17 広報活動・社会との連携

17.1 概要

かつては大学や研究所、特に自然科学系の施設は「象牙の塔」と称され、世間とは隔絶された存在であった。しかし、研究に対する倫理観が厳しく問われるようになり、また主として税金をもって行われている研究は、当然ながら国民に対する説明責任を有している。それはいわゆる「評価」とは別の次元における公的研究施設の責務である。この点に関しては「広報活動」と「社会との連携(アウトリーチ)」が2つの大きな柱となる。

生理学研究所では、2009年度に広報活動を行う広報展開推進室や医学生理学教育開発室とHP管理などをおこなってきたネットワーク管理室、及び点検連携資料室を一体化し、「情報処理・発信センター」をスタートした。 この組織改編により広報展開推進室を中心として、広報活動・社会との連携は目覚ましく発展した。以下2010年度の活動の概要を示す。

岡崎げんき館(岡崎市保健所)との提携にもとづき「せいりけん市民講座“からだの科学”」を4回開催し、岡崎市民だけでなく愛知県下より毎回100~200名が参加した(資料参照)。また、2008年1月より創刊した科学冊子「せいりけんニュース」は、隔月で8,500部無料配布し、地元岡崎市民だけでなく全国からの問い合わせが増えるなど、科学情報誌としての役割を大きく期待される冊子となった。また、2008年12月10日に開設した生理学研究所広報展示室には年間200名を超える見学があった。また2009年11月に開発した簡易筋電位検知装置「マッスルセンサー」は、中学校における理科教材として、全国で80台を超えて販売され、教育現場で使用されている。

機構との広報・アウトリーチ活動の連携についても、広報展開推進室の室長および専任准教授をコーディネータとして、精力的に行われてきた。機構に設置された「広報に関するタスクフォース」を中心として、自然科学研究機構の存在と、そこで行われている研究内容を、どのように世間にアピールしていくか、について引き続き討議している。春と夏に行われる自然科学研究機構シンポジウムは、一定の成果をあげている。また2010年には新たに大学共同利用機関全体でのシンポジウムを開催し(東京・秋葉原)、大盛況を博した。2008年度設置された岡崎3機関「アウトリーチ活動連絡委員会」を中心に、地元岡崎市教育委員会との連携を強め、小中学生の科学的な視点を育み奨励する「未来の科学者賞」の授賞や、中学校における出前授業、職場体験の受け入れなど幅広い活動を展開している。

また生理研の歴史的資料の収集と整理が進められた。

17.2 個別活動報告

広報展開推進室の具体的な業務内容は以下のように、極めて多岐にわたる。アスタリスク(*)は本年度主として活発な活動がみられたもの。シャープ(#)は今年度あらたに加わった事業である。

1* ホームページを用いた情報発信
各研究室の紹介、最新の研究内容の紹介、プレスリリース、総合研究大学院大学の紹介と大学院生の入学手続きに関する情報、人材応募、各種行事の案内などを行っている。最近は研究者のみならず一般の方からのホームページを利用しての生理学研究所へのアクセスが増加しており、2004年度に年間1,000万件を超え、2008年度には年間2,000万件を超えた。さらに2009年のシステム変更後のアクセス数増加は顕著で、2010年度のアクセス数は3,000万件に達する見込みである(図1)。


図1. 過去10年間に生理研ウェブサイトへのアクセス数は急激な増加を示している。
ここではSuccessful requestsの数を示した。単位は1万requests。
2010年度の数値は、4月から12月までの数値からの予測値。

2* 施設見学の受け入れ
広報展示室を中心に、30回程度行われた(詳細は、第VI部 施設見学 参照)。

3* 研究成果のWEBによる発信
最新の研究成果をプレスリリースや研究報告として、報告している。

4 年報・要覧・パンフレット作成
2010年度は新たに英語パンフレットの作成を行った。

5* 外部向け「せいりけんニュース」発行
隔月で8,500部を発行。岡崎市をはじめとする小中学校や高校、一般市民に対して、無料で配布している。医師会や歯科医師会との提携に伴い、岡崎市内のクリニック等にも置かせてもらっている。さらに、全国の教育機関等からの購読の問い合わせに郵送での配布も行っている。

6 内部向け「せいりけんニュースオンライン版」とメーリングリストによる研究所内情報共有
研究所の所内むけの情報共有を目的としたメール配信を行った。当初、自動配信機能を付加する予定であったが、これまでのところ達成されていない。

7 機構関係者への定期的情報提供

8 機構シンポジウム対応
2010年度は、9月(および3月の)機構シンポジウムにおいてブース展示を行った。

9 大学共同利用機関シンポジウム対応
2010年度は、11月に大学共同利用機関全体のシンポジウムを東京・秋葉原にて行った。生理研も「マッスルセンサー」を用いたブース展示を行った。

10 「心と体の科学」理解増進事業
2007年度に医学生理学教育開発室を中心として提案した「医学教育人体生理学教育パートナーシップ共同利用プラットフォーム」を改め「心と体の科学」理解増進事業を、岡崎市教育委員会理科部と提携して広報展開推進室が中心となり開始した。中学生の見学体験授業を通じた連載記事を、せいりけんニュースに掲載している。

11 岡崎3機関広報誌OKAZAKI発行

12 国研セミナー
このセミナーは、岡崎3機関と岡崎南ロータリークラブとの交流事業の一つとして行われるもので、岡崎市内の小・中学校の理科教員を対象として、岡崎3機関の研究教育職員が講師となって1985(昭和60)年12月から始まり、毎年3回行われている。2010年8月の第100回国研セミナーでは、生理研久保義弘教授が講演した。

13* 岡崎医師会等地域との連携
医師会や保健所、歯科医師会との提携に基づき、学術講演会等の各種事業を行った。

14* メディア対応(新聞・TVなどの取材、記者会見など)
実績については図2及び一覧表(第VI部 新聞報道)参照。所長会見を隔月で行い、また月1-2回の研究成果プレスリリースを行ってきた。


図2. 2009年と2010年の新聞報道件数。2010年は月平均13件。
ちなみに、広報展開推進室設置年(2008年)より前の2007年月平均6件に
比べて件数が大きく伸びている。

15 自然科学研究機構「広報に関するタスクフォース」への参加

16 機構内他研究所一般公開への協力

17* 岡崎3機関アウトリーチ活動連絡委員会への参加
分子研・基生研とともに、岡崎市内の中学校を対象とした出前授業や、科学者の卵である小中学生に対して「未来の科学者賞」の授与を行っている。

18* 広報展示室の整備と見学受け入れ
2008年度来、引き続き広報展示室の整備を行った。主として団体見学時に生理学研究所を紹介するために用いている。また、一般からの見学受け入れを、ホームページ上から行っている。

19 日米科学技術協力事業「脳研究」分野の広報への協力
日本生理学会大会や日本神経科学学会大会において、アカデミアブース展示とプレゼンテーションを行い、生理学研究所が主体となっている日米脳事業の宣伝活動を行った。

20 文部科学省への情報資料提供
新聞記事等はじめ、せいりけんニュース等、生理学研究所の情報資料提供を行った。

21 日本科学未来館との連携
岡崎3機関と日本科学未来館とのMOU(Memorandum of Understanding、了解覚書)締結(2009年)にともない、日本科学未来館科学コミュニケーターとの相互交流・情報共有を積極的に推進している。2011年3月に協定が終了するが、その後も引き続き相互交流を行うことで、日本科学未来館と合意している。

22 出前授業
県内外の高校への出前授業は5回、岡崎市近郊の中学校への出前授業は6回行われた(第VI部 講師派遣 参照)。

23* 教育機材 マッスルセンサーの開発と普及
小中学生向け教材である簡易筋電位検知装置「マッスルセンサー」を開発した。特許申請中である。2010年度には、全国で80台超が販売され、全国の教育現場で活用されている。またマッスルセンサーを実際に体験してもらうための、出前授業や各種イベントでのブース展示を積極的に展開した。

24# 愛知県教育委員会「科学三昧 in あいち」へのブース展示出展
愛知県下のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、愛知スーパーハイスクールを中心とした「あいち科学技術推進協議会」のイベントである「科学三昧 in あいち」にブース展示を出展。愛知県下の高校生に対しての科学情報の提供を行った。

25# 生理学研究所歴史的資料等の収集と整理
生理学研究所の設立の経緯など歴史的資料を収集・整理し、さらに多くの書類をpdf化してデータベースを作成した。著作権・肖像権などの問題を考慮して一般には公開していないが、データベースは所内からはアクセスできるようになっている。このデータベースの構築は、山岸俊一名誉教授および村上政隆准教授のご尽力によるものである。
主な内容は次の通り。


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