14 動物実験関連

「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」が2009年に両生類・魚類を実験動物に含めるよう改訂され、ほぼ定着した。講習会等の開催、動物実験に関しての情報公開、自己点検・評価なども、動物実験コーディネータ室を中心に順調に進んでいる。

14.1 動物実験委員会

「動物実験の実施体制に関する検証」に係わる訪問調査が行われ、高い評価を得た(自己点検評価、相互検証の項を参照)。なお、検証において、地震など災害時における動物実験室、飼養保管施設の対応マニュアルがあると、より良いとの指摘を受けたため、マニュアル作成を進めることが委員会で決定した。

動物実験飼養保管施設の現況を把握するため、書面調査を行い、その調査結果が動物実験コーディネータ室より委員会に報告された。管理上大きな問題のある飼養保管施設は無かったが、施設の老朽化に伴い改善が必要な施設があることが改めて浮き彫りとなった。作成済みである施設改善計画を進めて行くことが確認された。なお、来年度は、飼養保管施設に加えて動物実験室についても同様の書面調査を行うことを決定した。

14.2 動物実験コーディネータ室

自然科学研究機構岡崎3機関動物実験委員会に2008年度に設置された「動物実験コーディネータ室」では、動物実験の管理・指導を行うとともに、教育訓練のための講習会を年に頻回開催し、新規動物実験開始者や3年更新を迎える動物実験実施者への便宜を図るとともに、より適正な動物実験の遂行に努めた。

また、施設等(動物実験室及び実験動物飼養保管施設)のうち特に実験動物飼養保管施設の現況について、動物実験委員会の意向のもと翌年度受検予定の相互検証対応として書面調査を行った。調査内容は、1)飼養保管施設のステッカー掲示の有無、2)飼養保管マニュアルの作成状況と掲示並びに関係者へ周知徹底の有無、3)実験動物の授受記録簿の整備状況、4)飼育日報・月報、実験ノートなどの飼養保管記録簿の整備状況、5)2009年度2月時点での飼育実験動物種と飼育頭数、6)2007年度~2009年度2月までの実験動物の逸走・咬傷・重度のアレルギーなどの発生状況、7) 管理中の飼養保管施設における施設・設備の改善必要事項であった。調査結果については動物実験委員会に報告された。

14.3 動物実験等に関する21年度の自己点検・評価について

2006年(平成18年)度の「動物愛護管理法」、「実験動物の飼養保管等基準」、文部科学省の「基本指針」、日本学術会議の「ガイドライン」の法令等の整備を受け、自然科学研究機構においても2007年度から「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」を制定施行した。文科省の基本指針や規程第9章「自己点検」、第10章「情報の公開」に基づき、前年度に引き続き2009年度の実験動物飼養保管状況、自己点検・評価を行った。主たる点検評価項目は、1)規程及び体制等の整備状況、2)動物実験実施状況、であり、2009年度も文部科学省の基本指針に則し概ね適切に遂行されたと自己点検・評価された。これらは自然科学研究機構岡崎3機関動物実験委員会として、機構ホームページ上に公開した。

14.4 前年度問題点とされた事項に関する対応策について

2009年度は、上記の項目において、文部科学省の基本指針に則し問題なく適正に遂行されたと自己点検・評価されたが、下記のような問題点が残った。

  1. 岡崎3機関での実験動物飼養保管状況等の把握・確認
  2. 動物実験室、実験動物飼養保管施設の承認後のチェック体制
  3. 組換えDNA実験安全委員会との緊密な連携
  4. 動物実験計画書のウェブ申請システムの構築について
などである。

1)に関しては、動物実験コーディネータ室が現況調査を行って状況把握を行った。その結果、改善事項の認められた点については動物実験委員会として助言・指導を行った。2)に関しては、2011年度末に全施設等が5年更新を迎えることから、2011年度初期に調査を行い、その結果に基づき更新方法を模索することとした。3)に関しては、動物実験委員会委員の組換えDNA実験安全委員会委員への重複就任を行うこととした。4)に関しては、他の事務手続きと統一をはかる必要もあり、メリット、デメリットの再検討と他機関での使用状況等を引き続きさらに詳細に検討することとした。

14.5 本年度の問題点と対応について

  1. 岡崎3機関での実験動物飼養保管状況と動物実験室の把握・確認
  2. 動物実験室、実験動物飼養保管施設の5年更新問題への対応
  3. 生理学研究所の耐震改修工事への対応

などである。

1)については、新年度になるが、2011年度5月時点で書面調査を行うことが動物実験委員会で決定しており、現在準備中である。2)については、2011年度末で有効期間が満了することから、なるべく2011年度初期に更新方法を決定し更新作業を円滑に進めたい。3)については、耐震改修工事(明大寺地区実験棟南側部分:約8ヶ月間の工事期間)に伴い山手地区等に施設等の一時的な立ち上げが予想されることから、それらに柔軟且つ適正に対応していく予定である。

14.6 動物実験等に関する相互検証について

文科省告示(第71号)の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(以下 基本指針) 第6条2項において、「研究機関等の長は、動物実験等の実施に関する透明性を確保するため、定期的に、研究機関等における動物実験等の基本指針への適合性に関し、自ら点検及び評価を実施するとともに、当該点検及び評価の結果について、当該研究機関等以外の者による検証を実施することに務めること」と定められている。また、本機構の規程においても同様に定められている。このことから、岡崎3機関動物実験委員会では各年度自己点検・評価を行い機構のホームページに情報公開をしてきているが、検証(自主規制・自主管理の体制や実施状況を外部の専門家によって検証することから「相互検証」とも呼ばれている)についてはまだ受けていなかった。国立大学法人動物実験施設協議会及び公私立大学実験動物施設協議会の合同による動物実験相互検証プログラムに則し、本機構も本年度受検したので、その結果等について略述する。

相互検証プログラムは2009年度からスタートしており、2009年度は6機関(熊本大、京都府立医大、兵庫医大、岩手医大、滋賀医大、放医研)が受検し、本年2010年度は計10機関(浜松医大、昭和大、自然科学研究機構、奈良県立医大、東邦大、秋田大、福島県立医大、遺伝研、筑波大、東北大)が受検したものである。

本機構の場合、書面調査(申請書、現況調査票、2009年度自己点検・評価報告書、機関内規程を事務局宛に送付したうえでの書類上の調査)に続き、訪問調査が10月22日に行われた。他機関の実験動物専門家である3人からなる訪問調査員が来岡崎され、約4時間にわたり自己点検・評価関係のプレゼンをはじめ飼養保管施設2箇所(動物実験センター及び生理研南部研のサル施設)のチェックも行われた。

その結果、動物実験に関する検証結果報告書(案)の総評では、『大学共同利用機関法人の一つである自然科学研究機構では、基礎生物学、生理学および分子科学などの分野における共同利用研究施設として、多岐にわたる研究に必要な動物実験の管理体制がよく整備され、文部科学省基本指針に則し適正に動物実験が実施されている。特に、動物実験コーディネータ室を設置し、年14回の教育訓練講習会を開催している点など、熱心な対応が随所に見られる。また、魚類・両生類使用実験についても動物実験計画書の提出、承認を義務づけていることなど、動物実験が適正に実施されるよう努力されている点は高く評価できる。施設や設備の日常的な保守点検や維持管理の状況も良好であり、現時点で大きな問題となる点は見当たらない。今後も、動物実験の良好な体制を維持されたい。』というものであり、総評では幸いにも高い評価を得ることができた。したがって、本機構における自主規制・自主管理体制や実施状況が基本指針に則しており委員会も十分に機能を果たしているとの結果であった。

なお、個別的には、安全衛生管理に関し、①「今後の可能性を勘案し、病原体の感染実験などに対応可能なバイオセーフティー規程などを整備されることが望ましい。」、②「定期的な霊長類の健康診断や入室者の健康チェックが望まれる。」、施設等の維持管理状況に関し、③すでに全施設を対象に、施設・設備の改修や更新の必要性の調査を実施している。今後、改善計画を立て、順次、改修・更新工事等を進められたい。」、教育訓練の実施状況に関し、④「サルの講習会についても、定期的な開催が望まれる。」、また、その他として、⑤「自然科学研究機構においては緊急・災害時マニュアルなどが整備されているようであるが、各動物実験施設独自の緊急・災害時マニュアルは未整備である。将来の災害時に備え、マニュアルの整備が望まれる。」のような改善に向けた意見もいただいた。

12月6日に開催された岡崎3機関動物実験委員会では、機構長宛に送付された上記検証結果報告書(案)に対し異議申し立てはしないことが決定されるとともに、幾つかの改善意見のうち、特に②及び⑤に関してはやはり早急な対応が必要であろうとの認識から、②に関してはマニュアルの整備、⑤に関しても動物実験センター及びモデル生物研究センター哺乳動物飼育開発支援ユニットが中心となって整備を進めることとした。

動物実験に関する相互検証については、岡崎3機関動物実験委員会もはじめての経験であり、当初心配もあったが、事務センターの支援のもと無事に終了することができた。確定の検証結果報告書については、機構ウェブサイトに情報公開されている。

14.7 動物実験センター

本年度取り組んだ課題は、次の6点であった:

  1. 明大寺地区地下SPF施設の定常的稼働
  2. マウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設およびMRI撮影時の霊長類の一時的飼養保管施設の設置
  3. 明大寺地区本館のボイラー交換工事
  4. 山手地区一時保管室の定期的消毒
  5. 国動協・公私動協連携プログラムによる外部検証への対応
  6. 動物実験センターの利用稼働率の向上を図ること

これ以外に発生した問題は、

  1. 実験動物の飼養保管室とヒトの居住空間における空調の不具合
  2. クリーンアップを始めとする胚操作関係の業務
  3. 山手地区SPF室における飼育スペースの要望
  4. ニホンザルの血小板減少症によるサル導入・検疫業務の見合わせ
などである。

1–5の課題はほぼ達成できたが、6の課題は今後試行錯誤しながら、改善しなければならない。問題点7–10は今年度だけでは解決できず、次年度以降に引き継ぐ案件である。以下に、各事項について説明する。

  1. 明大寺地区地下SPF施設の定常的稼働
    本年度は明大寺地区地下SPF施設が本格的に稼働し、2研究部門が利用している。夏頃より、山手地区の利用者からも希望が挙がり、年度末までには定常的なフル稼働を予定している。料金は明大寺地区の普通動物(マウス)と同額で徴収を図っている。個別換気ケージシステムの特殊性から、暫くは現有のラック数に限定して実績を積むようにしたい。現在までの所、大きな問題は生じていないが、作業性や労務の問題をよく見定めて今後の展開を計画する。また、器具・機材の階上・階下への移動を極力減らし、洗浄・消毒が地下だけで完結できる省力的で衛生的なシステムを構築したい。
  2. マウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設およびMRI撮影時の霊長類の一時的飼養保管施設の設置
    駐輪場の跡地に2階建ての建物を増設した。一階をMRI撮影時の霊長類の一時的飼養保管施設とするため、サルを飼養保管する施設として手続きを行う必要がある。2階はマウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設とし、マウス・ラットに感染症が発生した場合に用いるシェルターとする。今年度末までには、建築が完了する予定であり、次年度は中に収める備品を整える。
    この建物は漸く実現できた施設であり、今後は施設の維持管理が重要な課題となる。動物実験センターの機能の移転は未だ十分ではないが、センターの業務に支障が起きないように現在努力をしている。グレーゾーンの実験動物の搬入や空調・給排気のバランスの崩れなど今後残る問題もあり、対策を講じなければならない。
  3. 山手地区一時保管室の定期的消毒
    これまで一時保管室は定期的モニタリングを行っていないので、1年に1回という考えで、全面消毒を今年度も引き続き実施した。利用者の便宜を図り、2010年10月と2011年1月の2期に分けて作業を実施した。ホルムアルデヒド薫蒸消毒ではなく、過酢酸を用いた水溶性消毒剤噴霧を適用し、本法がホルムアルデヒドに代わる消毒法であることを確認できた。
  4. 明大寺地区本館のボイラー交換工事
    2010年10月より約1か月かけて、本館のボイラー交換工事を行った。従来のものよりも能力は高い装置である。この期間、本館でお湯を使うことができず、ケージ類の洗浄や高圧蒸気滅菌が困難と判断された。そのため、従来のケージの内側に薄い樹脂製の使い捨て内張シート(インナーシート)を用いて急場を凌いだ。また、利用者への協力を仰ぎ、交換工事を乗り切ることができた。
  5. 国動協・公私動協連携プログラムによる外部検証への対応
    2010年度に標記外部検証を受けるために準備を進めた。外部検証委員の先生方がセンターを視察されるにあたり、センターの説明資料や標準操作手順書など書類の整備に努めた。また、遺伝子改変動物を用いる実験室や飼養保管施設の表示を統一した。中型実験動物の施設では臭い等にも気をつけ、前室(廊下)に脱臭装置を設置した。
    施設の老朽化については、マスタープランを組み、計画的に対応を図っていることを示した。上記ボイラー工事と時期が重なってしまったが、外部検証に対して、センターとしてはできる限りのことが行えたと思っている。
  6. 動物実験センターの利用稼働率の向上を図ること
    中型実験動物の飼育稼働率は非常に高いが、マウス・ラットの飼育稼働率は必ずしも高くない状況である。明大寺地区は、マウス:41%、ラット:13%、一方、山手地区は、マウス:48%、ラット:52%である。飼育室による飼育率の差も大きい。今後、利便性を図り、料金を改定するなどして、齧歯類の飼育稼働率を引き上げたいと考える。
  7. 実験動物の飼養保管室とヒトの居住空間における空調の不具合
    夏季の猛暑にもより、明大寺地区実験動物室の温度と湿度が制御できない状況に陥った。また、職員の居室の温度も制御できずに大いに苦労した。この状態は程度の差こそあれ、毎年続いており、エア・コンディショニング関係を改める必要がある。
    ボイラー更新で改善ができるかと期待したが、冬季も温度と湿度の調整ができない状態が続いている。施設課とエネルギーセンターの尽力で手動により実験動物施設の温度と湿度の調節を行っているが、限界の模様である。ポンプの能力低下や配管の劣化も疑われるが、今のところ原因がよくわからないままである。部分毎の改修だけでなく、施設全体をリニューアルする必要性を感じる。
  8. クリーンアップを始めとする胚操作関係の業務
    研究支援業務のひとつとして、クリーンアップや受精卵凍結などの胚操作関係の業務を行っている。しかし、一人の職員に長時間の作業を負わせる問題や代行できる技術者がいない点など、今後大いに見直さなければならない。また、外部飼育委託業者の雇用なども含めて費用面でも検討を迫られる事項である。動物実験センターだけでは解決できない問題である。
  9. 山手地区SPF室における飼育スペースの要望
    飼育室の稼働率の差が大きいことを述べたが、一室だけでは動物を収容できなくなり、他室を使用したい要望が現れた。そのため、期限付きで、シェアしながら他室を使用できるように対応した。今後、一研究部門、一飼育室の原則を変更するなど柔軟な対処が必要と考える。
  10. ニホンザルの血小板減少症によるサル導入・検疫業務の見合わせ
    昨年、ニホンザルの血小板減少症が報告され、当センターもサル導入・検疫業務を一時見合わせている。正確な情報に基づき、検査項目や検疫期間を設定する予定である。また、所内のサルについて定期的健康診断を行うと共に、血小板減少症の状況も調査しなければならない。
  11. その他として、教育訓練
    教育訓練Part 2として、麻酔および疼痛管理の教育訓練を行った。中型動物(イヌ、ネコ、サル)、小型動物(ウサギ、モルモット)、両生類、魚類およびげっ歯類(マウス、ラット)と動物種ごとに分けて実施した。今後テキストとして利用できるように便宜を図る予定である。また、獣医麻酔外科学会および日本実験動物学会が目指す「実験動物の麻酔のモニタリング指針」の作成に参画する所存である。


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