「次世代脳」プロジェクト 冬のシンポジウム 2017 開催レポート

2017年12月19日(水)-21日(金)に開催いたしました、「次世代脳」第2回冬のシンポジウムでは、多大なるご協力を賜り誠にありがとうございました。おかげさまで、500名を超える研究関係者の方にご参加いただきました。
ポスター発表数は140演題にのぼり、熱心な討議が繰り広げられました。若手の発表者を対象とした「若手優秀発表賞」の審査も行われ、20名が表彰されました。

各イベントの主催者または参加者の方に執筆いただいたレポートをご紹介いたします。
また、参加者の皆様にご協力いただきましたアンケートの結果も掲載いたします。
ご感想および2018年度のシンポジウムに向けてのご提案ご提言などがございましたらContactよりどしどしお寄せください。
今後とも「次世代脳」プロジェクトをよろしくお願いいたします。

2017年度 開催レポート


新学術領域研究 [記憶ダイナミズム][人工知能と脳科学][オシロロジー][適応回路シフト]
─ 意志創発の進化・脳・心理基盤 ─

学際的で挑戦的な脳科学アプローチの実現を目指して、新学術領域研究4領域の若手研究者7名(敬称略)が最先端の研究成果と今後の方向性を紹介した。齊藤領域「記憶ダイナミズム」からは上野耕平(東京都医学総合研究所)と國友博文(東京大学)が、小林領域「適応回路シフト」からは北西卓磨(大阪市立大学)と平田普三(青山学院大学)が、銅谷領域「人工知能と脳科学」からは鈴木雅大(東京大学)と松本有紀子(京都大学)が、南部領域「オシロロジー」からは小林勝哉(京都大学)が講演し活発に議論した。

[共感性][こころの時間学][意志動力学][個性創発脳][思春期主体価値]
─ 意志創発の進化・脳・心理基盤 ─

「意志創発の進化・脳・心理基盤」と題し、2017年度プログラム中最多となる5領域での合同シンポジウムを行った。
各領域の若手2名ずつが登壇し、意志創発の「脳回路・発達基盤」「時間・報酬系基盤」「進化・心理・社会基盤」の3つの切り口で10の研究、ひいては5 つの領域を捉え直す形式を取った。
このような形で他領域を知ることが逆に各領域の枠組み・ 独自性を再認識することにも繋がり、その上での真の領域間連携の可能性を、参加者にも強く感じてもらえる有意義な機会となったように思う。

[温度生物学]
─ 温度脳神経科学 ─

温度は、分子の存在状態と反応性を規定する最も基本的な物理量である。2015 年に発足した新学術領域研究「温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)」に関連して5名の講師によるシンポジウム「温度脳神経科学」を行い、脳神経科学における温度の重要性をディスカッションした。
・「温度感受性TRPチャネルと痒み」
・「一次体性感覚野の興奮性・抑制性神経細胞による温度センシング機構」
・「伸長中軸索内部に存在する発熱スポットと機械刺激のsynergistic effect によるTRPV2 活性化と神経回路形成の促進」
・「体温と代謝の自律性・行動性調節を担う神経回路機構」
・「脳内中枢時計によるG蛋白質共役受容体を介した体温の概日性制御機構」

[グリアアセンブリ][脳タンパク質老化]
一 グリア研究とタンパク質老化研究の接点を求めて 一

今回の2領域合同シンポジウムは、祖父江元 領域代表(脳タンパク質老化)と池中一裕 領域代表(グリアアセンブリ)が企画した。神経変性疾患およびグリア研究の最新成果について、長谷川成人 チームリーダー(都医学研)、小野寺理 教授(新潟大)、福山秀直 教授(京都大)、小泉修一 教授(山梨大)が講演し、参加者と共に議論を深めた。脳病態の統合的理解のためには、神経細胞のみならずグリアや血管ニッチなど様々な視点から研究を行うことの重要性を共有することができ、今後の研究の方向性を考える上で有意義なシンポジウムとなった。

新学術領域研究「脳情報動態」企画ミニシンポジウム
一 行動制御を規定する多領野連関 一

本年度発足した本領域の概要説明を領域代表の尾藤晴彦(東京大学)より行い、次い で三名の計画班員が講演を行った。川口泰雄(生理学研究所)から、生理学・電子顕微鏡・回路モデルの手法を用いた大脳皮質細 胞構築について、喜多村和郎(山梨大学)から、行動課題学習中マウスの小脳プルキンエ細胞活動の2光子イメージングと学習連関について、春野雅彦(研究開発法人情 報通信研究機構)から、fMRIによって明らかにされたヒト意思決定における大脳皮質・皮質下領域の活動とそのモデルについて、お話しをいただき、活発な質疑応答が なされた。

「次世代脳」実行委員会企画プログラム
一 日本の神経科学~温故知新~ 一

本企画は、我が国の脳神経科学の礎を築かれた先生方の研究や想い出とともに、関連分野の最新の知見を紹介するシリーズ企画である。第二回は、故・沼正作先生を特集した。三品昌美先生からは、高等生物の分子神経生物学を開拓した沼先生のご研究が、生物学の歴史を大きく推し進め、世界の研究者を揺り動かしたことに加え、研究に生涯を捧げた沼先生のお人柄を様々なエピソードとともにご紹介いただいた。岩田想先生からは、X線構造解析により初めて解明されたG蛋白質共役型受容体の原子レベル構造とその活性との関係性をお教えいただき、膜蛋白の原子レベル構造を動画撮影できる新時代の構造解析をご紹介いただいた。沼先生の研究者・教育者としての偉大さを学ぶとともに、時代を切り拓く研究者が備える資質を垣間見た、貴重な機会となった。

「次世代脳」実行委員会企画プログラム
一 デコーディング脳科学 細胞から心まで 一

デコーディング技術を研究に活かしている理論系および実験系の研究者4名(岡田真人先生、田中康裕先生、西村幸男先生、西本伸志先生)に、脳科学におけるデコーディングの理論的基盤、長所と短所、細胞から心に至る応用例などについて紹介していただいた。その後、それぞれの立場からデコーディング脳科学の将来の方向性と戦略についてパネル・ディスカッションをおこない、会場を巻き込んで活発な質疑応答が繰り広げられた。

[スクラップビルド][脳構築の時計と場] 
一合同若手シンポジウム一

本シンポジウムでは、「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」 と「脳構築における発生時計と場の連携」の2つの新学術領域における新進気鋭の研究者15名に最新の話題を提供して頂いた。また若手研究者27名がポスター発表を行い、 今後の研究のブレークスルーについて活発な議論が行われた。