巻 頭 言

生理学研究所が大学共同利用機関法人の1つとして法人化されて7年目を迎え、2010年度は法人としての第2期の初年度にあたります。本書はその2010年度の点検・評価をとりまとめたものであります。皆様からの忌憚のない御意見をいただければ、大変ありがたく存じます。

生理学研究所は、“人体・脳の働きとそのメカニズムを解明する”という目的のために、第1にその世界トップレベルの研究の推進を行い、第2にこれを基礎にして全国の大学・研究機関との間の共同利用研究を推進し、第3に若手研究者の育成と発掘を行っていくという3つの使命を持っています。これらの使命を果たしているかどうかを点検・評価するために、「運営会議」のもとに所外委員4名と所内委員10名からなる「点検評価委員会」を設け、研究所全体の運営・活動評価と研究部門の業績評価の2面からの検討をしていただきました。前者の内の運営面からみた自己点検・評価は第Ⅰ部に、研究活動面からのものは第Ⅲ部に収録され、後者における全部門・施設の自己点検・評価は第Ⅳ部に、およそ5年毎に3部門を対象として行われる外部評価については第Ⅱ部に収録されております。この3部門への外部評価には、それぞれの部門に各3名の所外専門委員の方々にあたっていただきました。その所外専門委員9名には、所長が選ばせていただいた海外研究者3名、日本生理学会および日本神経科学学会から推薦いただいた各3名の国内研究者6名の方々になっていただき、サイトビジットの上、評価いただくようお願いいたしました。

生理学研究所の使命の遂行に関連して、2010年度において特記すべき事項につき、以下少し述べさせていただきます。世界トップレベルの研究を推進するという第1の使命は、例えば「2011年度大学ランキング」における最上位ランキングや、「国立大学法人評価委員会第一期中期目標・中期計画評価」における高評価にも見られるように、大変よく果たしているものと思われます。これまで生理学研究所は、①「機能分子動作・制御機構解明―分子・細胞レベルの研究」、②「生体恒常性維持・脳神経情報処理発達機構の解明―マウス・ラットを用いた研究」、③「認知行動機構解明―ニホンザルを用いた研究」、④「高度認知機能の解明―ヒトを対象とした研究」、⑤「四次元脳・生体分子統合イメージング法開発―階層間相関イメージング法の開発」という5本を柱にして研究を推進してきましたが、2010年度より更に ⑥「モデル動物開発・病態生理機能解析―病態モデル動物を用いた研究」を加えて、6本の柱で研究推進することになりました。その理由は、「遺伝子改変動物作製室」が作成・供給してきたトランスジェニックマウスやノックアウトマウスにおいて病態表現型を示すものが増えはじめていること、「霊長類遺伝子導入実験室」が稼働しはじめて病態モデル霊長類の開発研究が開始されたこと、そして出版された英文論文において病態的研究に関連するものが毎年増え続けていることにあります。また、これまで柱⑤において対象としてきた階層は5つでありましたが、2010年からはその上に「社会活動」を加えて、「分子・細胞・神経回路・脳・個体・社会活動」の6階層を対象とすることに改めました。それは2010年度から、dual fMRIの運用が開始されたからであります。これらの改訂は、生理学研究所がカバーする研究が、縦(階層数)にも横(柱数)にも発展をみせはじめていることの証左であるものと考えております。組織的には、「行動・代謝分子解析センター」に新たに「代謝生理解析室」を2010年度より開設し、遺伝子改変動物の代謝機能や生理機能の網羅的な解析システムを共同利用・共同研究に供する体制を整えました。更に世界トップレベルの研究を推進していくための努力を重ねることが、第2・第3の使命の達成に不可欠の基盤であると考えております。共同利用研究の推進という第2の使命について特記すべき点は、2010年度においてはすべての種類の共同利用研究件数の合計が145件となり、史上最大となったことであります。それらの研究成果は、第Ⅵ部の1章にまとめられているように、多数の共著論文として出版されております。若手研究者の育成・発掘という第3の使命について特記すべき点は、2010年度から総合研究大学院大学の研究科を超えて、“脳科学研究の社会的活用と人間倫理の双方を見据えることができる分野横断的な研究者の養成”という事業に特別経費が措置され、「脳科学専攻間融合プログラム」が開始されたことであり、生理科学専攻がその中心的役割を担い、多専攻の協力によって分野を超えた脳科学教育を推進することになったことであります。未来の若手研究者の発掘をめざしたアウトリーチ活動や広報活動が多数・多彩に行われたことも特記すべきことであります(第Ⅰ部17章第Ⅵ部7章参照)。

生理学研究所は、人体基礎生理学の研究・教育のための唯一の大学共同利用機関として、その使命を果たすべく所員一同が一丸となってより一層の努力を続けてまいりたいと考えております。皆様方からの更なる御支援と御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。

2011年3月初旬 生理学研究所所長 岡田泰伸


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