応用脳科学への展望

archive 2015-2018

 

外国語学習への応用

神戸大学の横川一博教授と共に、日本人の重要な課題である英語学習への神経科学的アプローチを模索した(科研費基盤A 学習による気づき・注意機能および相互的同調機能と第二言語情報処理の自動化プロセス)。日本人の英語学習者は、前置詞目的語構文(PO; give A to B)よりも二重目的語構文(DO; give B A)の発話を苦手としており、その神経基盤は不明である。発話では、非言語的な心的表現を表現に適した構造に変換する意味的符号化に続いて、構文処理と音韻処理が行われる。DOの困難さが言語的過程にあるのか前言語的過程にあるのかを検証するために、機能的磁気共鳴画像法を実施した。30 名の参加者は、DO またはPO を用いてアニメを説明し、または単にアニメの名前を述べた。PO に比べDO の方が反応時間やエラー率が高く、左下前頭回を含む前頭葉の活性化がみられ、言語過程を反映したものであった。心理的プライミングは、PO ではDO の直後に、DO ではPO の直後に生じ、PO とDO の間で処理過程が共有されていることが示唆された。後頭-頭頂領域およびpre-SMAではPO-DO およびDO-PO という構造横断的な神経反復抑制が観察された。このように、DO とPO は前言語過程を共有し、DO では言語領域に神経活動の過負荷がみられたことから、DO の困難さは言語的過程にあると結論した(Nakagawa et al. 2022)。

 

感性脳科学への展開

生理学研究所は、2013 年度より革新的イノベーション創出プログラム(Center of Innovation Scienceand Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program;COI STREAM) に、NTT データ経営研究所をはじめとする企業や横浜国立大学とともに、“精神的価値が成長する感性イノベーション拠点”のサテライト拠点として参加している。本プログラムは、現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方(“ビジョン”)を設定し、このビジョンを基に10 年後を見通した革新的な研究開発課題を特定した上で、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現することを目指したものである。このプログラムは、文部科学省科学技術・学術政策局のプログラムであり、科学技術振興機構(JST)を通して実施されている。ビジョンには次の3 つが設定されており、生理学研究所はビジョン2に参加した。
ビジョン1:少子高齢化先進国としての持続性確
ビジョン2:豊かな生活環境の構築 (繁栄し、尊敬される国へ)
ビジョン3:活気ある持続可能な社会の構築
生理研サテライト拠点は、マツダ・広島大学が中核である”精神的価値が成長する感性イノベーション拠点(以下、感性イノベーション拠点)”の一部である。感性イノベーション拠点は、プロジェクトリーダーが農沢隆秀マツダ技監、リサーチリーダーが山脇成人特任教授(広島大学大学院医歯薬保健学研究院、精神医学)であり、感性を定量化することにより、従来、勘に頼っていた製品開発をより効率的に行おうとするものである。生理学研究所では、知覚の可視化に関する研究とそのモデル化を進めており、
当部門は「社会的相互作用における共有感」をテーマとして企業との共同研究を進め、その結果は 研究成果/社会能力の神経基盤 に反映されている。

 

ナショナルプロジェクトへの参画

革新脳

「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」は、神経細胞がどのように神経回路を形成し(ミクロレベル)、どのように情報処理を行うことによって、全体性の高い脳の機能を実現している(マクロレベル)かについて、我が国が強みを持つ技術を生かして、その全容を明らかにし、精神・神経疾患の克服につながるヒトの高次脳機能の解明のための基盤を構築することを目的として開始された。

当部門は、臨床研究統括チーム(グループリーダー:笠井清登東大教授)に加わり、超高磁場(7T)MRIを用いたヒト神経回路画像計測・解析技術の開発を担当した。その結果は、研究成果/7TMRIの導入と運用 に反映されている。

 

脳プロ意思決定

「柔軟な環境適応を可能とする意思決定・行動選択の神経システムの研究(意思決定)」は、京都大学大学院医学研究科の伊佐正教授を拠点長として、2016 年11 月に開始された脳プロ課題である。生理学研究所からは、磯田昌岐教授が研究開発代表者となって参加し、「社会的な意思決定と行動制御のシステム的理解に向けた研究手法の開発」を担当するとともに、定藤が「柔軟な意思決定の基盤となる神経回路に関するヒトと非ヒト科霊長類を用いた統合的研究」(代表:伊佐正)の分担研究開発として「二個体同時計測によるコミュニケーション行動の解析指標の開発とその神経表象のモデル化」を担当することになった。社会的相互作用における意思決定の神経基盤を目指して、2fMRI 脳波2 個体同時計測の実施準備として、MRI 装置内で利用できる脳波装置を設置し、特に電気的雑音を最小限にするための電気シールドを含む技術検討により、MRI との同時計測に向け最適化を行った。高時間分解能で2個体同時計測機能的MRI を行うために、収集されたデータを超高速で画像再構成する装置を導入し、共同作業課題を用いた2個体同時計測機能的MRI を実施した。アイコンタクト、視線を介した共同注意、相互模倣、共同作業を遂行中の2個体同時計測を行った。その結果は3.1 に反映されている。7TMRIに関して、安静時fMRI の雑音除去と高解像度拡散強調画像取得を行い、その結果は 研究成果/7TMRIの導入と運用に反映されている。

 

国際脳

研究成果/種間比較(国際脳)にて記載