16 広報活動・社会との連携

16.1 はじめに

かつては大学や研究所、特に自然科学系の施設は「象牙の塔」とも称され、独立した施設として、世間とは隔絶した存在となっていた。しかし、研究に対する倫理観が厳しく問われるようになり、また血税をもって行われている研究は、当然ながら国民に対する説明責任(accountability)を有している。それはいわゆる「評価」とは別の次元における研究施設の当然の責務である。この点に関しては「広報活動」と「社会との連携(アウトリーチ)」が2つの大きな柱となる。

16.2 「情報処理発信センター」の新設

2008年、生理学研究所では、広報活動の主体である広報展開推進室や医学生理学教育開発室と、これまでホームページ(HP)管理などをおこなってきたネットワーク管理室、また点検連携資料室をあわせ、あらたに「情報処理発信センター」としてセンター化し、学術情報発信担当主幹教授をセンター長として、業務の体系化・統一化を行った。センター化によって広報活動や社会との連携をスムーズに行い、また、将来の広報活動データ・実績・HP等のアーカイビングにむけた作業を円滑に行うことができるものと期待される。

16.3 活動概要

とくに広報展開推進室を中心として、2008年の広報活動・社会との連携は目覚ましく発展した。新たに発展した広報活動としては、以下のとおりである。

岡崎地区における地域広報として、2008年より岡崎げんき館(岡崎市保健所)との提携にもとづき「せいりけん市民講座“からだの科学”」を5回開催し、毎回200名超が参加する、市民にも人気の講座となった(詳細は 市民講座参照)。また、2008年1月より創刊した科学絵本「せいりけんニュース」は、隔月で7,000部配布し、市民からの問い合わせが増えるなど、市民に愛される冊子となった。さらに、11月1日には“せいりけん一般公開”を行い、過去最高の2057名の参加があった。また12月10日には、生理学研究所1階の旧所長室を改造して広報展示室を設け、新たに見学用として公開した。他の2研究所と共に発行している市民向けの広報誌「OKAZAKI」を改編し、近隣高校とのアウトリーチ活動をアピールする冊子として編集方針の変更を行い、岡崎高校や岡崎北高校と岡崎3研究所の取り組みを紹介した。

機構との広報・アウトリーチ活動の連携についても、広報展開推進室の室長および専任准教授をコーディネーターとして、精力的に行われてきた。昨年度設置された「広報に関するタスクフォース」を中心として、自然科学研究機構の存在と、そこで行われている研究内容を、どのように世間にアピールしていくか、について引き続き討議している。春と夏に行われる自然科学研究機構シンポジウムは、一定の成果をあげている。なお、岡崎3研究所では「アウトリーチ連絡委員会」を新たに設置し、広報展開推進室室長および専任准教授がそれぞれ委員長および委員として参加している。

16.4 問題点

上記のように、2007年10月の専任准教授着任以来、生理研を広く知ってもらうために「できることはすべて行う」という方針のもと、業務の拡大が行われてきた。その一方で、「広報」または「アウトリーチ」といった言葉の定義があいまいで、どこまでが広報活動/アウトリーチ活動か判断が難しく、広報展開推進室の現在の規模や実態を超えた過剰な業務が、センターの中でもとりわけ広報展開推進室に課されてきた。たとえば、岡崎高校をはじめとする近隣の高校や岡崎市の小中学校との連携が強まっており、「アウトリーチ」と「教育」の境界が不明瞭なまま、こうした教育機関に対するアウトリーチ活動業務(見学・職場体験受け入れ、教育実習の支援、講演など)が多くなっている。具体的には、岡崎高校のSSH活動に対する協力活動や、見学受け入れ、また、岡崎市教育委員会理科部と連携した「心と体の科学」理解増進事業、小中学生夏休み自由研究に対する「せいりけん未来の科学者賞」の授与、等である。

こうした教育機関との連携や活動は、評価の高いところでもあり、今後も推進していくべきであると考えるが、増え続ける教育機関との連携活動作業を無理なく行うための体制づくり、ならびに業務の見直し整理が必要である。例えば、現在は客員教授のみの部門である医学生理学教育開発室の体制整備、広報展開推進室に対する人的・資金的な支援体制を整える必要があろう。費用対効果の面から、センター全体の業務を見直し、業務の優先順位と効果的な方法への改善、適切なシステムや体制整備を図る必要がある。

16.5 業務内容

広報展開推進室の具体的な業務内容は以下のように、極めて多岐にわたる。アスタリスク(*)は本年度主として活発な活動がみられたもの。17番以降(○)は本年あらたに加わった事業である。

1. ホームページの管理・維持

各研究室の紹介、最新の研究内容の紹介、総合研究大学院大学の紹介と大学院生の入学手続きに関する情報、人材応募、各種行事の案内などを行っている。最近は研究者のみならず一般の方からのホームページを利用しての生理学研究所へのアクセスが増加しており、2004年度に年間1,000万件を超え、2008年度には年間2,000万件を超える見込みである(図 1参照)。

図1. 生理研ウェブサイトへのSuccessful requestsの数。単位は100万requests。2008年度の数値は、4月から12月までの数値からの予測値。過去10年間にアクセス数は急激な増加を示している。
2. 施設見学依頼の受付*(第6章施設見学表参照)

3. 研究成果のWEBによる発信 

最新の研究成果を、リサーチトピックスとしてホームページで速報した。

4. 年報・要覧・パンフレット作成

生理研の研究活動を、年報・要覧・パンフレットとして出版すると共に、ホームページ上にデジタル版をアーカイブしている。

5. 外部向け「せいりけんニュース」発行*

隔月で7,000部を発行。小中学校や高校、一般市民に対して、無料で配布している。医師会や歯科医師会との提携に伴い、岡崎市内のクリニック等にも置かせてもらっている。

6. 内部向け「せいりけんニュース」メーリングリストによる研究所内情報共有

研究所の所内むけの情報共有を目的としたメール配信を行った。当初、自動配信機能を付加する予定であったが、これまでのところ達成されていない。

7. 機構関係者への各種情報提供

8. 機構シンポジウム対応 

2008年度は、9月(および3月の)機構シンポジウムにおいてブース展示を行った。

9. 「心と体の科学」教育プラットフォーム*

2007年度に医学生理学教育開発室を中心として提案した「医学教育人体生理学教育パートナーシップ共同利用プラットホーム」を改め「心と体の科学」理解増進事業を、岡崎市教育委員会理科部と提携して開始した。中学生の見学体験授業を通じた連載記事を、せいりけんニュースに掲載している。

10. 3機関広報誌OKAZAKI編集

2008年より、岡崎高校・岡崎北高校を中心とした近隣の高校への教育アウトリーチを全面に押し出した編集方針に変更。

11. 岡崎医師会等地域との連携*

保健所との連携によるせいりけん市民講座は 医師会や保健所との提携に加えて、2008年度より歯科医師会との提携を新たに行った。

12. メディア対応(新聞・TVなどの取材、記者会見など)*

実績については図2を参照。所長会見を隔月で行い、また月1--2回の研究成果プレスリリースを行ってきた。 新聞報道のリストは新聞報道に掲載。
図2. 2007年度以降の新聞報道件数の推移。2007年度は平均6件/月だった報道件数が、2008年度には平均13件/月と倍増した。2007年度以前に比べて10倍近いのびである。

13. 機構広報連絡会への参加

14. 機構内他研究所一般公開への協力

15. 岡崎地区3機関アウトリーチ連絡委員会への参加

岡崎地区3研究所と、「アウトリーチ活動連絡委員会」を介して、定期的情報交換を行っている。

16. 研究所一般公開の開催*

11月1日に開催。過去最高の2057名の参加者があった。また、研究所一般公開とあわせ、岡崎市理科作品展の優秀な小中学生の自由研究発表の場「せいりけん未来の科学者賞」を開催した。

17. 広報展示室の設置と見学受け入れ○

2008年12月10日旧所長室を改編し、広報展示室を開設した。主として団体見学時にせいりけんを紹介するために用いている。また、一般からの見学受け入れを、ホームページ上から行っている。

18. 日米脳広報の国際係への協力○

神経科学会大会において、アカデミアブース展示とプレゼンテーションを行い、生理学研究所が主体となっている日米脳事業の宣伝活動を行った。

19. 脳科学委員会はじめ文部科学省への情報資料提供○

新聞記事等はじめ、せいりけんニュース等、生理学研究所の情報資料提供を行った。

20. 総研大生命科学専攻の広報活動○

広報展開推進室室長が10月インド訪問しIITでの講演を行いインド学生のリクルート活動を行った。