「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解(オシロロジー)」
関連の皆様
大変お世話になっております。 オシロロジー広報・アウトリーチ委員会です。
メルマガVol.42です。
さっそくですが、今号の目次です。
今号より、特集として、各計画班代表より
「5年間を振り返っての総括」のテーマで
原稿を執筆いただくこととなりました。
今号は、A03班の池田昭夫先生に原稿をご執筆いただきました。
池田先生、お忙しいなか原稿ご執筆まことにありがとうございました。
==◆オシロロジー Mail Magazine Vol.42目次◆==
【1】池田昭夫先生(A03班):「5年間を振り返っての総括」(★注目★)
【2】2019年度事業実施報告 2019年度に実施された事業について。
【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。 ========================
【1】 池田昭夫先生(A03班):
「5年間を振り返っての総括」(★注目★)
A3班(ヒト脳発振現象の直接記録)代表 池田昭夫
京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座 教授
はじめに
新学術領域研究のオシロロジーの5年間は、基礎研究、臨床研究、
数理科学の3分野の専門家が、神経機構の生理的な作動原理の基盤である
ニューロンあるいは一部はグリアのオシレーションに立ち返って、
ミクロ、メゾ、マクロの視点から現象を観察的、介入的手法で明らかにしつつ、
その作動原理を数理モデルから明らかにしていくという、
画期的な研究班でした。
それにより、正常脳機能、心の問題をつまびらかにして、
中枢神経・精神疾患の病態解明と治療原理を明らかにすることを目指しました。
もちろん5年間で明らかにすることができる範囲は限られていますが、
特に以下の3点が重要であったと理解します。
1)back to the basicでオシレーションに着目して、「オシロロジー」という
新たな考え方で中枢神経機能と病態研究を進めることができたこと、
2)応用数学・数理科学との共同研究からミクロ、メゾ、マクロでの作動原理を
明らかにする方法論と共同研究の組織基盤を形成することができた、
3)他分野・異分野交流から多くのシーズがもたらされたこと。
総括
以下は、A3班に関連する具体的な内容を、報告させていただきます。
A3班は、「ヒト脳発振現象の直接記録」を主点に、
ヒト脳からの実記録データと脳機能作動原理の解明を目指しました。
即ち、非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャー
(てんかん、正常脳機能、病態)を理解することができたか?に関して、
「ネットワーク病のてんかん」を例にとると、
以下の3点にまとめることができました。
(これ以外にも、正常の高次脳機能の正常脳内ネットワーク機構に関して
成果を挙げることができましたが、割愛させていただきます。)
(1)てんかん焦点においてニューロンとグリアの独自活動と同時に
両者の密接な連関を明らかにできた。てんかん発作時には、
active DC shifts (グリア電位がニューロン電位に先行する状態)の存在を、
慢性てんかんモデルおよび難治部分てんかんの外科手術のための
脳内脳波記録データから明らかにでき、
非線形力学での本事象に一致する分岐が存在することが示されました。
発作時にはニューロンのHFO(高周波数律動)は
極めて明瞭な非線形力学系の活動を示し、
細胞外Kのホメオスタシスの爆発的破綻と再正常化が
短時間で起こることが明らかになりました。
一方発作間欠期にはred slow
(発作時焦点にのみ現れる脳波の徐波活動でグリアが関与する)が、
脳波活動のパワーの最小二乗残差が持続する部分に一致して
出現しておりニューロン活動とグリア電位の密接な関与が示唆されました。
(2)発作性運動異常症とてんかん発作の違いは、
少なくとも細胞外Kのホメオスタシスの破綻に関わる。
前者では脳内の限局した部位から脳内に広範に短時間に広がることは
皆無ですが、後者は「部分発作の二次性全般化」として周知の事実です。
本来部分てんかん発作では
シナプス後膜に発生するgiant EPSPであるPDSが病態の本体ですが、
シナプス間隙およびその近傍での細胞外Kのホメオスタシスの破綻が
シナプス外への広汎な伝播に関わることが今回示されました。
(3)以上から、慢性のてんかん発作は、
従前の理解であるニューロンのみでなく、グリアの積極的関与と、
細胞外Kのホメオスタシスの破綻が基盤にあることが新たに解明されました。
今後
今回の結果から、慢性のてんかんでのニューロンとグリアは
超低周波数と超高周波数活動を制御してかつ細胞外Kのホメオスタシスの破綻と
調整を介して両者が密接な連関をもつことが徐々にわかってきましたが、
まだその緒に就いたばかりです。
今後病態から治療へ至るなすべきことは山積みです。
この班会議で培った皆様とのネットワークを大切にして、
正常脳機能と病態解明が進み、
神経精神疾患の克服と健やかな脳を育むことができる未来が
開けることを期待します。今後も何卒よろしくお願い申し上げます。
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【2】2019年度事業実施報告
2019年度に新たに実施された事業です。
□ 第34回日本大脳基底核研究会
2019年8月24日(土)~25日(日)に、米子市皆生グランドホテル天水で開催された
「第34回日本大脳基底核研究会」は、
領域内外から約80名の参加があり盛会となりました。
"大脳基底核と小脳系の情報の統合"と "錐体外路症状は、
大脳基底核がどう障害されて出現するのかー脳のリズムなどから考える"という
テーマでのシンポジウムを開催し、
その他、特別講演1つと17の一般演題があり
どの演題も熱心な議論が行われました。
皆様、共同研究のための打ち合わせ、セミナー、会議等開催に際しては、
オシロロジーHP内会員ページの「書類(申請・報告)」
にある書類をご提出下さい。
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【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。
□ オシロロジー共催シンポジウム「生物の多様な集団発振現象」
「第26回日本時間生物学会学術大会」(10月12日(土)~13日(日))
において、オシロロジー共催のシンポジウムを10月12日(土)に開催します。
生物は多様な集団発振現象であふれており、
様々な階層で様々な周期の生体リズムが観察されます。
本シンポジウムでは、概日リズム、睡眠覚醒リズム、脳波リズム、
神経発火リズム、歩行リズムなど、多様な生体リズムの基盤となる
細胞の集団発振現象について、分子遺伝学、神経生理学、イメージング、
数理解析など多岐にわたるアプローチを用いた研究を紹介します。
それぞれの生理機能について概説すると共に、
リズム発振機構としての多様性と共通性について議論する機会とします。
詳細については、学術大会ホームページをご覧ください。
http://neurophysiol.w3.kanazawa-u.ac.jp/26jsc/
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第26回日本時間生物学会学術大会
シンポジウム2 「生物の多様な集団発振現象」
開催日時:2019年10月12日(土)9:00~11:30
開催場所:金沢市文化ホール会議棟 大会議室
プログラム:
座長:榎木 亮介(北海道大学電子科学研究所)、
郡 宏(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
1. 概日/超短カルシウムリズムを制御する神経回路の可視化解析
榎木 亮介(北海道大学 電子科学研究所 光細胞生理研究分野)
2. 中枢概日時計神経ネットワークの遺伝学的解析 三枝 理博(金沢大学 医薬保健研究域 医学系 統合神経生理学)
3. 視床網様核の新規発振活動と全脳活動との関連 高田 則雄(慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室)
4. 多点計測データに対する機能的結合解析 北野 勝則(立命館大学情報理工学部)
5. マウスステップにおけるリズミカルなチャンクの形成 木津川 尚史(大阪大学大学院 生命機能研究科)
6. リズミカルな動きにおける同期現象のモデリングと解析 郡 宏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
□ 神経ダイナミクスワークショップ
2019年10月15日(火)に、清風荘(京都大学)にて
「神経ダイナミクスワークショップ」が開催されます。
ドイツのSonja Gruen女史を招聘致します。
ご主人のMarkus Diesmann氏も同伴されますので、
お二人の講演を中心に開催する予定です。
Sonja Gruen女史は神経データの統計解析に関しては第一人者ですし、
実験家と理論家のデータや解析法の共有に関するプロジェクトを
指導していますので、双方の話題に関して講演を依頼致しました。
Markus Diesmann氏は神経細胞モデルから皮質ネットワークの
大規模シミュレーションプラットフォームを構築していますので、
最新の研究成果を報告して頂く予定です。
尚、会場の収容定員が少ないため、
早めに班員参加者人数を把握させて頂く必要がございます。
慌ただしくて申し訳ございませんが、
9月20日(金)までに以下のリンク先から参加登録の完了をお願いいたします。 参加登録フォームhttps://forms.gle/sqzpqVEeeSMMe2ef8
□ 第2回Advanced ECoG/EEG Analysis in Epilepsy(AEEE)研究会
第2回Advanced ECoG/EEG Analysis in Epilepsy(AEEE)研究会を
てんかん学会のプレコングレスシンポジウムとして開催します。
本年10月31日(木)から11月2日(土)にかけて開催予定の
第53回日本てんかん学会学術集会の会期前日の10月30日(水)、
大会長の加藤先生からご援助いただき、
第2回「AEEE」研究会が、学術集会の行われる
神戸ポートピアホテル偕楽において開催されます。
詳細は下記をご参照ください。
本企画では、基礎・理論系の研究者がてんかん研究に興味を持ち
積極的に加わるための敷居を下げ、
かつ臨床家にとっても数学理論などに対する苦手意識を克服し、
双方のさらなる協力関係が発展することを目標としております。
皆様のご参加をお待ちしております!
AEEE研究会事務局 京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座
宇佐美清英
―開催概要―
I) 名称:第53回日本てんかん学会学術集会 プレコングレスシンポジウム
Ⅱ) 開催日程:2019年10月30日(水)
Ⅲ) 開催時間:16:00-18:40
Ⅳ) 開催テーマ:第2回Advanced ECoG/EEG Analysis in Epilepsy(AEEE)研究会
Ⅴ) 開催場所:神戸ポートピアホテル 「偕楽」の間
プログラム:
16:00-16:05 Opening remark: 松橋眞生(京都大学大学院医学研究科 てんかん・運動異常生理学講座) 座長: 露口 尚弘(近畿大学医学部 脳神経外科) 長峯 隆(札幌医科大学医学部 神経科学講座)
16:05-16:30 1) 『皮質脳波律動からせまるてんかん原性ネットワーク』 (Epileptogenic network revealed by cortical oscillations) 大坪 宏(Division of Neurology, The Hospital for Sick Children)
16:30-16:55 2) 『てんかん発作の神経ダイナミクス』 (Neural dynamics in epileptic seizures) 北城 圭一(自然科学研究機構・生理学研究所・システム脳科学研究領域 神経ダイナミクス研究部門) 16:55-17:10 ~休憩 15分~
座長: 伊藤 浩之(京都産業大学 コンピュータ理工学部) 飛松 省三(九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学教室)
17:10-17:45 3) 『Characterization and Decoding of Speech Processes from Intracranial Recordings』 Department of Biomedical Engineering, Virginia Commonwealth University, Richmond, Virginia, USA. Dean J. Krusienski
17:45-18:10 4) 『皮質脳波コヒーレンス解析による皮質情報構造の評価』 (Evaluation of cortical information structure using an electrocorticogram coherence analysis) 佐藤 直行(公立はこだて未来大学 複雑系知能学科)
18:10-18:35 5) 『皮質脳波を用いた体内埋込型ブレイン・マシン・インターフェース』 (ECoG-based Implantable Brain Machine Interfaces) 平田 雅之(大阪大学 臨床神経医工学寄附研究部門)
18:35-18:40 Closing remark: 松本 理器(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 脳神経内科学分野)
□ 2019年度オシロロジー国際会議
2019年11月17日(日)〜19日(火曜)に、
2019年度オシロロジー国際会議が開催されます。
会場:芝蘭会館 京都大学医学部創立百周年記念施設
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町 京都大学医学部構内 http://www.med.kyoto-u.ac.jp/shiran/
参加方法 以下のホームページから必要事項を登録してください。 https://www.nips.ac.jp/oscillology/blog/news/
登録締め切り:10月4日(金)17:00
参加費:無料 情報交換会:1000円
□ オシロロジー共催:生理研研究会「力学系の視点からの脳・神経回路の理解」
2019年11月28日~29日に、
オシロロジー共催:生理研研究会「力学系の視点からの脳・神経回路の理解」が
生理学研究所にて開催されます。
研究会の概要:
経時的に変化する外界に柔軟に適応できる脳機能は、
脳神経系が有する動的な特性により実現されると考えられ、
実際に、この特性は、単一ニューロンやシナプスなどのミクロなスケールから
全脳レベルの大域的回路に至るあらゆる階層において観測することができる。
しかしながら、こうした動的特性が、脳機能の仕組 みにおいて、
どのように寄与しているかはまだ十分に理解されていない。
とりわけ、リズムや同期といった脳活動は、認知機能のみならず、
脳疾患時の機能不全とも密接な関係があるが、その詳細は不明な点が多い。
一方、マルチニューロン活動計測や脳波・皮質脳波など、
多点計測データの取得により、脳神経系の動的特性やその機能的意義について、
多自由度力学系の観点から解析することが可能となり、
近年、こうした研究に注目が集まりつつある。
本研究会が、国内の関連する研究の議論の場となり、
この分野における研究を推進することを期待する。
詳細については、研究会ホームページをご覧ください。 https://www.nips.ac.jp/nd/meetings/2019/09/20191128.html
□ 2019年度第2回領域会議
2019年度の第2回領域会議が、
2019年12月20日(金)13:00 - 17:00 & 21日(土)9:00- 16:30に
東京にて開催されます。
詳細が決まり次第、アナウンスさせていただきます。
領域会議は、原則として班員はご参加ください。
最後まで読んで頂いた皆様、誠にありがとうございました。
今後も月1回のメルマガで情報を発信させて頂ければと思います。
次号は2019/10/25 発行予定です。
皆様、本年も引き続きよろしくお願い致します。
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文部科学省新学術領域研究(H27-31)
「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」
Mail Magazine Vol.42 2019/9/25 発行(毎月25日発行)
発行・編集人:武山博文(広報・アウトリーチ委員会)
京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター内
〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54
*本誌に関するご意見・お問い合わせは oscillology[at]nips.ac.jp までお寄せ下さい。
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