研究内容詳細

研究内容のページに戻る

1)タイトジャンクションによる上皮の透過性制御が恒常性維持に果たす役割の研究

 クローディンはタイトジャンクションの構築の核となる膜タンパク質で、タイトジャンクションの細胞膜密着部位を形成するとともに、傍細胞経路(paracellular pathway)のバリア特性、あるいは透過選択性を規定するきわめて重要な役割を担っています(下記参考文献)。クローディンには20を超えるサブタイプが存在し、多くの上皮細胞 で複数のクローディンのタイプが発現しており、しかも細胞の種類によって発現するクローディンの組み合わせが異なります。クローディンの発見により生体内でタイトジャンクションの機能を研究することが可能となりました。すなわち、特定のクローディンを欠失したマウスを作出して解析することにより、タイトジャンクションの個体における役割、タイトジャンクションと病態との関連について知ることができます。私達のグループでは、クローディン遺伝子欠失マウスに加え、特定のクローディンのトランスジェニックマウス、クローディン阻害剤など用いて、恒常性維持におけるタイトジャンクションの役割を個体レベルで解明しています。

 参考文献:Furuse et al. J. Cell Biol. 141:1539-1550, 1998; Furuse et al., J. Cell Biol. 143:391-401; Furuse et al., J. Cell Biol. 147:891-903, 1999; Furuse et al., J. Cell Biol. 153:263-272, 2001
)



研究成果

初期発生におけるタイトジャンクションの役割

発生過程において、タイトジャンクションのバリアが関与する液性環境が細胞分化や上皮構造の形態形成に関与する可能性が考えられます。私達は、クローディンの機能を特異的に阻害する物質を用いた研究から、マウス初期発生時の胞胚形成にタイトジャンクションのバリア機能が必要であることを証明しました。発生における静水圧が関わる形態形成の一過程にタイトジャンクションが重要な役割を果たしていることが示唆されました。
Moriwaki, K., Tsukita, S., and Furuse, M. Tight junctions containing claudin 4 and 6 are essential for blastocyst formation in preimplantation mouse embryos. Dev. Biol. 312: 509-522 (2007).

クローディンインヒビター(C-CPE)による試験管内マウス胞胚形成の阻害と栄養外胚葉のバリア機能の破綻C-CPEを加えた胞胚(GST-C-CPE)は、細胞分裂に異常は見られないものの、内腔がほとんどできないか十分に膨らまず、分子量4Kの蛍光トレーサーが内腔に入り込む。


クローディン2遺伝子ノックアウトマウスにおける腎臓近位尿細管の解析
クローディン2は無機イオン等の小分子の傍細胞経路における受動輸送(いわゆる漏れ)を促進するチャネルとしてはたらくクローディンで(Furuse et al., J. Cell Biol. 153:263-272, 2001)陽イオン選択的であることが知られています。腎臓では、傍細胞輸送が盛んな近位尿細管とその周辺に強く発現しています。私達は、自治医科大学の武藤重明博士との共同研究により、クローディン2ノックアウトマウスでは近位尿細管のイオン、水に対するバリア機能が高まり、本来陽イオンを通しやすいタイトジャンクションの電荷選択性が逆転することを見出しました。陽イオン選択的なチャネルとしてはたらくクローディン2の役割を個体レベルではじめて明らかにしました.
Muto, S., Hata, M., Taniguchi, J., Tsuruoka, S., Moriwaki, K., Saitou, M., Furuse, K., Sasaki, H., Fujimura, A., Imai, M., Kusano, E., Tsukita, S., and Furuse, M. Claudin-2-deficient mice are defective in the leaky and cation-selective paracellular permeability properties of renal proximal tubules. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 107: 8011-8016 (2010).

(左)野生型とclaudin-2ノックアウトマウスの近位尿細管におけるclaudin-2, claudin-10, lotus lectin(近位尿細管を標識するマーカー)の蛍光抗体染色像。
(右)単離した近位尿細管の拡散電位測定の結果。近位尿細管の傍細胞経路の電荷選択性が、陽イオン選択的から陰イオン選択的に逆転している。

クローディン1遺伝子ノックアウトマウスにおける皮膚角質バリア機能の低下
クローディン1は特に皮膚と肝臓で強く発現するクローディンで、その遺伝子ノックアウトマウスは皮膚からの過剰な脱水により生後致死となります。以前、このマウスの解析から、皮膚の顆粒層に機能的なタイトジャンクションが存在することを見出しました(Furuse et al., J. Cell Biol. 156:1099-1111, 2002)。すなわち、皮膚のバリア機能の要素として、従来から考えられてきた角質層バリア以外にタイトジャンクションのバリアが存在することが明らかになりました。この発見は、皮膚には機能的タイトジャンクションが存在しないという定説を覆すものであり、皮膚科学の領域でも注目されています。最近、私達のグループでは、クローディン1遺伝子ノックアウトマウスの皮膚からの脱水のメカニズムについてさらに詳細に解析し、このマウスでは角質層のバリア機能が低下していることを突き止めました。顆粒層に存在するタイトジャンクションのバリア機能が、外側の角質層の正常な分化を促す環境の形成維持にも重要であることを示していると考えています。
Sugawara, T., Iwamoto, N., Akashi, M., Kojima, T., Hisatsune, J., Sugai, M., and Furuse, M. Tight junction dysfunction in the stratum granulosum leads to aberrant stratum corneum barrier function in claudin-1-deficient mice. J. Dermatol. Sci. 70: 12-18 (2013).

マウス皮膚から角質層を単離して水分蒸発に対する角質バリアを評価する系を確立した。この方法により、Claudin-1ノックアウトマウスの角質層にバリア異常が見られることが明らかになった。

 
ページの先頭に戻る