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3)無脊椎動物の上皮バリア機能を担うセプテートジャンクションの研究

 これまで多くの研究によって個体におけるタイトジャンクションの重要性が示されてきました。しかし、動物界においてタイトジャンクションが上皮細胞に観察されるのは、わずかな例外を除いて脊椎動物(と脊索動物であるホヤ)だけであることはあまり知られていません。それでは、無脊椎動物の上皮細胞における細胞間隙のバリアはどのようにして形づくられているのでしょう。実は無脊椎動物にはタイトジャンクションの代わりにセプテートジャンクションという全く別の細胞間接着装置が存在します。動物界を席巻しているセプテートジャンクションが生物学にとって重要でないわけがありません。しかしながら、セプテートジャンクションの分子生物学による機能解析は、ショウジョウバエの外胚葉由来上皮で幾分進んでいるものの、まだ不明な点が多いのが現状です。私たちの研究室では、これまで分子構築が明らかでなかったショウジョウバエの内胚葉由来上皮のスムースセプテートジャンクションに着目して、その構成分子の同定に成功しています。さらにショウジョウバエの強力な遺伝学的手法を駆使して、スムースセプテートジャンクションの形成に関わる遺伝子をスクリーニングして解析しつつあります。上皮バリアを担う細胞間接着装置として細胞膜上の特定の領域に膜タンパク質複合体でできた鎖状構造をつくるという点で、スムースセプテートジャンクションはタイトジャンクションと類似しているので、ショウジョウバエ遺伝学を用いたスムースセプテートジャンクションの研究は、タイトジャンクション形成を理解するよいモデル系になると考えられます。また、系統発生上の様々な細胞間接着装置を比較研究することによって、細胞間接着装置の多様性とともに、その背後にある基本原理が見えてくると期待されます。さらに将来、動物進化における各細胞間結合の意義を語ることができるようになるかもしれません

ショウジョウバエの腸管バリア機能を担うスムースセプテートジャンクションの電子顕微鏡写真。超薄切片像(左)と凍結割断レプリカ像(右)。


研究成果

スムースセプテートジャンクション新規構成分子の同定と機能解析
カイコ中腸の細胞膜分画に対して作製したモノクローナル抗体のスクリーニングによりスムースセプテートジャンクション(sSJ)の抗原を複数同定し、その抗原の一つを単離してcDNAクローニングを行い、ゲノム情報を利用してショウジョウバエ相同分子を同定して、これをSnakeskinと名付けました。Snakeskinは4回膜貫通型タンパク質で、世界で初めて同定されたsSJの特異的構成分子です。Snakeskinの発現を抑制したショウジョウバエの解析から、SnakeskinがsSJ形成とショウジョウバエの腸管バリア機能に必須であることを明らかにしました。
Yanagihashi, Y., Usui, T., Izumi, Y., Yonemura, S., Sumida, M., Tsukita, S., Uemura, T., and Furuse, M. (2012). Snakeskin, a membrane protein associated with smooth septate junctions, is required for intestinal barrier function in Drosophila. J. Cell Sci. 125: 1980-1990.

(左)スムースセプテートジャンクション(sSJ)の構成分子を同定・解析するための戦略。(右)我々が同定したsSJ特異的膜タンパク質Snakeskin(Ssk)の1齢幼虫中腸における発現。


スムースセプテートジャンクションの新規接着分子Meshの同定と機能解析
カイコ中腸のモノクローナル抗体のスクリーニングから、スムースセプテートジャンクション(sSJ)の新規膜タンパク質を同定し、Meshと名付けました。Meshの変異体の解析から、MeshがsSJ形成と腸管バリア機能に必須であることを明らかにしました。たいへん興味深いことにMeshがもう一つのsSJ膜タンパク質であるSnakeskinと複合体を形成し、この二者はsSJ部位への局在について相互依存性を示しました。さらに、培養細胞にMeshを強制発現させた実験から、Meshが細胞接着活性をもつことを見出しました。

Izumi, Y., Yanagihashi, Y., and Furuse, M. A novel protein complex, Mesh-Ssk, is required for septate junction formation in the Drosophila midgut. J. Cell Sci. 125: 4923-4933 (2012).

(左上)Sskに続いて、スムースセプテートジャンクション(sSJ)の新規膜タンパク質Meshを同定した。Meshは内胚葉由来上皮に特異的に発現する。(右上)野生型ショウジョウバエ幼虫の中腸ではMesh, SskともにsSJ領域に局在するが、ssk発現抑制系統、mesh変異系統ではそれぞれMesh, Sskの局在が乱れることから、両者は相互依存的にsSJ形成に関与していることが示された。(左下)Meshの発現を抑制させた1齢幼虫では腸管のバリア機能が破綻する。(右下)Meshは細胞接着能を示す。

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