15 知的財産

15.1 全体的な動向

知的財産の取り扱いは、社会の動向に大きく影響を受ける問題である。最近の動向で注目されているのは、研究開発のオープン化である。研究・開発の迅速性はいずれの分野でも重要な要素であるが、特に国際的な市場で競争している企業にとって、市場の獲得につながる迅速な商品開発は企業戦略の根幹となっている。そのため、過去においてはすべてを社内で(もしくはグループ企業内で)開発を行うことが主流であったのに対して、他社や大学・機関が持つ技術・特許や研究成果を基礎研究から商品開発まで生かし、開発期間の短縮とコスト抑制を狙うものである。この手法は、「オープンイノベーション」と呼ばれている。さらに進んだ戦略としては、無償で開発リソースを提供することにより市場の占有を企てる手法も使われるようになってきている。後者の代表的な例は、Google社のアンドロイドである。このアンドロイドの出現により携帯電話の市場に大きな変化が起きていることは、最近新聞等でよく報道されている。このように状況の変化の激しい現在において、知的財産をどのように扱うかについては、常に検討して行く必要があると思われる。

15.2 自然科学研究機構知的財産委員会

2010年4月に佐藤機構長の就任に伴い担当理事の交代があり、岡田泰伸理事(生理研所長)が知的財産担当理事となった。前年度より、発明届の審議は基本的に機関で行い、機構委員会ではチェックを主とすることとなっている。そのため、今年度も発明届の機構委員会での審査はメール会議により行われている。機構委員会で慎重な審議をすべき事案は、現在のところ生じていない。

15.3 生理学研究所での取り組み

生理学研究所ではこれまで発明・特許に関しては、現実的な対応を行ってきた。すなわち、特許出願は企業との共同研究をするための環境整備であり、特許収入を過度に期待しない。実際的には、JSTの専門家による特許相談室を利用し、特許の可能性がある発明については出願し、共同研究等を実施する企業等を探す。もし審査請求までに共同研究等を希望する企業等が現れない場合、学術的な価値が極めて高い場合を除いては、それ以上のコストをかけて権利の保有を追求しない。これまでの例では、企業と出願を行っている場合が多い。

この様な考え方を含めて管理方針を整理し、2011年2月14日開催の知的財産委員会で「生理学研究所知的財産管理方針」を定めた。

今年度の発明出願状況は、第VI部に掲載した。

15.4 技術課データベース

生理研には、実験技術のノウハウを含む様々な研究のリソースが蓄積されている。これらのリソースを活用するために、技術課が主体となって、様々なリソースのデータベース化を進めている。広く活用されるために、昨年度から日本語と英語のバイリンガル化を進めており、かなりの部分で英文併記がされた。今後、イメージング関係のデータを一層整備して行くとともに、研究教育職員の実験技術に関するデータ、ソフトウェア等も含めたデータベースにして行くかの検討が必要である。


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