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ピロリ菌ファージが胃で消化されないしくみを構造学的に解明
〜ファージ療法に期待〜

2021年10月26日
 
 ピロリ菌は、胃潰瘍や胃癌などを引き起こす原因菌として広く知られています。本研究で取り上げるピロリ菌ファージは、このピロリ菌を宿主とするウイルスですが、一方で、ピロリ菌を選択的に殺菌する作用をも有しています。そこで、ピロリ菌ファージの人工投与によるピロリ菌の除菌は、従来の抗菌剤の作用機序とは異なる新しい治療法の一つとなる可能性が示唆されており、これはファージ療法として注目を集めています。ところが、本治療法の実現には、ピロリ菌ファージ自身の形態や感染・増殖のメカニズムに関する詳細な知見を集める必要があります。

 本共同研究では、KHP30と名付けられたピロリ菌ファージの遺伝子を格納する頭部(キャプシド)の分子構造を、クライオ電子顕微鏡単粒子解析※という手法を用いて、0.27 nmという高い解像度で、明らかにすることができました(図)。結果、主要キャプシドタンパク質は、その特殊なループ(P-loop)が隣接分子との間の楔(くさび)となって強固な六量体(図の紺、紫)もしくは五量体(図の青緑)構造を形成して頭部の表面を覆っており、さらにその隙間を三量体のキャプシド補強タンパク質(図の緑)が二重にカバーしていることがわかりました。

 本成果は、ピロリ菌ファージが強酸性の胃の中でも破壊されないメカニズムを構造学的に明らかにしました。また、このしくみを応用することにより、抗菌薬の過剰投与による薬剤耐性などの心配のないファージ療法実用化への道が一歩切り開かれると期待されます。

※クライオ電子顕微鏡単粒子解析
急速凍結させた試料から直接電子顕微鏡像を収集し、そこから得られる大量の試料画像を計算機上で平均化、立体再構成することで、もとの三次元的な構造を再構築する方法。



Fig01-HKP30.jpg

図1 ピロリ菌ファージKHP30キャプシドの構造

共同研究情報

宮崎直幸(筑波大学)
内山淳平(麻布大学、(現)岡山大学)
村田和義(生理研/ExCELLS/総研大)

科研費や補助金、助成金などの情報

科研費、AMED BINDS、生理研共同研究

 

リリース元

Title: Acid-stable capsid structure of Helicobacter pylori bacteriophage KHP30 by single-particle cryoelectron microscopy
Authors: Ryosuke Kamiya, Jumpei Uchiyama, Shigenobu Matsuzaki, Kazuyoshi Murata, Kenji Iwasaki, and Naoyuki Miyazaki
Journal: Structure
Issue: S0969-2126(21)00329-4. Epub ahead of print.
Date: Sep. 27, 2021
URL: https://doi.org/10.1016/j.str.2021.09.001

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