「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解(オシロロジー)」 関連の皆様
大変お世話になっております。 オシロロジー広報・アウトリーチ委員会です。
メルマガVol.44です。
さっそくですが、今号の目次です。
今号より、特集として、各計画班代表より「5年間を振り返っての総括」のテーマで
原稿を執筆いただくこととなりました。
今号は、B01班の森田賢治先生に原稿をご執筆いただきました。
森田先生、お忙しいなか原稿ご執筆まことにありがとうございました。
==◆オシロロジー Mail Magazine Vol.44目次◆==
【1】森田賢治先生(B01班):「5年間を振り返っての総括」(★注目★)
【2】2019年度事業実施報告 2019年度に実施された事業について。
【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。
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【1】 森田賢治先生(B01班):「5年間を振り返っての総括」(★注目★)
ヒューマンネイチャーとは何か、ということは、領域開始前から事あるごとに
繰り返し問われ、私自身も考えてきました。一つには、およそ人間の行うこと全
てが結局はヒューマンネイチャーに関わるのではないかと思われ、知覚、認識、
運動、記憶など様々な機能それぞれが、ヒューマンネイチャーを問う上で奥深く
探求していくべきものであることは間違いないことと思われます。しかしながら、
もう一方では、人の数ある行動・機能の中でも、情動を伴うこと、たとえばやる
気を出すか失うか、努力するか怠けたり面倒くさがったりするか、あるいは面白
がるかつまらなく思うか、といったようなことは、とりわけ「人間くさい」こと
のようにも思われ、それゆえ、ヒューマンネイチャーに特に密接に関わるのでは
ないかという気が、個人的にはするところです。それらに少なくともある程度関
わるテーマについて共同研究者の方々と研究を展開する機会を与えて頂けたこと
に、何より感謝しております。
やる気・モチベーション、あるいは努力については、ドーパミンが強く関わる
ことが、かねてから示唆されてきました。ドーパミンは、また一方では、報酬・
価値の学習において「予測誤差」を表し価値予測の更新に用いられることが広く
示唆されていますが、やる気や努力に対するドーパミンの影響は、そうした「予
測誤差」としての機能とは別のものなのではないかということが有力な考えとし
て出されつつも、真相や詳細は依然明らかになっていないのが現状だと言えると
思います。この問題に対して、共同研究者の加藤郁佳さん(当初は学内の研究体
験プログラムに参加する形で私の研究室に参加して頂いた方で、現在は東大総合
文化研究科学振DC・理研)と、数理モデルを用いて、非線形力学系の分岐解析も
含めて取り組んできました(Kato & Morita, 2016, PLoS Comput Biol; Morita
& Kato, 2018, eNeuro)。内容については、ここでは割愛させて頂き、執筆の機
会を頂いた「BRAIN and NERVE−神経研究の進歩」誌に、私達の研究を含めた総
説を書かせて頂こうと思っておりますので、ぜひそちらをご覧頂けたら幸いです。
次に、怠けたり面倒くさがったりする、ということに関連しますが、
人間は身体的負荷・努力のみならず精神的負荷・努力も回避する傾向を示す、
ということに関する認知心理学・神経科学的な研究が、
2010年頃以降、世界的に一気に行われるようになってきました。
共同研究者の永瀬麻子さん(昨年度後半は私の研究室で特任研究員、
今年4月よりC03班の花島先生の研究室で学振PD)は、
私が坂井克之先生の研究室の助教を務めていた当時に院生だった方で、
早くから、変動する環境下での認知的負荷の回避の行動・脳機構について、
研究を進めてこられてきました。
私は主にモデルフィッティングの面から共同研究させて頂いてきましたが、
重要な段階でオシロロジーのサポートを頂き、昨年世に出すことができました
(Nagase et al., 2018, J Neurosci)。
こちらの内容については、先ごろ「Clinical Neuroscience(月刊 臨床神経科学)」誌に
執筆する機会を頂き、今年の4月号に「頭を使うのを嫌がる脳のしくみ(永瀬&森田)」
という総説を書かせて頂きましたので、ぜひご覧頂けたら嬉しく思います。
最後に、面白がる・つまらなく思う、ということに関連しますが、
私の研究室で、今年3月まで特任助教を務めて下さった野村亮太さんは、
落語の観客どうしの瞬目の同期についての研究など、
独創的で興味深い研究を展開されてこられた方です。
瞬目の頻度は、脳内ドーパミンのレベルの影響を受けることが示唆されている
という点でも興味深いものです。
野村さんは、瞬目の新たな数理モデルとして、
閾値の変動する積分発火モデルを提案され(Nomura et al., 2018, PLoS One)、
今後、このモデルも用いて、上記の、観客どうしの同期なども含め
さらに研究を展開されていくことが期待されます。
野村さんは、元々心理学の分野での博士号をお持ちでしたが、特任助教として務められる傍ら、
数理モデリングの分野で第二の博士号取得に取り組まれて見事に取得され、
今年4月から講師として栄転されました。
このような過程でオシロロジーのサポートを頂けたことを、私としても大変感謝しております。
ここまで私自身と共同研究者の方々の研究について
(内容自体には殆ど踏み込めていないですが)書かせて頂き、
当B01班の郡さん・藤澤さんのご研究については触れられていないのですが、
だいぶ長くなってしまったこともあり、
恐縮ながらこの辺りで筆を置かせて頂こうと思います。
オシロロジーでの5年間は、上にも書かせて頂いたように大変実り多いものでしたが、
それと同時に、今後取り組んでいくべき方向も明確にすることができました。
オシロロジーの皆様とは、今後も色々なところでご一緒する機会があることと思い、
またそれを強く願っております。5年間、本当にありがとうございました。
また今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。 -----
森田 賢治
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【2】2019年度事業実施報告
2019年度に新たに実施された事業です。
□ 論文掲載(A01福田班)
KCC2のリン酸化による制御に関する論文が
Science Signalingに掲載されました(A01福田班)
脳内の主要な抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)は
発達期には興奮性伝達物質として働いており、
発達に伴いカリウム-クロライド共役担体(KCC2)の機能が高まることにより、
GABAの作用は興奮性から抑制性に変化しますが、
そのメカニズムは明らかになっていませんでした。
今回、浜松医科大学神経生理学講座の渡部美穂助教、福田敦夫教授、
イェール大学医学部のKristopher T. Kahle博士らのグループは、
この変化にはKCC2のリン酸化による機能制御が関わっており、
幼若期にはKCC2の906番目(Thr906)と1007番目(Thr1007)のスレオニン残基が
リン酸化されているため機能が抑制されており、
発達に伴い脱リン酸化されることでKCC2が機能し始め、
GABAによる抑制性伝達が形成されることを明らかにしました。
よって、発達期にKCC2のThr906とThr1007のリン酸化が適切に制御されることが、
抑制性GABA伝達の形成に必須であり、
神経発達および生存に重要であることが明らかになりました。
この研究成果は、10月16日(日本時間)に
米国科学振興協会の科学雑誌「Science Signaling」に掲載され、その表紙を飾りました。
また、Editorial Boardにより注目論文に選定され、
「FOCUS」に論文の紹介およびコメントが掲載されました。
この論文は2016年3月に本領域としてはじめて国際共同研究加速基金(国際活動支援班)
の支援を受け、Kristopher T. Kahle博士を浜松医科大学に招聘し、
本研究に関する議論を深め、共同研究を行ってきた成果です。
Miho Watanabe#, Jinwei Zhang#, M. Shahid Mansuri#, Jingjing Duan, Jason K. Karimy,
Eric Delpire, Seth L. Alper, Richard P. Lifton, Atsuo Fukuda*, and Kristopher T. Kahle*.
Developmentally regulated KCC2 phosphorylation is essential for
dynamic GABA-mediated inhibition and survival.
Science Signaling. 12(603): eaaw9315, 2019. doi:10.1126/scisignal.aaw9315.
□ オシロロジー共催シンポジウム「生物の多様な集団発振現象」開催
第26回日本時間生物学会学術大会」(10月12日(土)~13日(日))において、
「生物の多様な集団発振現象」と題して、
共催シンポジウム(150分)を開催した(10月12日 9:00-11:30)。
シンポジストは、時間生物学会会員の「オシロロジー」班員
(A05三枝理博、榎木亮介、B01郡宏)と
非学会員のオシロロジー班員
(A05木津川尚史、高田 則雄、B02北野勝則)の計6名、
座長は榎木と郡が務めた。
概日リズムだけでなく、睡眠覚醒リズム、脳波リズム、神経発火リズム、
歩行リズムなど、多様な生体リズムの基盤となる細胞の集団発振現象について、
分子遺伝学、神経生理学、イメージング、数理解析など
多岐にわたるアプローチを用いた研究を紹介し、
リズム発振機構としての多様性と共通性について議論する機会となった。
また、班員間の共同研究についてもディスカッションを行った。
□ 「神経ダイナミクスミニワークショップ」開催
2019年10月15日(火)に、清風荘(京都大学)にて、
国際共同研究加速基金で招聘を行った
ドイツ ForschungszentrumのSonja Gruen女史の
講演を中心にミニワークショップを開催した。
Gruen女史はサル運動皮質から記録した多細胞データに含まれる
高次相関に関しての新たな解析方法の説明および
ヨーロッパ、ドイツでのデータ共有の現状に関して講演を行った。
また、同伴して来日したMarkus Diesmann氏は、
皮質活動の全脳シミュレーションの現状に関しての講演を行い、
さらに3名の若手研究者が、自身の研究に関してショートトークを行った。
理論と実験の双方の研究者から活発な質問があり、
有意義な議論を行うことが出来た。
□ 2019年度オシロロジー国際会議
2019年11月17日(日)〜19日(火曜)に、
2019年度オシロロジー国際会議が開催されました。
約100名の参加があり、活発な議論が交わされ、盛会のうちに終了しました。
皆様、共同研究のための打ち合わせ、セミナー、会議等開催に際しては、
オシロロジーHP内会員ページの「書類(申請・報告)」
にある書類をご提出下さい。
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【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。
□ オシロロジー共催:生理研研究会「力学系の視点からの脳・神経回路の理解」
2019年11月28日~29日に、オシロロジー共催:
生理研研究会「力学系の視点からの脳・神経回路の理解」が
生理学研究所にて開催されます。
研究会の概要:
経時的に変化する外界に柔軟に適応できる脳機能は、
脳神経系が有する動的な特性により実現されると考えられ、実際に、この特性は、
単一ニューロンやシナプスなどのミクロなスケールから全脳レベルの大域的回路に至る
あらゆる階層において観測することができる。しかしながら、こうした動的特性が、
脳機能の仕組 みにおいて、どのように寄与しているかはまだ十分に理解されていない。
とりわけ、リズムや同期といった脳活動は、認知機能のみならず、
脳疾患時の機能不全とも密接な関係があるが、その詳細は不明な点が多い。
一方、マルチニューロン活動計測や脳波・皮質脳波など、多点計測データの取得により、
脳神経系の動的特性やその機能的意義について、
多自由度力学系の観点から解析することが可能となり、
近年、こうした研究に注目が集まりつつある。
本研究会が、国内の関連する研究の議論の場となり、
この分野における研究を推進することを期待する。
詳細については、研究会ホームページをご覧ください。 https://www.nips.ac.jp/nd/meetings/2019/09/20191128.html
□ 2019年度第2回領域会議
2019年度の第2回領域会議が、
2019年12月20日(金)〜 21日(土)に開催されます。
日程 12 月 20 日(金)受付 13:00~ 開始 13:25 終 了 16:45 情報交換会 18:00~ 12 月 21 日(土)受付 9:00~ 開始 9:15 終 了 16:30 場所 国立大学法人一橋大学 一橋講堂(学術総合センター内)2F 中会議場 〒101-8439 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2 HP:http://www.hit-u.ac.jp/hall/index.html 電話:03-4212-3900
オシロロジー最後の領域会議となりますので、計画班、公募班の皆様に
口述発表をお願いしたく存じます(質疑応答含め15分)。
領域会議は、原則として班員はご参加ください。
本領域会議は
次世代脳プロジェクト冬のシンポジウム2019の一部として開催されます。
http://www.nips.ac.jp/brain-commu/2019/regist2019.htmlにて
次世代脳プロジェクト冬のシンポジウム2019への参加登録もお願いします。
最後まで読んで頂いた皆様、誠にありがとうございました。
今後も月1回のメルマガで情報を発信させて頂ければと思います。
次号は2019/12/25 発行予定です。
皆様、本年も引き続きよろしくお願い致します。
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文部科学省新学術領域研究(H27-31)
「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」
Mail Magazine Vol.44 2019/11/25 発行(毎月25日発行)
発行・編集人:武山博文(広報・アウトリーチ委員会)
京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター内
〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54
*本誌に関するご意見・お問い合わせは oscillology[at]nips.ac.jp までお寄せ下さい。
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