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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所

Tel : 0564-59-5265/Fax : 0564-59-5266

〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5-1

研究内容

多能性幹細胞を用いた「再生医療」に大きな期待が寄せられているが, 多種多様な細胞の立体的な集合体である臓器そのものの再生は実現していない。ラットはマウスよりも大きく外科的な手術操作が容易であり、「再生医療」を見据えた臓器移植のモデル動物としても今後ますます多用されることが期待される。ラット多能性幹細胞を利用することで特定の遺伝子機能を破壊した動物 (ノックアウト: KO) も作製されているが、効率の改善に向けた技術確立も重要な課題となっている。最近では、ゲノム上の任意の配列を切断することが可能で標的配列のデザインが簡便で実験手法が容易な人工ヌクレアーゼ (ZFNsおよびTALENs) やRNA誘導型ヌクレアーゼ (CRISPR/Cas9システム) を利用した技術が、次世代のKOおよびノックイン (KI) 動物作製技術として注目されている。 遺伝子改変動物作製室では、マウスならびにラットの前核期受精卵に外来遺伝子を注入することによりトランスジェニック (Tg) 動物を作製するのみならず、ZFNs、TALENsおよびCRISPR/Cas9システムを利用したKO/KI動物の作製も行っている。加えて、胚性幹 (ES) 細胞や人工多能性幹 (iPS) 細胞を樹立して再生医療研究を展開するとともに、体細胞核移植によるクローン動物作製にも挑戦している。

胚性幹細胞を利用したノックアウト/ノックインラット (KO/KI) 作製技術の確立

胚性幹 (ES) 細胞は受精4〜5日目の受精卵を起源とし、分化を抑制する条件下で培養することで無限に自己増殖できる能力を有し、かつ誘導因子を加えることで複数種類の細胞に分化できる能力を持つ細胞のことである。マウスでは、ES細胞を受精卵に導入したキメラ胚から作製した産仔において,正常な子孫作製に寄与しうるES細胞由来の生殖細胞を形成できると証明されている。また、マウスES細胞に遺伝子ターゲティング法を施すことにより,内在遺伝子機能を封じ込めたKOマウスも作製できる。そこでラットにおいてES細胞を樹立し、遺伝子導入細胞株からのTgラットの作製 [図1]、ならびに遺伝子ターゲティング法による変異導入ES細胞からのKO/KIラットの作製 [図2] などを行っている。
   
[図1:ラットES細胞に外来遺伝子を導入して作製したTgラット]
(a) Kusabira-orange遺伝子陽性のES細胞コロニー (右上:明視野像). (b) Kusabira-orange遺伝子陽性ES細胞由来のキメララット (生後17日目). (c) Kusabira-orange遺伝子陽性の胎齢16日目生殖寄与胎仔 (右上:明視野像). (d) 導入遺伝子コンストラクト (CAGプロモーター下にhumanized kusabira orange、 IRES、Neoおよびpoly-A 遺伝子を配した全長7.5 kb 直鎖状DNA).
 [図2:相同組換え法によってラットES細胞に遺伝子ターゲティングベクターを導入して作製したKIラット由来卵子]
Rosa26-H2B/tdTomato遺伝子をKIしたラットから未受精卵子を採取し、人為的活性化処理後に体外培養. MII: MII期排卵卵子. PN: 前核期胚. 2C: 2細胞期胚. 4C: 4細胞期胚. M: 桑実期胚. BL: 胚盤胞期胚. スケールバー: 50 μm.


臓器欠損ラットの作製ならびに多能性幹細胞による臓器再生

多能性幹細胞を用いた「再生医療」に、大きな期待が寄せられているが、これまでに臓器そのものの再生は実現していない。これは、多種多様な細胞の立体的な集合体である臓器の発生過程を、試験管内で再現することが困難なためである。それを克服するためには動物個体の発生段階を利用して臓器を再生し、移植臓器として提供する方法が有効である。私たちは、遺伝子改変したラットES/iPS細胞から臓器欠損ラットを作製することで個体レベルでの臓器の“空き”を作り、そのラットの受精卵にマウスES/iPS細胞を注入すること (胚盤胞補完術) でマウス幹細胞由来の臓器を再生させることに成功した [図3]。このことにより、再生臓器を別の臓器欠損ラット個体に移植するなど、臓器再生から臓器移植までの基礎的な実験が可能になった。将来的には再生医療への応用を見据え、ラットの体内でサルの臓器を再生するといった、種を超えた動物間での臓器再生や、再生した臓器の移植を試みるなど、再生医療のための基盤技術の確立を目指している。
 [図3:CRISPR/Cas法により作製したFoxn1遺伝子KOラットと胚盤胞補完法により再生させたマウス胸腺]
(a) Foxn1遺伝子ホモ欠失ラットの貧被毛. (b) Foxn1遺伝子ホモ欠失ラットの無胸腺像 (左: ホモ, 右: 野生型). (c) Foxn1遺伝子ホモ欠失ラット由来胚盤胞とGFPマウス由来のES細胞で作製した異種キメラ個体. (d) GFPマウスES細胞で補完された胸腺.