業績

本研究室の代表的な論文を紹介します。

Hitoshi S, Ishino Y, Kumar A, Jasmine S, Tanaka KF, Kondo T, Kato S, Hosoya T, Hotta Y, Ikenaka K.,Mammalian Gcm genes induce Hes5 expression by active DNA demethylation and induce neural stem cells. Nat Neurosci. Jul 17;14(8):957-64.,2011

細胞が持つDNAには全ての遺伝情報が書き込まれていますが、細胞ごとの特徴に応じて必要な情報だけが読み込まれ、必要でない情報は働かないように隠されています。DNAのメチル化は不必要な遺伝情報を隠す機能をもっていますが、この情報が必要になった時には脱メチル化(メチル化を取り去る)が起きます。私達は、脳ができていく一番最初の過程でDNAの脱メチル化が必要なこと、そしてDNA脱メチル化にGCM(Glial cells missing)と呼ばれる遺伝子が必須であることを初めて証明しました。GCM遺伝子を働かなくしたマウスでは、脳の全ての細胞の起源である神経幹細胞がうまく形成されないことも分かりました。これまでよく分かっていなかった、脳が作られる最初のステップを理解する上で、重要な研究だと私達は考えています。
 
Tanaka H, Ma J, Tanaka KF, Takao K, Komada M, Tanda K, Suzuki A, Ishibashi T, Baba H, Isa T, Shigemoto R, Ono K, Miyakawa T, Ikenaka K.,Mice with altered myelin proteolipid protein gene expression display cognitive deficits accompanied by abnormal neuron-glia interactions and decreased conduction velocities. J Neurosci. 29(26):8363-8371,2009

 統合失調症は、人口の1%がかかる「心の病」ですが、これまで脳の中でどのような異常が起こっているのか、その明確な原因は知られていませんでした。  私達は、脳の神経細胞ではないグリア細胞という神経細胞以外の細胞のわずかな異常が、神経の電気信号の伝わり方を遅くさせ、それが統合失調症で見られるような認知障害の原因になっているという新しい知見を発表しました。  統合失調症の患者の遺伝子解析から、グリア細胞(オリゴデンドロサイト)の遺伝子異常が統合失調症と関連があるとの報告はこれまでにもありましたが、具体的にどのような脳の機能異常があるかは知られていませんでした。オリゴデンドロサイトの軽微な異常が実際に統合失調症と同じような行動異常を引き起こすことを示した初めての報告です。