研究内容詳細 研究内容のページに戻る

2)多角形の上皮細胞の角:トリセルラージャンクションの分子構築と機能の研究

 タイトジャンクションはクローディンが2細胞間につくるジッパー状の構造ですが、3つの細胞の角(かど)が接する領域には、トリセルラータイトジャンクションとよばれる特殊な形態のタイトジャンクションが存在して、この部分からの漏れを防いでいます。2005年にトリセルラータイトジャンクションの構成分子としてトリセルリンが初めて同定されました。トリセルリンは、トリセルラータイトジャンクションの形成と上皮バリア機能に重要な役割を果たす膜タンパク質ですが、トリセルリンの詳細な機能やトリセルラー領域に局在する機構はよくわかっていませんでした。最近私たちは、細胞内局在を指標とした発現クローニング法によるスクリーニングを続ける過程で、トリセルラータイトジャンクションに濃縮する新規膜タンパク質LSRを同定することに成功しました。さらに、LSRの相同分子ILDR1, ILDR2もトリセルラータイトジャンクションに局在することを見出し、これらをまとめてアンギュリンファミリーangulin family(angulus:「角」のラテン語)とよぶことを提唱しています。これまでにアンギュリンファミリーは上皮の十分なバリア機能に必要であること、トリセルリンをトリセルラー領域にリクルートする役割があることを明らかにしました。上皮細胞の角の部分の構造やふるまいは上皮機能にとって潜在的に重要であると思われているものの、この部分に着目した分子レベルの研究はトリセルリンを除いてほとんど例がありません。私達が見出したアンギュリン--トリセルリン系の上流と下流を研究することにより、トリセルラージャンクションの形成機構と機能の分子基盤を明らかにしたいと考えています。

(左)マウス小腸上皮上皮細胞のトリセルラータイトジャンクションの凍結割断レプリカ像 (右)我々の研究によるトリセルラータイトジャンクションの構造モデル


研究成果

トリセルラータイトジャンクションの新規膜タンパク質LSRの同定
私達は、細胞内局在を指標とする発現クローニング法により、トリセルラータイトジャンクションに濃縮する新規の膜タンパク質LSRを同定することに成功しました。LSRは十分な上皮バリア機能に必要であるとともに、すでに知られていたトリセルラータイトジャンクションの膜タンパク質トリセルリンをリクルートすることがわかりました。すなわち、LSRはトリセルラータイトジャンクション形成過程の上流で、その位置決めに関わることが示唆されました
Masuda, S., Oda, Y., Sasaki, H., Ikenouchi, J., Higashi, T., Akashi, M., Nishi, E., and Furuse, M. LSR defines cell corners for tricellular tight junction formation in epithelial cells. J. Cell Sci. 124: 548-555 (2011).

LSRは細胞外にIg-likeドメインを持つ膜タンパク質で(左上)、様々な上皮細胞のトリセルラータイトジャンクションに局在する(右上)。トリセルリンをノックダウンした培養上皮細胞においてLSRはトリセルラーコンタクトすなわち細胞の角の領域に局在するが、LSRをノックダウンした細胞ではトリセルリンの局在が乱れ、この細胞にLSRを強制発現により戻すとトリセルリンの局在が回復する(下)。したがって、LSRはトリセルリンの局在を規定することにより、トリセルラータイトジャンクション形成と十分な上皮バリア機能にきわめて重要な役割を果たしていると考えられる。


トリセルラータイトジャンクションタンパク質アンギュリンファミリーの機能解析

私達が同定したトリセルラータイトジャンクションの新規膜タンパク質LSRに相同なILDR1, ILDR2が、LSRと同様にトリセルラータイトジャンクションに局在し、トリセルリンをリクルートすることを明らかにして、これら3分子をアンギュリンangulinファミリーと名付けました。LSR, ILDR1, ILDR2をそれぞれangulin-1, angulin-2, angulin-3とよぶことを提唱しています。さらに、ヒト常染色体劣性の遺伝性難聴の原因としてILDR1遺伝子の変異が最近報告されたことに着目し、これらILDR1変異タンパク質の動態を培養上皮細胞で調べたところ、いずれもトリセルラージャンクションに正しく局在できず、十分にトリセルリンをリクルートできないことを見出しました。一方、別の遺伝性難聴の原因として以前に報告されていたトリセルリン遺伝子の変異についても解析し、これらのトリセルリン変異タンパク質がILDR1によってトリセルラー領域にリクルートされないことを明らかにしました。以上の結果から、ILDR1—トリセルリン系によるトリセルラータイトジャンクション形成の異常が遺伝性難聴の原因である可能性を示しました。 
Higashi, T., Tokuda, S., Kitajiri, S.I., Masuda, S., Nakamura, H., Oda, Y., and Furuse, M. Analysis of the angulin family consisting of LSR, ILDR1 and ILDR2: tricellulin recruitment, epithelial barrier function and implication in deafness pathogenesis.  J. Cell Sci. 136: 966-977 (2013)

(左上)マウス大腸陰窩におけるLSR/angulin-1とILDR1/angulin-2の発現。(右下)マウス内耳コルチ器におけるILDR1/angulin-2の発現。ILDR1遺伝子の変異がヒト遺伝性難聴DFNB42の原因となることが報告されている。(下)ILDR1は上皮細胞シートのバリア機能に関与する。

ページの先頭に戻る