計算論的神経科学

脳では、神経活動の同期、非同期をはじめとする多様な非線形ダイナミクスにより動的なネットワークが形成され、柔軟な情報処理機構が実現されていると考えられます。当部門では、次の3つのアプローチをもとに脳情報処理を担う非線形ダイナミクスの機能的役割と、その計算論、機構的な仕組みの理解を目指します。

1. データ駆動的な解析による脳神経ダイナミクスの理解

心理実験などを通して観測した実際の脳神経活動の時系列データをもとに、Phase Synchronization Index (PSI)等の同期指標や、 Transfer Entropy等の情報論的指標を用いて解析し、データの背景にある脳領域間の情報伝達様相を明らかにします。

研究成果:
Song Ye, Keiichi Kitajo, Katsunori Kitano, Information-theoretic approach to detect directional information flow in EEG signals induced by TMS. Neuroscience Research, 4307, 1-9, doi: 10.1016/j.neures.2019.09.003, 2019.

2. 数理モデル化による定式化

脳神経活動が見せる多様な非線形ダイナミクスを数理モデルにより再現することを目指します。これにより、脳の同期、非同期ダイナミクスの背景にあるネットワーク結合とその過渡的変化を数式化し、脳情報処理の機構的な仕組みを記述するモデルを提案します。

研究成果:
Kei-ichi Ueda, Yasumasa Nishiura, Keiichi Kitajo, Mathematical mechanism of state-dependent phase resetting properties of alpha rhythm in the human brain. Neuroscience Research, 4387, 1-13, doi: 10.1016/j.neures.2020.03.007, 2020.

3. モデルとデータを組み合わせた解析法の提案

ベイズ的推論やデータ同化の手法を導入し、実際の計測データが示す脳の力学的現象を数理モデルと統合し、モデルのパラメタを推測します。これにより、脳の情報処理機構や脳の位相同期ネットワークが担う機能的役割をデータ駆動的に理解することを目指し、応用研究に繋げていきます。

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