アンケート調査結果に基づき、研究棟周辺の高木植樹と小道による憩いの場の環境整備が行われた。一方研究棟内には生協、自動販売機等による生活環境の整備も進められてきた。今年度は西日対策としてエレベータホールにブラインドを設置した。

12.10 伊根実験室

本施設は建設以来24年にわたり数多くの共同研究者に利用され、海生生物のための臨海実験室として活用されてきたが、本年度をもって生理学研究所施設としての役割を終了し、施設内に設置された設備や物品の整理が行われた。


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