2. 中期計画・年度計画・評価

現在、生理学研究所では、異なる制度に従って異なる目的の複数の評価が行なわれている。それぞれ評価はお互いに関係しているが、目的が異なるために、観点、内容、評価者等が異なる。

  1. 事業年度の業務実績に関する評価
  2. 中期目標期間の評価
  3. 生理学研究所の点検評価
  4. 研究教育職員の再任評価

今年度は生理研の管理体制の変更にともない、副所長に代わり新しく設けられた研究総主幹が評価作業の統括を行なう事となった。また、評価に関する資料の収集・整理・分析のために新たに点検連携資料室が設けられた。点検連携資料室により共同研究や研究会に関する追跡調査が行なわれた(第Ⅰ部:共同研究)。

2.1 事業年度の業務実績に関する評価

文部科学省国立大学法人評価委員会(以下、評価委員会)が行なう中期計画の年度毎の業務実績評価である。中期計画が開始されたのが2004(平成16)年4月であり、この年度評価は2007年度で3回目である。これまでと同様に自然科学研究機構の評価に関するタスクフォース(座長は福島国立天文台副台長、生理研委員は井本、南部)が中心ととなって昨年度(平成18年度)の実績報告書(案)及びその付属資料を作成し、自然科学研究機構の諸会議で審議、改訂した後、報告書は6月末に文部科学省に提出された。その後の評価委員会からの書面による質問、評価委員会によるヒアリングも、特に大きな問題なく進められた。2007年10月5日に公表された評価委員会の評価は、評価の4項目のすべてに関して順調に進行しているというものであった(資料に掲載 第Ⅶ部:評価結果)。しかしながら、「新分野開拓に繋がるアイディアの芽」、「統合のメリット」、「監査機能が充実」、「研究成果を広く社会に公開するための効果的な取組」などいろいろな項目に関して、「期待される」というコメントが付けられており、今後の対応が必要である。なお、評価書と同時に発表された「国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況(平成18年度)」の中で、自然科学研究機構に関連する項目としては、「分野関連携プロジェクト」と「機構事務局の国際アソシエイト」が取り上げられている。

本点検評価報告書を作成する時期は、次年度の年度計画を立てる時期でもある。中期計画の5年目にあたる来年度の年度計画は、従来の年度計画から大きく変更する必要なないと考えられるが、これからの2年間は次期中期計画への橋渡しとなる期間である事を考えると、ある程度先を見通した上で年度計画の調整を諮っていく必要があると思われる(2007年度の年度計画は、第Ⅶ部:年度計画を参照)。

2.2 中期目標期間の評価

本来、中期計画は終了後に評価が行なわれるべきなのであろうが、そのようにすると次期の中期目標・中期計画に評価結果を活かせないことになってしまう。その点を考慮して、中期目標期間の評価を、4年次終了後に行なう事となっている。この評価は、「暫定評価」と呼ばれた事もあるが、最近は「平成20年度に行なわれる評価」と呼ばれる事が多いようである。

この「平成20年度に行なわれる評価」では、大学評価・学位授与機構が研究・教育面での評価を行ない、評価委員会が研究教育の部分以外の実績評価を行なう。評価委員会は、大学評価・学位授与機構の評価結果を考慮して最終的な評価結果を平成21年度に出す予定となっている。大学評価・学位授与機構が行なう教育・研究の評価内容は、これまでにかなりの紆余曲折を経て、2007年の初頭にほぼ定まった。この評価は、すべての国立大学法人と大学共同利用機関法人の評価を一気に行なう評価であり、評価対象の多様性を考慮に入れているが、基本的に業績は論文発表を中心に制度設計されている。この評価に体する準備作業は、まだ開始したところである。何分初めての評価であるため、ポイントを絞ることが困難で、2008年1月の時点では準備を進めながらも他の機関の動向を伺っているという状況である。

「平成20年度に行なわれる評価」のための報告書は、機構で作成する部分と、研究所で作成する部分がある。前者はこれまでの年度毎の報告書と同様に評価タスクフォースが報告書案を作成していく予定である。後者の研究所関連の報告書は、評価を担当することになっている研究総主幹が中心となり作成していく予定であり、既に資料収集などの作業を行なっている。

大学共同利用機関においては、教育は評価の対象ではない(生理科学専攻として総研大の一部として評価されるが)。評価の対象となる研究業績は生理研内での研究だけではなく、共同研究・共同利用による研究も含まれる。大学共同利用機関としての役割を的確にアピールしていく事が重要と思われる。

2.3 生理学研究所の点検評価

本点検評価書がこれに当たる。この点検評価作業は1993年より毎年行なわれている。評価内容の詳細は毎年変化しているが、基本的には、2つの内容からなっている。その一つは、研究所全体の活動を総括し問題点の抽出と解決策の模索である。所内の研究教育職員が課題を分担し報告書案を作成し、点検評価委員会ならびに運営会議にて審議していただく。もう一つは外部有識者による研究部門業績評価である。毎年、3--4つの研究部門の外部評価を行なうので、それぞれの研究部門は3--4年毎に外部評価を受けることになる。

研究所活動の点検

研究所全体の活動を総括し問題点の抽出と解決策の模索を図る事は、法人化後重要性を増している。この点検の作業を有益なものとするには、いわゆるPDCAサイクル{PDCAサイクル:マネジメントの用語で、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のプロセスを順に実施する。}を踏まえたものであることが好ましい。しかし計画を立てても予算上の制限で実行が出来ない事項が多くあることも事実である。

研究活動のマネジメント上、今年度の大きな動きは“研究の当面の柱”として研究所のグランドデザインが示されたことである。このグランドデザインでは、現在研究所で行なわれている研究活動を大きく5つの領域に分類し、それぞれの目指す方向性を表したものである。個々の基盤的学術研究がある程度束になることにより一層優れた研究となることを目指したものであり、いわゆるトップダウン的研究マネジメントと同じものではない。研究領域ごとの研究活動の評価も自己点検の一部として行なうべきであるとの指摘を受けているが、今年度はグランドデザインが定まってからの時間的な余裕がなかったため、まとまった評価活動を行うことは出来なかった。来年度は研究所内での研究発表会等を通じて評価を行い、それぞれの研究がより発展するような制度を作り上げていくことを課題としたい。

外部評価

昨年度までは外部評価委員の選考は、各方面の意見を参考にしながらも所長が行なっていた。実際的にはこの選考方法で問題ないと考えられるが、外部評価の透明性をより高めるために、今年度からは外部評価委員を関係学会に推薦していただく事となった。この方法は、生理学研究所運営会議での議論に基づくものであり、日本生理学会と日本神経科学会にそれぞれ3名の外部評価委員の推薦をしていただいた。理想的には、外国人研究者による評価も学会推薦で選ばれた研究者により行なわれる事が好ましいが、現在の研究所の財政では外国より評価者を招聘することは難しい。これまで学会等で日本を訪れた研究者や、生理研外国人客員教授に評価を依頼してきたが、外国研究者による評価は今年度も例年通りに行なった。

外部有識者に研究成果・研究水準に関する外部評価をしていただく事は、容易ではないにせよ、いろいろ役立つ批判をしていただける。外部評価で困難な事は、研究所全体に関する意見をいただく事である。忌憚ない意見を出していただく事自体がなかなか難しいし、また理想的な意見であっても、諸事情からそのコメントを活かせない場合が多い。一つの試みとして、昨年度は生理研運営会議の外部委員の先生方全員(10名)にアンケートをお願いした(昨年度の報告書に掲載)。今年度は、国際生理学会の重鎮であるPetersen教授に来所いただき、研究所全体の評価をしていただいた(第Ⅱ部)。

2.4 研究教育職員の再任評価

生理学研究所では、2002年より任期制をとっているが、2004年4月の法人化の際に任期制の制度が変ったため、実質的には2004年からということになる。生理研の任期制は、採用される教授、准教授、助教に適用され、任期は5年とする。任期更新は任期を定めずに採用とする。

2004年4月からの任期は、2009年3月に終了するため、2008年の中頃までには任期更新可否の判断を行なう必要がある。このため2007年3月に開催された生理学研究所運営会議で再任評価委員会の設置が決められ、運営会議委員から所外3名、所内3名計6名が選ばれた。

再任評価委員会では、審査方法等について議論を行った結果、論文の発表数を基本的な指標にする、今回は対象者が多いために予備調査を行なう事が必要である、との合意が得られた。夏から秋にかけて2004年以降に発表された論文数を調査し、その調査結果により予備審査を行なった。その結果、更なる検討(本審査)が必要な再任評価審査対象者は7名となった(このうち2名は、他の職場への異動のため退職)。本審査対象者には、2004年からの研究の状況、論文の準備状況、将来のキャリアについての考え方、を書類として再任評価委員会に提出していただいた。書類から、対象者全員はいずれも十分に研究に励んでいること、論文の投稿の準備も進んでいる事が明らかであったため、この時点で面談調査を行なう必要なないと判断された。論文発表が十分出なかった理由として、レベルの高い仕事を狙っているうちに、時間がかかってしまったということが多いようである。

この再任評価の制度には、いろいろな問題点が指摘されている。

(1) まず任期制がすべての研究教育職員に適用されているわけではない事である。 統合バイオサイエンスセンター所属の研究職員が採用される時には適用されない。 また任期制導入前に採用された研究教育職員には適用されていない。 論文発表数の予備調査は、任期制が適用されていない研究職員も対象にして行なわれたが、 論文の発表数という指標で見た場合、任期制導入以前に採用された研究職員(准教授、助教)に基準値に達しない者が多かった。

(2) 論文発表数を基本的な指数とする場合、生理学・神経科学といった比較的狭い研究領域でも、専門領域によって“論文の出やすさ”は異なる。今回の予備審査でもその点をある程度考慮に入れたが、数値の根拠は“まあこの程度”といった決め方で客観性に欠いている。言うまでもないが、論文発表以外にも審査で顧慮すべき点はいろいろあるが、そのような点をどのように反映していくかも今後の課題であろう。

なお、「再任評価」という用語は、現在の雇用の状態と照らし合わせて適切な表現ではない、という指摘を受けているが、本点検評価書では、慣用的に使われている表現をそのまま使う事とした。

2.5 効果的な評価制度を目指して

生理学研究所の運営資金の大部分は税金に由来するものであり、国民の期待に沿う研究成果があげられているかを外部評価者に公正に評価していただく事は、極めて重要な事である。幸い外部評価者の評価は、われわれの自己評価を上回るものであり、いろいろなコメントを活かして今後も研究の更なる発展に努力しなくてはならない。

一方、このように評価が多重に行なわれる事は、それぞれに目的があるから仕方がないことではあるが、研究所の活動に大きな負担となっている。これらの評価作業を専任で受け持つ専門職員がいる訳ではなく、研究職員への負担も大きい。評価作業による研究活動への悪影響が懸念される。