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2006年度プレス発表

(新聞社・掲載日順)

 

領域1 領域2 領域3 領域4 領域5

領域 氏名 所属 新聞社・掲載日 掲載タイトル 発表論文
new1 山田 勝也 弘前大学大学院医学研究科

陸奥新報(2007年3月30日・朝刊・3面)

A real-time method of imaging glucose uptake in single, living mammalian cells.

Nature Protocols2・3・753-762(2007)

Yamada K, Saito M, Matsuoka H, Inagaki N

東奥日報(2007年4月 2日・夕刊・3面)

朝日新聞(2007年4月21日・13版・朝刊・30面)

グルコースは大腸菌からヒトに至るまで細胞の生存維持に欠くことのできない重要なエネルギー源および炭素源で、特に脳はグルコースを唯一のエネルギー源とするが、従来のグルコース輸送の研究では専ら放射性標識法が使われてきた為、細胞レベルでのグルコース輸送の研究は遅れていた。本論文は、この問題を解決するため著者らのグループが開発・導入した蛍光標識グルコース2-NBDGの合成法ならびに具体的な使用法の詳細を、Nature Publishing Groupの要請により公表したものである。
2-NBDG法は、種々の臓器を対象に世界10カ国以上で使用され、医療分野では腫瘍悪性度のイメージングが検討されており(US Patent 6989140B2, 2006)、また脳の新たな情報伝達様式としてグルコースやその代謝産物の細胞間移動という概念(メタボリックウェーブ)の発見をもたらしたが(Bernardinelli et al, PNAS 2004; Blomstrand et al, J Neurosci Res 2006; Rouach et al, Science 2008)、2-NBDGには対照となる蛍光分子のないことが問題となっていた。そこで本論文発表後、生物の取り込まないL型グルコースを対照分子として使用することを計画し、現在のL型蛍光標識グルコース2-NBDLGを始めとする一連の新規分子の合成(Yamamoto et al, Tetrohedron Lett 2008)、および立体特異的なグルコース取りこみを正しく可視化することを目指した方法論の開発 (Yamada et al, PCT JP2009/064053) につながった。

 
2 泰羅雅登 日本大学・大学院総合科学研究科 読売新聞(2006年10月25日夕刊) 空間のナビゲーションに関連した脳内機構 Proc. Natl.Acad. Sci. 103:17001-6(2006).

Sato N, Sakata H, Tanaka Y, Taira M
日経産業新聞(2006年10月25日)
毎日新聞(2006年10月27日朝刊)
朝日新聞(2006年10月30日夕刊)
 家から大学、会社に通う、スーパーまで買い物に行くなど、私たちの日常生活の中で、現在地から行き方がわかっている目的地まで移動する際、意識することなく正確な道順をとることができます。このことは脳の中にカーナビゲーションのようなシステムがあることを示唆しています。脳の中には、特定の道順に関する知識が蓄えられていてその情報に従って道順をたどるわけですが、それがどのように行われているのか、最近の研究がニューロンのレベルで明らかにしています。
実験は、コンピュータ・グラフィックスによる仮想空間(実際には2階建てのビルディング)を立体視しながら、サルが手元のジョイスティックを操作して指定した目的の部屋まで移動する、というもの。その際の脳の頭頂葉内側部という場所のニューロン活動を記録しました。
  その結果、ある行き先に向かおうとしているときに、その途中の風景に反応してどちらの方向に行きなさいと指示をしているニューロンが見つかりました。まさに、脳の中にカーナビゲーションシステムがあるのです。ナビゲーションの基礎的なメカニズムが明らかになったことで、私たちが、取り巻く環境を視覚的にどのように認識しているのか、また、それらの情報を脳がどのように処理しているのかについての解明につながっていくと考えられます。
 
1-5   脳企画展 読売新聞(2006年3月15日 夕刊9面) 体感する最新研究  
朝日新聞(2006年5月4日19面) 脳企画展1〜5 脳・脳・脳・・・私の脳も活性化
読売新聞(2006年5月27日) 脳の不思議 分かった?
1 丹治 順 玉川大学脳研究所・東北大学医学部

朝日新聞(2007年1月16日・夕刊)

Categorizagtion of behavioural sequences in the prefrontal cortex

(前頭前野における行動順序のカテゴリー化)
Nature
445(7125):315-318
Shima,K. Isoda,M. Mushiake,H. and Tanji,J.
霊長類の大脳皮質前頭前野が、行動の統合的制御にかかわっていると考えられてから久しいが、行動を認知的に立案する具体的な局面に関して、その基盤をなす神経構造はいまだに明らかでない。被験者が多数の複雑な運動シーケンスを記憶し、各シーケンスを個別に行うよう要求されたとき、運動シーケンスをその各サブセットが共有する特定の時間構造に従ってカテゴリー分けすることで、記憶に 基づいたより高次の行動立案がしやすくなる。今回、こうした要求を用いた実験で、外側前頭前野の細胞が、行動シーケンスの特定のカテゴリーに対して特異的に活動を示すこと、および、行動立案の過程において、前頭前野の細胞が各種の運動シーケンスに内包されたカテゴリーを表現していることがわかった。こうした細胞活動は、時間構造をもった複合的事象を抽象的なレベルで脳内に保存することを可能にするような神経表現の形成を意味しており、外側前頭前野にマクロ構造化された行動知識が成立することの実例と言える。
 
1
3
久場 博司
大森 治紀
京都大学・医学研究科 京都新聞(2006年11月30日朝刊29面) 音の方向なぜ分かる?軸索のしくみを解明 Nature
444 (7122):1069-1072(2006)

久場博司,石井孝広,大森治紀
産経新聞(2006年11月30日・京都版 朝刊・26面)

日刊工業新聞(2006年11月30日・朝刊・32面)

毎日新聞(2006年11月30日・朝刊・3面)

朝日新聞(2006年12月22日・夕刊・5面)

月刊科学雑誌Newton(2007年 3月号)
神経細胞は軸索で活動電位を発生する。しかし、軸索のどこで活動電位が発生するのか、さらにその場所が神経機能の発現にどのような意義をもつのかについては明らかでない。今回我々は、左右の耳に到達する音の時間差を検出することで音源定位に関わるトリの層状核(哺乳類の内側上オリーブ核に相当)において、活動電位の発生部位を調べ、その機能的意義を検討した。層状核では活動電位の発生する場所は細胞毎に異なり、低音を担当する細胞では軸索上の細胞体近く(5 μm )であるのに対して、高音を担当する細胞では細胞体から離れた場所 (50 μm )であった。高音の情報は時間的加重により細胞体で大きな持続的脱分極を生じるため、Naチャネルを不活性化し、細胞の興奮性を損なう。しかし、活動電位の発生部位が遠くにある場合、この脱分極は軸索で電気緊張性に減少するため、細胞は高い興奮性を維持することができる。このように層状核では活動電位の発生部位が細胞毎に異なることにより、幅広い周波数の音情報を正確に処理することができる。今回の結果は、活動電位の発生部位が神経細胞の情報処理精度を高めるように配置されていることを示している。
 
1 伊藤 功 九州大学大学院理学研究院生物科学部門 日本経済新聞(2006年10月15日・朝刊コラム・かがくCafe 右脳と左脳の機能の違いを、分子レベルで解き明かしたい  

2 小松 英彦 自然科学研究機構 生理学研究所 日刊工業新聞(2006年12月19日(東京版)) 似た色をグループ化する神経 生理学研 サルで発見

Nature Neuroscience
10(1):108-116 (2007)

Koida K and Komatsu H

日刊工業新聞(2006年12月20日(名古屋版)) 似た色をグループ化 サルの神経から発見 生理学研
日経産業新聞(2006年12月19日) 大まか分類の脳細胞 生理学研など 色覚異常の解明へ

サル下側頭皮質における課題依存的な色選択ニューロン活動の修飾

 同じ名前の色でも、さまざまに異なる色を含んでいる。例えばトマトもリンゴもどちらも赤という同じカテゴリーの色である。一方、食べ物や化粧品を選ぶ時には、よく似た同じ名前の色でも細かく区別する。我々は必要に応じてこれら二つの色の見方、つまりカテゴリー判断と細かい弁別の機能を使い分けている。
色覚におけるこれら二つの働きが脳内でどのように行われているかを調べるために、サルが同じ色刺激のセットに対してカテゴリー判断または細かい弁別を行っているときの下側頭皮質のニューロン活動を測定し比較した。その結果、多くの細胞が課題に依存して活動が変化すること、しかし色選択性そのものには違いは見られないことがわかった。これらの結果は、動物のおかれた状況を表現する内的な信号によって、視覚野の感覚情報を表現するニューロン活動が制御されていることを示している。そのような制御は下側頭皮質の色選択ニューロンにおいては、色のカテゴリー判断を行う時に活動を増強し、細かい識別を行う時には抑制するように働いていた。このことは下側頭皮質が色のカテゴリー判断に重要な役割を果たすことを示唆している。

 
2 柿木 隆介 自然科学研究機構 
生理学研究所

朝日新聞(2006年12月5日・朝刊)

Neural activation to upright and inverted faces in infants measured by near infrared spectroscopy..

(近赤外分光法(NIRS)によって乳児の顔認知に半球間機能差が発見された)

NeuroImage
34(1):399-406 (2007)

Otsuka Y, Nakato E, Kanazawa S, Yamaguchi MK, Watanabe S, Kakigi R

読売新聞(2006年12月5日・朝刊)

毎日新聞(2006年12月5日・朝刊)

中日新聞(2006年12月5日・朝刊)

日刊工業新聞(2006年12月5日・朝刊)

神戸新聞、茨城新聞、徳島新聞、YahooJapanトッピクス など

近赤外分光法(NIRS)を用いて、正立顔と倒立顔の提示に対する乳児の脳活動を計測した。本研究では乳児用に新たに開発されたプローブを用いて計測を行った。生後5−8ヶ月の乳児10名を対象として、正立の顔と倒立の顔を観察中の左右側頭部位における脳血流の変化を計測した。本研究の結果は以下のようなものである。(1)正立顔の観察中には、右側頭部位において酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度と総ヘモグロビン (total-Hb) 濃度が上昇した。(2)右側頭部位においては、正立顔観察中の総ヘモグロビン (total-Hb)濃度と倒立顔観察中の総ヘモグロビン (total-Hb)濃度が異なっていた。(3)これらの結果から、正立顔の認知には左半球よりも右半球がより重要な役割を果たすと考えられた。さらに、(4)顔認知に関与すると考えられている左右両半球側頭部の上側頭溝(STS)付近において、最も大きな脳血流の変化が示された。本研究の結果から、脳血流反応の計測を行うことで乳児期において顔の倒立効果に半球間機能差が存在することがはじめて明らかにされた。なお、本研究は中央大学文学部との共同研究である。
 
2 柿木 隆介 自然科学研究機構 
生理学研究所

2006年9月20日―22日
Times, Guardian,
Washington Post,
Evening Standard,
Daily Telegraph,など欧米の新聞30紙以上で研究紹介
英国BBCニュースで研究紹介

One year of musical training affects development of auditory cortical evoked fields in young children.

(4−6歳児における1年間の音楽訓練が聴覚誘発脳磁反応の発達に影響することがわかった)

BRAIN
129(Pt 10):2593-2608 (2006)

Fujioka T, Ross B, Kakigi R, Pantev C, Trainor LJ

日刊工業新聞(2006年12月26日)

4−6歳の12名の子供を対象にして脳反応(脳磁図)を記録した。6名は1年間音楽教室(スズキメソード)に通い自宅練習を行い、残りの半分は学校の授業以外の音楽訓練は行わなかった。その間、3ヶ月に1度ずつ計4回、バイオリンの音とノイズ音を刺激として脳反応を記録した。音楽訓練グループの反応は、非訓練グループに比べ、バイオリン音に対してだけ、脳の反応時間が早くなり、また脳反応の大きさが増大した。これは特に大脳左半球で著明であった。すなわち、音楽訓練児の聴覚に対する反応の発達はバイオリン音に対して非常に顕著であったが、非訓練児においては、刺激音にかかわらず同程度の発達変化が起きていた。この結果は、幼児期での音楽訓練が重要であり、大脳聴覚野の発達に大きく影響する事を世界で初めて科学的に示したものである。また、世界的に知られているスズキメソードによる早期音楽訓練が、幼児期の大脳聴覚野の発達に効果的であることが科学的に証明された。

なお、本研究はカナダのトロント大学、マクマスター大学との共同研究によるものである。
 
2 虫明 元 東北大学 医学系研 読売新聞(2006年5月19日) 数手先読む前頭前野 Neuron.50(4):631-41(2006)
朝日新聞 将棋の次の一手、その次、次…瞬時に分担 先読み脳細胞 解明
河北新報(2006年5月19日) 目標に合わせ>作業手順決定>実行 脳の前頭前野が指示 「先読み」実験で解明
 ゴールが与えられた時に、その達成手順を見出し実行する過程に前頭前野が細胞レベルでどのように関わるかを明らかにする目的で、サルにコンピュータ上の迷路課題を訓練して前頭前野から細胞活動を記録した。すると行動開始前の準備期間に、前頭前野の細胞活動は、最初の手順のみならず、2手目、さらに3手目に行うカーソル移動方向を、既に反映している事が明らかになった。一方で、将来の手の動作に関しても細胞活動を調べたが、ほとんど反映されていなかった。また実行中の細胞活動を調べてみると、前頭前野の準備期間に活動を示す細胞の一部は、再度その細胞の予測した時期に細胞活動をしめした。準備期間の細胞活動と、実行期間の細胞活動は相関を示していた。一次運動野の細胞活動も調べたが、カーソル移動を反映する細胞はほとんど無く、手の動作を反映する細胞がほとんどであった。前頭前野が先読みに関与することが細胞レベルで明らかになった。
2 福山秀直 京都大学医学研究科 朝日新聞(2006年5月19日3面) 脳の謎に迫る 神経活動把握へ新撮影法 京大グループ開発 Proc. Natl.Acad. Sci. U S A.103(21):263-8(2006)
京都新聞(2006年5月19日30面) 大脳皮質ノ神経細胞活動 MRIでキャッチ 京大グループが成功
 脳の機能と構造を結びつける機能マッピングは、脳の仕組みを知るうえで、また臨床医学においても、多彩な応用がなされている。なかでもBOLD法に基づく機能的MRIが最も広く活用されているが、これで検出されるのは血流変化という現象に基づいたものであり、脳活動そのものではない。このことは血管が活動しているように見えるといった質的な誤差を生じ、また時間的・空間的な分解能の限界も、血流現象によって規定されてきた。 今回我々は、拡散強調MRIを用いて、脳の神経活動そのものと時間的に近い信号変化を検出した。この変化は拡散強調の度合いを強くするほど顕著となり、血流変化よりも3秒ほど先行していたので,脳血流の変化によるものではない。拡散強調信号は脳虚血の早期発見に応用されるなど、組織構造の変化に敏感であることから、脳活動に伴う組織の形態的な変化が原因となっている可能性がある。脳機能マッピングの新たな手法としての発展が期待される。
3 岡本 仁 独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 発生遺伝子制御研究チーム nature DIGEST(日本語編集版・Vol.04,No.4・20-23) 右脳と左脳、分子レベルでその非対称性を探る

Developmental Cell
12:87-98 (2007)

Hidenori Aizawa,H. Goto,M. Sato,T. and Okamoto,H

NEWTON(4月号・112) 脳が左右対称にならないわけは?
読売新聞(2007年1月9日・13版・朝刊・2面) 利き手の違い 解明手がかり
産經新聞(2007年1月16日・14版(埼玉)・朝刊・26面) 魚の心 外から見たい
朝日新聞(2007年2月2日・4版・夕刊・9面) 右脳・左脳 差はアナログ?
日本経済新聞(2007年1月9日・34版・朝刊・34面) 神経細胞 生成、左右にズレ?
Temporally Regulated Asymmetric Neurogenesis Causes Left-Righit Difference in the Zebrafish Habenular Structures

情動機能の制御に関わる終脳の辺縁系と、中脳と後脳のモノアミン神経細胞群とは、両側の間脳の背側に位置する手綱核と中脳・後脳境界部の腹側正中部に位置する脚間核を介した神経回路でつながっている。ゼブラフィッシュの手綱核は、左側がより大きな外側亜核と右側がより大きな内側亜核に分けらる。さらに、内側亜核は、腹側の脚間核と、外側亜核は背側の脚間核と選択的に結合するため、左右の手綱核と、標的の脚間核との間の神経結合に、左右非対称性がある。今回、胚発生の早期には外側亜核の神経細胞が選択的に誕生し、その後に内側亜核の神経細胞が誕生することを発見した。発生早期には、右側よりも左側の手綱核で、より多くの外側亜核神経細胞が誕生し、後期には、逆に右側でより多くの内側亜核の神経細胞が生まれる。神経分化の効率を制御するNotchの活性を時期特異的に操作することによって、手綱核において分化する亜核神経細胞の特異性は、発生時期に依存して決定されることを示した。

 
3 狩野 方伸 Department of Cellular Neuroscience, Graduate School of Medicine, Osaka University 朝日新聞((大阪地域版)2006年8月24日・朝刊) 脳内マリファナ 運動能力を左右

Journal of. Neuroscience
26(34):8829-8837 (2006)

Kishimoto,Y. & Kano,M.

朝日新聞((東京地域版)2006年8月24日・夕刊) 「運動能力」解明に道?「脳内マリファナ影響」特定

Endogenous cannabinoid signaling through the CB1 receptor is essential for cerebellum-dependent discrete motor learning.

マリファナの中枢神経に対する作用は、様々な脳部位のシナプス前終末に存在するカンナビノイドCB1受容体を介して発現する。その内因性リガンド(内因性カンナビノイド)はシナプス後ニューロンからシナプス前終末への逆行性シグナルを担う。今回、CB1受容体ノックアウトマウスにおいて、小脳依存性の運動学習パラダイムである遅延瞬目反射条件付け(delay eyeblink conditioning)が著しく障害されていることを発見した。また、野生型マウスにCB1受容体の阻害剤を与えると瞬目反射条件付けの獲得は障害されるが消去は正常であった。一方で、運動協調に目立った異常は認められず、海馬依存性の学習である痕跡瞬目反射条件付け(trace eyeblink conditioning)も正常であった。この結果から、内因性カンナビノイド系が小脳による単純な運動の学習に必要であるがことが明らかとなった。

 
3 渡辺雅彦 北海道大学大学院 医学研究科 日経産業新聞(2006年5月5日) 「脳内麻薬:北大、産生場所を特定、幻覚緩和の治療薬に道 J. Neurosci.26(18):4740-51(2006)
北海道新聞(2006年5月8日夕刊) 「痛み物質 脳内”工場”解明」
脳内マリファナ類似物質の産生部位の解明/
 シナプスでの情報伝達は、活動や経験により柔軟に変化することができ、これが記憶や学習などの高次脳機能の基盤となっている。近年、シナプスの活性化に伴い、脳内でマリファナ類似物質(内在性カンナビノイド)が作られ、カンナビノイド受容体CB1と結合してその作用を発揮することがわかってきた。このマリファナ類似物質は、これまでの神経伝達物質とは異なり、シナプス後側から前側へ逆向きに働いてシナプスでの伝わりやすさを変化させ、記憶の消去やニューロンの活動の制御に関わっている。しかし、これらの制御に関わる脳内マリファナ類似物質が、一体ニューロンやシナプスのどこで作られ、どのような経路で運ばれ、シナプス機能を調節しているのかは全く不明であった。
 今回の論文では、マリファナ類似物質を作り出す酵素であるジアシルグルセロール リパーゼに注目し、脳内での発現と分布を解析した。その結果、この酵素が、シナプス後側の特定の部位に集積し、しかもその集積部位がカンナビノイド受容体の分布特性に対応している事実が判明した。精緻な運動機能に関わる小脳では、興奮性シナプスと抑制性シナプスはともにカンナビノイド受容体を豊富に発現し、合成酵素は両者の中間地点に集積していた。一方、記憶や学習に関わる海馬では、受容体が少ない興奮性シナプスの近傍にまで集積していた。これらの結果は、マリファナ類似物質の産生がシナプス後側に選択的であることを分子レベルで証明すると同時に、興奮と抑制の微妙なバランスを保てるようにマリファナ類似物質の産生部位が調節され、シナプスの伝わりやすさが巧妙に制御されていることを物語る。
 今回の研究成果は、2006年5月3日出版のJournal of Neuroscience誌(神経科学ジャーナル、米国)に、この号のハイライト( This Week in The Journal)として掲載された。
3 尾藤晴彦 東京大学大学院医学系研究科 Nature Reviews Neuroscience(3月号Volume7 1面)   J. Neurosci. 26:763-774(2006)
 PSD−95はシナプス後部にある重要な足場蛋白質であり、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体と結合する。シナプスでのシグナル伝達に不可欠と予想されてきたが、そのドメイン構造のモジュール性の意義は不明であった。本研究により、PDZドメインは結合を定量する機能ユニットであり、PDZドメインの総和的結合力がPSD−95自身のクラスター密度に加え、スパイン形態も制御するということを新たに解明した。これまでにもPSD−95結合タンパク質には細胞骨格制御に関わる分子が多数含まれていることが明らかにされている。即ち、PSD−95は神経回路形成途上に、後シナプスにおけるシグナル伝達強度とスパイン形成・成熟を協調的に制御する機能を持つことが示唆される。
本成果により、シナプス形成・成熟の過程における重要な制御機構の一つが明らかにされた。
3 大塚稔久 富山大学大学院 医学薬学研究部 日刊工業新聞(2006年4月20日24面) 神経発生つかさどるリン酸化酵素 情報伝達にも関与 Neuron.50(2):261-75(2006)
日経産業新聞(2006年4月20日11面) 神経の情報伝達 調節の酵素発見
科学新聞2006年4月28日  
 シナプス小胞とアクティブ・ゾーンに局在するリン酸化酵素SADによる神経伝達物質放出の制御機構/
 神経回路網のつなぎ目の部分は“シナプス”として知られていて、シナプス前部のアクティブゾーンと呼ばれる特殊な構造体から、様々な神経伝達物質が放出されます。しかしこのアクティブゾーンの分子構造とその機能発現にかかわるシグナル伝達機構については現在も多くの謎が残されたままです。本論文では、セリン・スレオニンリン酸化酵素 SADが神経終末のシナプス小胞およびアクティブ・ゾーンに特異的に局在し、キナーゼ活性に依存して神経伝達物質の放出を制御していることを明らかにしました。さらに、アクティブゾーン蛋白質のひとつであるRIM1をリン酸化することを明らかにしました。本論文は、アクティブ・ゾーン特異的に存在するリン酸化酵素がアクティブ・ゾーン蛋白質を直接リン酸化するという、はじめての報告です。これを機に、今後アクティブ・ゾーンの形成・維持・機能発現におけるリン酸化ネットワークの全貌が明らかになることが期待されます。
3 平井宏和 群馬大学大学院 医学系研究科神経生理学分野 日経新聞(2006年6月12日 朝刊科学面) 無害化HIV使い小脳細胞狙い撃ち  
北國新聞(2006年6月1日 朝刊) 脳の遺伝子治療に前進 無害化HIVで神経細胞操作
 HIV由来レンチウイルスベクターを用いて、小脳皮質の抑制性神経細胞である星状細胞および籠細胞に特異的に外来遺伝子を導入する方法を開発した。生物の染色体内において、遺伝子発現を制御するプロモーターにはさまざまな種類がある。あるプロモーターはすべての細胞で機能を持つのに対し、別のプロモーターは神経細胞のみでしか働かない。今回、我々が使用したプロモーターはすべての神経細胞で働くと考えられていた。ところがレンチウイルスベクターと組み合わせることで星状細胞と籠細胞のみでしか働かないことを発見した。
 星状細胞と籠細胞は、小脳皮質に存在する5種類の神経細胞のうちの2つで、小脳皮質内の興奮性神経回路を抑制性に調節、すなわち小脳の神経活動においてブレーキの役割を果たしていると考えられている。しかし、どのように、どれだけの寄与があるのかなど詳細は全く不明である。本発見により、これら2つの神経細胞にさまざまな外来遺伝子を導入することが可能になり、これまで研究が遅れていた星状細胞と籠細胞が小脳機能に果たす役割を、生体で詳細に解析することが可能となる。
3 岡 良隆 東京大学大学院 理学系研究科 毎日新聞(2006年2月1日東京 朝刊) 「なぜなぞ科学:やる気が出る時、脳では何が起きているの?」  
MSN-Mainichi INTERACTIVE(2006年2月1日) 「なぜなぞ科学:やる気が出る時、脳では何が起きているの?」
 ゴナドトロピン(生殖腺刺激ホルモン)放出ホルモン(GnRH)は、視索前野ニューロンの細胞体で産生され、からだの内外の環境変化に応じて神経終末から分泌され、下垂体からのゴナドトロピン放出を調節するペプチドホルモンとして以前からよく知られていた。我々はこれに加えて、脳下垂体機能には直接関与せず、脳内に広く神経突起を伸ばしている一群のGnRHニューロン(終神経GnRHニューロン)を見つけた。このような「ホルモンとしてはたらかないホルモンを産生するニューロン」が脳の中で何をしているのか、という素朴な疑問に対して、これまでに、細胞体は脳の一箇所に集まっているが、神経突起は脳内にくまなく分布していること、互いに電気的にカップルしつつ規則的なペースメーカー活動をしていること、などがわかってきた。これらが動物個体においてどのような役割をしているのか?という疑問を行動学的に研究し、現在のところ、おそらくそれらは本能行動において動機付けのレベルを調節しているのではないか、つまり、動物の「やる気」のあるなしを決めているのではないか、と考えられるような実験結果を得ている。
4 木下 専

京都大学大学院医学研究科

順天堂大学脳神経内科
朝日新聞(2007年2月16日・朝刊・3面) セプチンの神経機能と孤発性パーキンソン病の病態メカニズムの一端を解明

Neuron
53, 519-533 (2007)

猪原匡史、萩原 明、野田 亮、服部信孝、宮川 剛、木下 専ほか全13名

読売新聞(2007年2月16日・朝刊・2面)
産経新聞(2007年2月16日・朝刊・25面)
日本経済新聞(2007年2月16日・朝刊・15面)
日刊工業新聞(2007年2月16日・朝刊・22面)
京都新聞(2007年2月16日・朝刊・30面)
中日新聞(2007年2月16日・朝刊・29面)
科学新聞(2007年2月16日・朝刊・1面)
当研究グループは、セプチン蛋白質ファミリー(Sept1-13)の多くが神経系で高発現することや、複数の神経変性疾患で形成される蛋白質凝集体に集積することをこれまでに報告してきたが、その生理的意義や病態メカニズムは全く不明であった。本論文では、パーキンソン病の責任蛋白質の1つであるa-シヌクレインとともに蓄積して神経障害をもたらす「悪玉」と想定されていたSept4が、ドパミン神経軸索終末におけるドパミン代謝機能の維持に寄与する一方、a-シヌクレインによる神経変性を抑える「善玉」機能も併せ持つことを示した。このため、レビー小体(凝集体)に巻き込まれるなど、何らかの理由でSept4が欠乏すると、ドパミン神経機能が低下するだけでなく、α-シヌクレインによる神経変性に対してさらに脆弱になるという悪循環に陥る可能性がある。すなわち、Sept4は孤発性パーキンソン病に代表されるシヌクレイン病における脆弱性因子ないし感受性因子の1つと考えられる。
 
4 森 郁恵 名古屋大学理学研究科

中日新聞(2006年12月11日・夕刊)

イノシトールモノフォスファターゼはC. elegans成虫期神経系の中枢介在神経細胞においてシナプス分子の局在と行動を維持する

Genes & Development
20(23):3296-310 (2006)

谷澤 欣則、久原 篤、稲田 仁、児玉 英志、水野 貴文、森 郁恵

日刊工業新聞(2006年12月12日)
神経細胞内における分子局在は、神経細胞、神経回路、及びそれらの活動によって生じる動物の行動にとって重要である。本研究においては、ヒト脱リン酸化酵素IMPase(イノシトールモノフォスファターゼ)の線虫相同遺伝子であるttx-7がイノシトールの生産を介してシナプス構成分子の細胞内局在を制御し、正常な行動に必要とされる事を明らかにした。IMPaseは、躁うつ病の治療薬リチウムによって阻害される事から、以前より躁うつ病関連分子として注目されてきたが、生体内での機能は知られていなかった。ttx-7変異体においてttx-7遺伝子の機能を成虫期特異的に回復させたところ異常が回復したこと、野生株個体への外部からのリチウム投与がttx-7遺伝子の欠損と同じ異常を可逆的に引き起こしたことより、神経細胞内の分子局在は成熟した神経系においても可逆的に変化し、行動の変化を引き起こしうることが明らかになった。
 
4 稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学

日経産業新聞 (2006年10月11日・朝刊・11面(先端技術) )

神経軸索を決定するタンパク質を発見〜脊髄損傷や脳卒中後の神経再生の治療法開発に期待〜 J. Cell Biol.
175(1):147-157 (2006)

Toriyama M., Shimada T., Kim K.B., Mitsuba M., Nomura E., Katsuta K., Sakumura Y., Roepstorff P., Inagaki N

毎日新聞 (2006年10月11日・朝刊・2面(総合 ニュースの焦点) )

産経新聞 (2006年10月11日・朝刊・29面(社会))

日刊工業新聞 (2006年10月11日・朝刊・21面(科学技術・大学) )

奈良新聞 (2006年10月11日  15面(社会))

Chunichi Web Press (2006年10月10日・朝刊・(社会) )

科学新聞 (2006年10月20日 )
神経細胞にはシグナルを受け取る複数の短い「樹状突起」とシグナルを出す1本の長い「軸索」があり情報処理を行う。神経細胞が成長する時、まず細胞から複数の突起ができ、その中の1本が選ばれて軸索になり、その後、残りが樹状突起になる。同じような突起からどの様にして1本の軸索が選ばれるのか、しくみはよくわかっていなかった。我々は巨大なタンパク質泳動分離装置を作って軸索にある5千個以上のタンパク質を調べ、「シューティン」というタンパク質を発見した。「シューティン」は神経細胞から複数の突起が成長する過程で、突起への輸送機構と拡散を介して1本の突起に濃縮し、軸索の形成を引き起こした。また、このタンパク質を減少させると軸索の伸びが抑えられることも確認した。これまでの研究では、軸索の形成時に機能するいくつかのタンパク質が見つかっているが、「シューティン」はそれらの働きを1本の突起に集めて軸索を決定するらしい。「シューティン」は軸索が伸びる生後のラットの脳で量が増加し、軸索の再生が起こらない成体では量が減少することもわかっており、脊髄損傷や脳卒中後の神経再生の治療法開発につながる可能性がある。
 
4 飯野雄一 東京大学遺伝子実験施設

日経産業新聞13面(2006年9月7日)

インスリンによる学習の制御機構の解明

−線虫C.エレガンスを用いた分子遺伝学的研究の成果−

Neuron
51(5), 613-625 (2006)

M.Tomioka, T.Adachi, H.Suzuki, H.Kunitomo, W. R.Schafer and Y.Iino

朝日新聞夕刊3面(2006年9月7日)

毎日新聞夕刊10面(2006年9月7日)

化学工業日報6面(2006年9月7日)

産経新聞 東京朝刊29面(2006年9月8日)

線虫において、インスリン経路は脂肪代謝や寿命などを制御することが知られていた。今回、このシグナルが化学走性学習に関わることを見出した。化学走性学習とは、線虫が飢餓条件下でNaClなどの塩に曝されると、本来好んでいた塩に対する化学走性を示さなくなり、むしろこれを避けるようになる現象である。インスリン様ペプチドをコードするins-1、インスリン受容体ホモログdaf-2、PI3キナーゼage-1、ホスホイノシチド依存性キナーゼpdk-1, akt-1の各変異体ではこの学習に重度の欠損が生じた。daf-2age-1は塩を受容するASER神経で働き、これが塩に対する化学走性の程度と方向を決めることが明らかとなった。一方、ins-1は介在神経AIAで働く。AIAはASERを含む複数の感覚神経からシナプス入力を受け、逆にASERにシナプス出力を送っている。つまり、INS-1が感覚神経へのフィードバックシグナルを送ることにより感覚行動の可塑性を作り出していることがわかった。
 
4 深田 正紀

国立長寿医療センター 研究所 

遺伝子蛋白質解析室

日本経済新聞(2006年9月22日・朝刊・12版・15面)

てんかん関連蛋白質LGI1はシナプス伝達を制御する

Science
313(5794):1792-1795(2006)

Fukata Y., Adesnik H., Iwanaga T., Bredt D. S., Nicoll R. A., and Fukata M

時事通信社(2006年9月22日)

MAINICHI DAILY NEWS(2006年9月22日)

日経産業新聞 (2006年9月22日)

アルツハイマー病を代表とする認知症、精神神経疾患、およびてんかんなどの脳神経疾患発症の重要な原因は、神経細胞同士が接続する部位である神経シナプス間の情報伝達の破綻だと考えられている。各国の研究者によりシナプス伝達機構の分子メカニズムの解明が試みられているが、全容が明らかになるには至っていない。本研究では、ラットの脳からシナプスに存在する蛋白質複合体を生化学的手法により精製し、分泌蛋白質LGI1(リガンド)がADAM22という膜蛋白質を受容体として機能することを発見した。さらに、このリガンド・受容体が脳内の主要な興奮性シナプス伝達を制御することを電気生理学的手法により明らかにした。LGI1およびADAM22のいずれもがてんかんあるいはけいれんの発症と関連する遺伝子であることから、この発見は記憶や学習の分子メカニズムを明らかにするだけでなく、てんかんなどシナプス伝達に異常がみられる難治性神経疾患の病態解明や治療薬の開発に役立つと考えられる。
 
4 白根 道子 九州大学 生体防御医学研究所

朝日新聞(2006年11月14日・夕刊)

神経細胞の突起形成メカニズムを新たに発見(神経変性疾患の病因解明と治療に期待)

Science
314:818-821(2006)

白根 道子、中山 敬一

毎日新聞(2006年11月4日・夕刊)

日本経済新聞(2006年11月3日・ 朝刊)

西日本新聞(2006年11月4日・夕刊)

科学新聞(2006年11月10日・ 朝刊、1面)

京都新聞(2006年11月3日)
徳島新聞(2006年11月3日)
山陽新聞(2006年11月3日)
佐賀新聞(2006年11月3日)
長崎新聞(2006年11月3日)
四国新聞(2006年11月3日)
山陽新聞(2006年11月3日)
本研究チームは、神経細胞が情報のやりとりを担う神経突起を形成する新たなメカニズムを発見しました。即ち、細胞内における限定方向への細胞膜成分の輸送システムが、神経細胞の突起形成に際して重要な役割を持つ機構であることを見出しました。また同チームは、その制御の鍵となるタンパク質を発見し、プロトルーディン(protrudin)と命名し、その詳細な作用機序を明らかにしました。
また、このプロトルーディンは、ヒトの遺伝性神経変性疾患である遺伝性痙性対麻痺に関与していることが示唆されています。この疾患は、皮質脊髄路の神経変性により下肢の麻痺が進行する病気です。今回の成果は、神経変性疾患の発症機構の解明につながると同時に、その治療への応用が期待されます。 本成果は、米国科学雑誌「Science」に2006年11月2日(米国東部時間)に掲載されます。
 
4 森 郁恵 名古屋大学大学院理学研究科 朝日新聞(2006年11月3日・朝刊・14版)

線虫の神経回路名大が働き解明 3細胞で温度情報処理

The Journal of Neuroscience
26(37): 9355-9364 (2006)

久原 篤 & 森 郁恵

日刊工業新聞(2006年11月3日)  

中日新聞(2006年11月8日・朝刊・総合12版・3面)

線虫の記憶機能解明 2つのタンパク質がカギ 人へ応用期待

線虫C. elegansにおけるカルシニューリンを介した学習行動の神経回路

 記憶・学習の神経回路における制御機構は神経科学の大きな課題である。本研究では、線虫C. elegansをモデル系とし、学習行動に関わるシンプルな神経回路をとらえた。Ca2+依存性の脱リン酸化酵素カルシニューリンの変異体(tax-6 )は(Kuhara et. al., Neuron, 2002)、温度と餌条件の関連学習に異常を示し、この学習異常はわずか2対の介在ニューロンAIZとRIAでtax-6cDNAを発現させることで回復した。AIZとRIAはシナプスで接続されており、温度応答のための神経回路を構成している(Mori & Ohshima, Nature, 1995)。学習時のAIZ-RIA介在ニューロンの活動をCa2+センサーcameleonで測定したところ、学習後にAIZの活性が低下していた。しかし、tax-6変異体では学習時のAIZ活性の低下が起きなかった。以上の結果をもとに、学習行動を制御するシンプルな神経回路モデルを提唱した。

 
4 森 郁恵 名古屋大学大学院理学研究科 朝日新聞(2006年11月3日・朝刊・14版)

線虫の神経回路名大が働き解明 3細胞で温度情報処理

Genes & Development
20: p2955 (2006)

児玉英志、久原篤、毛利亮子、木村幸太郎、奥村将年、富岡征大、飯野雄一、森郁恵

日刊工業新聞(2006年11月3日)  

中日新聞(2006年11月8日・朝刊・総合12版・3面)

線虫の記憶機能解明 2つのタンパク質がカギ 人へ応用期待
線虫C. elegansの温度走性行動の飼育温度と餌条件の関連付けにおいてインシュリン・シグナル経路が機能する

C. elegans
は、餌の有無と飼育温度を関連付けて記憶しており、餌の有る状態で飼育されると、餌の無い温度勾配上で、飼育温度に向かって移動するが、餌の無い状態で飼育されると、餌の無い温度勾配上で、飼育温度を忌避するように移動する。この記憶・学習のメカニズムを明らかにするために、飼育温度と餌条件を正常に関連づけて記憶・学習することができない変異体の分子遺伝学的解析をおこなったところ、インシュリン様シグナル経路が、飼育温度と餌条件の記憶・学習を制御していることが明らかとなった。飼育温度と餌条件の記憶・学習を制御している神経回路における生理学的挙動を観察するために、カルシウムインジケータであるカメレオンをその回路に発現させ、細胞内カルシウム濃度の変化の観察をおこなった。これらの結果から、インシュリン様シグナル経路は、温度走性行動を制御する介在神経の生理学的活性を調節することにより、飼育温度と餌条件の記憶・学習を制御していることが示唆された。
 
4 能瀬聡直 東京大学大学院 理学系研究科 日経産業新聞(2006年1月19日) 脳神経結合の目印発見 Neuron.49(2):205-213(2006)
毎日新聞(2006年1月22日) 神経の誘導物質発見
朝日新聞(2006年1月24日 夕刊) 正しくつながる神経細胞の目印
科学新聞(2006年1月27日4面) 神経細胞の正確な配線機構解明
読売新聞(2006年2月1日) 脳神経結合の目印特定
 私たちが秩序だった行動をとれるのは、神経のネットワークが、特定のパターンで脳や体内において配線されているからである。このような神経の配線は、発生過程において、神経細胞が決まった道筋に沿って突起を伸ばし、正しい相手と結合することにより形成されるが、そのしくみはよく分かっていない。特に無数の細胞が密集している脳内において、神経細胞がどのようにして特定の相手を探し出すのかは大きな謎であった。われわれは、理化学研究所と共同で、カプリシャスという細胞接着分子が、脳内の特定の領域に存在する「目印」として働き、神経細胞どうしが、多数の細胞のなかからお互いを見つけだし、結びつくのを手助けする役割を果たしていることを見いだした。この結果は、脳内の神経回路形成のしくみの理解に大きく貢献するとともに、神経再生治療の開発にも役立つかもしれない。
4 貝淵弘三 名古屋大学大学院 医学系研究科 朝日新聞(2006年3月15日30面) 血管収縮の酵素解明 高血圧などの血医療薬期待 Structure.14(3):589-600(2006)
中日新聞(2006年3月15日3面) 血管収縮の酵素解明 高血圧など治療期待
 薬剤設計において蛋白質リン酸化酵素(キナーゼ)は最重要標的である。Rhoキナーゼ (ROKα、あるいはROCK2)は、アクチンフィラメントの収縮、ストレスファイバー形成などの細胞骨格の再構築、細胞接着における接着域の足場形成を誘導する。生理学的には血管平滑筋の収縮に関与するので、Rhoキナーゼ阻害剤は高血圧、脳梗塞、心筋梗塞等の生活習慣病の治療薬として世界中から絶大な注目を集めている。また、Rhoキナーゼは神経突起の退縮にも関与するので、軸索再生や脊髄損傷の治療薬としても有望であると考えられている。Rhoキナーゼは、活性型RhoAが直接結合する事によって活性化され、種々の基質をリン酸化した後不活性化することが知られているが、その構造変化を伴う活性制御機構は今まで不明であった。今回、結晶構造研究で初めてRhoキナーゼの立体構造やその活性制御メカニズムが明らかとなった。また、クモ膜下出血時の脳血管攣縮を緩和する薬剤として既に臨床応用されているファスジル (fasudil、HA-1077)とRhoキナーゼの相互作用構造を明らかにした。これらの研究成果は、Rhoキナーゼを分子標的としたより高度な薬剤設計を可能とし、高血圧などの生活習慣病や脳神経系損傷の治療薬開発を飛躍的に発展させると考えられる。
4 岡村康司 自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 読売新聞(2006年3月24日 朝刊2面) 新たんぱく発見、膠原病リウマチに関連 Science.312(5773):589-92(2006)
日本経済新聞(2006年3月24日 朝刊15面)  
日刊工業新聞(2006年3月24日) 動物ゲノムでウィルス殺菌
Yomiuri Online(2006年3月24日) 膠原病に関連の新たんぱく質発見、感染症治療へ期待も
Science, Perspective 2006 APRIL 28 Volume312  
Nature Structural & Molecular Biology, News and Views(2006 MAY Volume13 Number5)  
Nature Chemical Biology,News and Views  
電気信号に関わる「電位依存性イオンチャネル」は電気信号を感知するための「センサー」とイオンが通過する「孔」から成る。昨年我々は尾索動物カタユウレイボヤのゲノムから、「イオンチャネル」の電位センサードメイン(VSD)をもちながら一方でポア(孔)を欠き、代わりに酵素をひとつの分子の中に併せもつ電位依存性酵素Ci-VSPを報告した(Murata et al, Nature, 2005)。
更に電位センサーをもつ分子を検索したところ、従来の電位依存性イオンチャネルのVSDに対応する構造だけをもち、「孔」も「酵素」のドメインをもっていない新たな分子を発見した(VSOP(voltage sensor only protein)と命名)。発現系細胞への強制発現によりマウスVSOPの分子機能の解析を行ったところ、驚いたことに、VSDの構造しかないにも関わらず膜電位依存的にプロトン(H+)を透過させる機能をもつことが判明した。電位依存性プロトンチャネルは、巻き貝のニューロンや、白血球やミクログリアなどで記載され、活性酸素の生成時での膜電位と細胞内pHの調節に必要な生理機構を考えられてきたが、その分子実体は長い間不明のままであった。VSOPは、今後感染防御機構や膠原病、アレルギー、神経疾患などにおける細胞内pHや膜電位シグナルの役割を解析する上で重要な分子と考えられる。更にVSOPのシンプルな構造と機能のユニークさから、この分子動作原理の解析は、今後イオンチャネルの動作原理一般や、様々な生命現象に関わるプロトンの透過機構などを理解する上で、重要な視点を提供すると考えられる。(Sasaki et al, Science, 2006)
4 吉原良浩 理化学研究所 讀賣新聞(2006年2月8日 夕刊14面) 「脳しなやかにキープ- たんぱく質の働きを発見」 J.Neurosci.26(6):1776-86(2006)
日本経済新聞(2006年2月8日 夕刊16面) 「脳の柔軟さ保つたんぱく質発見-理研など研究チーム」
日刊工業新聞(2006年2月8日23面) 「終脳たんぱく質がシナプスを柔軟に- 理研がメカニズム解明」
フジサンケイ ビジネスアイ(2006年2月9日27面) 「脳を柔軟に保つたんぱく質- 理研など発見、疾患の解明に期待」
化学工業日報(2006年2月9日8面) 「脳を柔軟に保つたんぱく質発見-理研など研究グループ、記憶障害など、治療法確立に道」
しんぶん赤旗(2006年2月9日14面) 「脳の柔軟性保つたんぱく質解明-発達障害治療への期待」
科学新聞(2006年2月10日) 「脳の柔らかさ保つタンパク質発見- 理研、東大などの共同研究チーム- 脆弱性X症候群、新薬開発研究への期待」
やわらかな脳を保つために必要なタンパク質「テレンセファリン」/
 記憶、学習など脳の高次機能発現過程において、神経細胞間の結合部位であるシナプスの形態が柔軟に変化することが知られています。しかしながらその分子メカニズムの詳細については不明でした。私たちは、ほ乳類において、学習、記憶、認知、情動など高次脳機能を司る終脳と呼ばれる脳領域に特異的に発現するタンパク質「テレンセファリン」に注目し、その局在・機能についての研究を行いました。テレンセファリンは、発達期の脳の神経細胞に多く存在し、運動性に富み、新しいシナプスの形成に重要な役割を果たす樹状突起フィロポディアに豊富に含まれることを見いだしました。さらに、神経細胞にテレンセファリンを過剰発現させると、樹状突起フィロポディアの数が劇的に増加しました。逆にテレンセファリン欠損マウスでは、神経回路が環境によって大きく変化しうる発達期において、すでに安定なシナプス構造であるスパインがたくさんできあがっていました。これらの結果は、テレンセファリンが樹状突起フィロポディアの形成・維持を促進することで、神経回路をやわらかく保ち、情報の入力に伴うシナプスのつなぎ替えを容易にしていることを示唆しています。本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal Neuroscience』(2月8日号)に掲載されました。
5 有賀 寛芳 北海道大学大学院薬学研究院 日経BP(2006年10月2日8時33分) 北大有賀教授、パーキンソン病治療薬候補の有効性を動物実験で確認  
現在、分子機構を含めた論文は投稿中です。

家族性パーキンソン病PARK7の原因遺伝子タンパク質DJ-1は、抗酸化ストレス因子として機能し、その機能破綻は家族性のみならず、大多数を占める弧発性パーキンソン病発症に関与すると考えられている。現在使われているパーキンソン病治療薬は、低下するドパミンの補充を目的とした対症療法であり、酸化ストレス誘導神経細胞死を抑制する薬剤が根本的な治療薬と考えられる。
DJ-1はC106がSO2Hに酸化されると活性化され、SO3Hにまで酸化されると逆に不活化される。弧発性パーキンソン病患者ではこの過剰酸化型DJ-1が蓄積する。今回in silicoで同定した化合物は還元型及びC106-SO2H 型のDJ-1に結合するものであり、結合によりC106のSO3Hへの酸化が阻止され、活性型DJ-1を維持している。これにより、活性酸素除去、ミトコンドリアcomplex 1の活性増強、チロシンヒドロキシラーゼの活性増強などが起こり、神経細胞死と行動異常が抑制されることをパーキンソン病モデルラットで確認した。また、これらの化合物は、血液脳関門を良く通過することから、パーキンソン病治療薬候補となりうる。

 
5 内匠 透

(財)大阪バイオサイエンス研究所
神経科学部門

産経新聞(2006年12月5日・朝刊・3面・15版)

精神遅滞と関連?RNA運搬役発見

Current Biology
16:2345-2351 (2006)

Yoshimura, A., Fujii, R., Watanabe, Y, Okabe, S., Fukui, K. and Takumi, T

愛媛新聞(2006年12月5日・朝刊・3面)

他全国地方紙に掲載

RNA結合蛋白(TLS)の神経細胞樹状突起内での輸送には微小管のみならずアクチンが関与することを示した。アクチンモーター蛋白であるmyosin-Vaは、脳内でTLSとCa依存性に結合し、標的RNAであるNd1-Lとともにスパインへの移行に関与することを、ドミナントネガティブやRNAi法を用いて、免疫細胞化学のみならず、タイムラプス法によるTLSダイナミクスの解析をあわせて明らかにした。さらに、myosin-Vaの欠失マウスであるdilute-lethal由来の神経細胞を用いて、myosin-VaがRNA顆粒のスパインへの輸送に関与する事を示した。本研究は、神経細胞樹状突起、特にスパインへのRNAの輸送にミオシンが働いている事を示した初めての報告であるとともに、RNA分配の基本的メカニズムが酵母から広く保存されている事を示したものであり、神経科学のみならず細胞生物学的にも興味ある論文である。
 
5 長谷川成人        
東京都精神医学総合研究所 日経産業新聞(2006年12月5日・朝刊・10面)

TDP-43 is a component of ubiquitin-positive tau-negative inclusions in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis

Biochem Biophys Res Commun
351:602-611(2006)

Arai, T*., Hasegawa, M*., Akiyama, H., Ikeda, K., Nonaka, T., Mori, H., Mann, D., Tsuchiya, K., Yoshida, M., Hashizume, Y. & Oda
*equal contribution, corresponding author

朝日新聞 (2007年5月27日・朝刊・2面)

大脳皮質に出現するユビキチン陽性かつタウ陰性の神経細胞内封入体は、前頭側頭型認知症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)と筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)に共通の病理学的特徴であるが、その主要な構成タンパク質が何であるのかは長い間不明であった。我々は、患者の死後脳を生化学的・免疫組織化学に解析し、TAR DNA-binding protein of 43 kDa (TDP-43)というタンパク質がこの封入体の構成成分であることを同定した。TDP-43は、遺伝子の転写や選択的スプライシングの調節に関与することが知られている核内因子である。さらに、従来ALSの特徴的病変とされていた脊髄に出現する封入体(skein-like inclusion)もTDP-43を含むことを明らかにした。また、患者の死後脳から抽出したTDP-43には異常なリン酸化が生じていることを見出した。以上から、FTLDとALSは、TDP-43の異常という共通の病理学的基盤を有することが示唆された。TDP-43の細胞内蓄積を防ぐことが両疾患の治療に結びつく可能性がある。
 
5 橋本 亮太 大阪大学大学院医学系研究科付属子どものこころの分子統御機構研究センター

読売新聞(2007年3月27日・夕刊・18面)

統合失調症の発症関与の遺伝子発見

Molecular Psychiatry
Online publication 2007 March 27th

Hashimoto,R. Hashimoto,H. Shintani,N. Chiba,S. Hattori,S. Okada,T. Nakajima,M. Tanaka, K. Kawagishi,N. Nemoto,K. Mori,T. Ohnishi,T. Noguchi,H. Hori, H. Suzuki,T. Iwata,N. Ozaki,N. Nakabayashi,T. Saitoh,O. Kosuga, A. Tatsumi,M. Kamijima,K. Weinberger,D.R. Kunugi,H. Baba,A.

毎日新聞(2007年3月28日・朝刊)
Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP:下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド)は神経伝達の制御に関連している神経ペプチドであることから、統合失調症の候補遺伝子として有望であると考えられる。我々は、PACAP遺伝子の多型とその受容体であるPAC1遺伝子が統合失調症と関連していることを示した。次に、PACAP遺伝子の統合失調症と関連している多型と統合失調症のリスクと関連する神経生物学的な特徴である中間表現型との関連を検討した。PACAP遺伝子の統合失調症に多く認められる遺伝子多型は海馬体積の減少と記憶機能の低下と関連していた。フェンサイクリジンやメタンフェタミンなどを用いた統合失調症の薬理学的なモデルでは運動量の増加とプレパルス抑制の低下が認められる。そこで、PACAPのノックアウトマウスを用いてこれらの行動を検討すると薬理学的モデルと同様の運動量の増加とプレパルス抑制の低下が認められた。さらに、このノックアウトマウスに非定型抗精神病薬であるリスペリドンを投与するとこれらの行動異常が正常化した。このようにPACAPは統合失調症の病態に関与することが示唆された。
 
5 永井義隆 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学

毎日新聞(2007年3月19日・朝刊・3面)

ポリグルタミン蛋白質の毒性構造変移体の発見

Nature Structural & Molecular Biology
14(4):332-340 (2007)

Nagai Y., Inui T., Popiel H.A., Fujikake N., Hasegawa K., Urade Y., Goto Y., Naiki H., Toda T.

日本経済新聞(2007年3月19日・夕刊・18面)

朝日新聞(2007年3月30日・夕刊・6面)
アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病などの神経変性疾患では、異常蛋白質が神経細胞内外に凝集・蓄積して神経変性を引き起こすという共通の発症分子メカニズムが示唆されている。ポリグルタミン病では、ポリグルタミン鎖の異常伸長により原因蛋白質が難溶性凝集体を形成して神経細胞内に蓄積することが知られているが、この過程で神経毒性を発揮するポリグルタミン蛋白質の構造変化については未解明であった。本研究では、異常伸長ポリグルタミン蛋白質モノマーがβシート構造への異常コンフォメーション変移を獲得して、その結果アミロイド線維状凝集体を形成することを明らかにした。そして、βシート変移したポリグルタミン蛋白質モノマーが細胞毒性を発揮することを見出した。さらに、異常伸長ポリグルタミン鎖結合ペプチドQBP1がこの毒性βシート変移を阻害して、神経変性を抑制することを示した。以上のことから、ポリグルタミン病のみならず他の神経変性疾患においても、異常蛋白質の毒性βシート変移が神経変性を引き起こすことが明らかになり、毒性βシート変移を治療標的とした治療薬開発への道筋を示した。
 
5 植田 弘師 長崎大学 西日本新聞(2007年3月15日・朝刊16版33面)

脳卒中の神経細胞死を抑制するタンパク質の発見

Journal of Cell Biology
176(6): 853-862 (2007)
Ueda H, Fujita R, Yoshida A, Matsunaga H, Ueda M

脳梗塞では、傷害中心で生じるネクローシス性神経細胞死とそれに伴う細胞内容物の漏出から、細胞死が周囲へ拡大していく。最近ではこの急性期の神経死の保護こそが脳卒中から予後の改善に重要であると考えられている。しかしながら、これまでネクローシスのメカニズムは十分に解明されておらず、またネクローシスを抑制する物質も見いだされていなかった。今回、ラット大脳皮質神経細胞に対する脳虚血ネクローシス性神経細胞死のモデルを作成し、ネクローシス性細胞死の原因がグルコース取り込み機能の低下ある事を証明した。さらに細胞密度を高くする事で、ネクローシスが抑制されることを見いだし、その培養上清の活性本体としてプロサイモシンaを発見した。プロサイモシンaはストレス時に低下したグルコース取り込みを回復する作用を有することを明らかにした。プロサイモシンaによるネクローシス抑制作用は極めてユニークな性質であり、また神経細胞を治療標的としているので、新しいタイプの脳卒中治療薬として期待される。
 
5 三浦正幸 東大・薬、遺伝研、理研 毎日新聞(2006年8月4日・朝刊)

「細胞の運命」仕組み解明:東大チームショウジョウバエで

Cell
126:583-596(2006)
Kuranaga, E., Kanuka, H., Tonoki, A., Takemoto, K., Tomioka, T., Kobayashi, M., Hayashi, S., and Miura, M

日経産業新聞(2006年8月4日・朝刊) 細胞死を引き起こす酵素、増殖や分化も制御

日刊工業新聞(2006年8月4日・朝刊)

細胞分化を担う分解酵素、分裂にも重要な役割
産経新聞(2006年8月7日・朝刊) 酵素調節で細胞分化を制御
科学新聞(2006年8月25日・朝刊) カスパーゼを介した細胞運命機構明らかに
本研究ではモデル動物を用いた遺伝学的な手法により、ショウジョウバエIKK-like kinase(IKKe)がカスパーゼ阻害蛋白質IAPのリン酸化を介してその蛋白質分解を調節し、結果としてカスパーゼの活性化レベルを調節する機構を初めて明らかにした。IKKeの活性が抑えられると、カスパーゼ阻害蛋白質IAPの蓄積がおこり、カスパーゼ活性が抑制される。その結果として末梢神経系の神経前駆細胞の分化が影響されることが明らかになった。これは、細胞死刺激のない状態でのカスパーゼ活性の調節が生理機能を発揮するのに重要であることを示したものである。IKKeはほ乳類にも相同分子があり、ほ乳類IAP分子(XIAP)のりん酸化と不安定化をもたらすことも明らかにした。今回の研究によって、1)低レベルのカスパーゼ活性化は様々組織でおこっていること。2)細胞死以外の生理機能に関わるカスパーゼ活性化調節は、IAPをリン酸化して分解促進をするキナーゼIKKeによってなされること。3)この仕組みによって感覚器前駆細胞数が決定される。ことが明らかになった。神経変性疾患では神経の機能障害が長期にわたって続くアポトーシスとは異なった障害を持つことが示唆されている。実際にHintingtinはカスパーゼによって切断されることが晩発性発症に必要なことが示唆されているが、この場合もHintingtin切断は神経細胞死のかなり前から観察されることから細胞死に至らないカスパーゼの活性化が神経変性の初期に関与することは明らかである。IKKeによる内在性カスパーゼの低レベル活性化調節と神経変性の関与に興味が持たれる
 
5 岡澤 均 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 Yahoo!Japan News(2006年2月16日) 細胞死を抑えるたんぱく質発見,神経変性疾患に効果? J. Cell Biol.172(4):589-604(2006)
日刊工業新聞(2006年2月14日) 神経変性疾患起こす神経細胞死東京医歯大学が抑制分子発見
科学新聞(2006年2月24日) 神経変性疾患誘発緩慢な細胞死解明
日本経済産業新聞(2006年2月14日 朝刊9面) 神経難病 進行の遅さ原因解明 東京医科歯科大 細胞死に新型
読売新聞(2006年2月16日 夕刊) 異常細胞の自殺抑制 医科歯科大など たんぱく質発見
転写抑制によって生じる新しい神経細胞死のかたち〜神経変性疾患における細胞死についての研究〜/
 神経変性疾患は、異常タンパク蓄積がおこり、機能障害を経て選択的な細胞死が生じる点で共通性を持つ。いずれの疾患も進行は極めて緩徐である(概ね2〜20年)。ヒト脳病理所見から神経細胞死が起きていることは確実であるが、細胞死の本質については明らかではない。アポトーシスやネクローシスは非常に速いプロセス(数時間程度)であり、変性における細胞機能障害から細胞死までの緩慢さとの間に乖離が見られた。
 一方、ポリグルタミン病では、神経細胞において転写障害が生じることが知られていた。本研究では、岡澤らはRNA合成特異的阻害剤によって神経細胞におきる変化について解析した。その結果、1)転写を抑制された神経細胞は極めて緩慢な細胞死を生じること、2)その形態学的・生化学的特徴はアポトーシスあるいはネクローシスとは異なること、−岡澤らはこの細胞死をトリアド(TRIAD: Transcriptional Repression-Induced Atypical Death of neurons)と命名した− 3)YAPdeltaCと名付けた新規分子がトリアドを調節すること、4)ヒトの神経変性においてYAPdeltaCが関与する可能性があること、5)YAPdeltaCを用いてショウジョウバエモデルの神経変性を抑制できることを明らかにした。本研究は神経変性の新しい細胞死モデルを提唱するものである。なお、本研究の成果は、2006年2月13日発行のJournal of Cell Biologyに掲載された。
5 水島 昇 東京都臨床医学総合研究所 毎日新聞(2006年4月20日 日刊) 細胞の掃除できず神経性疾患 Nature. online19 April (2006)
朝日新聞(2006年4月20日 日刊) 細胞「自食」で体のゴミ処理
読売新聞(2006年4月20日) アルツハイマー病一因 細胞の自食作用が防止
朝日新聞(2006年5月16日 夕刊) 異常たんぱく質たべちゃいます
 オートファジーは細胞内の大規模なタンパク質分解機構であり、代表的役割としては栄養が不足した時に細胞が自身の一部を分解することでアミノ酸を自給自足することが知られています。今回私たちは、神経細胞でオートファジーが単に栄養素供給としてだけではなく、細胞内の恒常的な代謝回転に寄与し、細胞内環境の品質維持にも機能していることを示しました。神経組織でのみ特異的にオートファジーの能力を欠如するマウス(神経系特異的Atg5ノックアウトマウス)を作製して、解析を行ったところ、このマウスは正常に生まれるものの、徐々に神経細胞内に異常(ユビキチン化)タンパク質とその凝集体が蓄積し、一部の神経細胞に変性・脱落を認めました。これに加え、生後4週目頃からは進行性の運動障害も観察されました。これらの研究結果は、オートファジーが神経細胞内浄化としての機能を果たしていることを示しています。多くの神経変性疾患に共通する特徴のひとつが細胞内の異常タンパク質蓄積であることを考えると、今回の成果はこれらの神経変性疾患の発症のメカニズムや治療戦略に新たな視点を与えるものであると考えられます。
5 加藤忠史 理化学研究所 脳科学総合研究センター 毎日新聞(2006年4月18日朝刊29面) そううつ病マウス作成 治療法、新薬開発に有用 Mol.Psychiatry.11(6):577-93(2006)
読売新聞(2006年4月18日 朝刊2面) 遺伝子工学の手法でそううつ病似マウス
日経産業新聞(2006年4月18日 朝刊9面) そううつ病 実験マウス開発 理研と名大、新薬開発に道
日刊工業新聞(2006年4月18日 朝刊33面) ミトコンドリアの機能障害 躁うつ病関与解明
化学工業日報(2006年4月18日 朝刊5面) 躁うつ病症状 実験用マウスを作出 理研治療薬開発に活用へ
日本経済新聞(2006年4月18日 夕刊18面) 躁鬱病マウス開発 知見と名大チーム 新治療法に光
東京新聞(2006年4月18日 夕刊10面) そううつ病症状、マウスで確認 ミトコンドリアの機能障害が原因?
科学新聞(2006年4月21日) ミトコンドリア機能障害仮説利用 躁うつ病も出るマウス作製 発症機
朝日新聞(2006年4月25日 夕刊7面) 躁うつ病のモデルマウス
躁うつ病(双極性障害)にミトコンドリア機能障害が関連−初めての躁うつ病モデル動物の可能性−/
 躁うつ病には遺伝的体質が関与するが、その原因は未だ不明である。理研BSI精神疾患動態研究チームは、躁うつ病患者で脳エネルギー代謝障害が見られること、躁うつ病とミトコンドリアDNA(mtDNA)変異や多型が関連していること、ミトコンドリア病患者が時に躁うつ病症状を呈するなどの事実から、mtDNAの異常によりミトコンドリアのCa2+取り込みが障害され、神経可塑性の変化や神経細胞の脆弱性を生じることが躁うつ病の原因であるとの「ミトコンドリア機能障害仮説」を元に研究を進めてきた。今回同チームの笠原和起研究員らは、名古屋大学の鍋島俊隆教授らとの共同研究により、mtDNA変異が神経細胞特異的に蓄積する遺伝子改変マウスを作製し、このマウスが周期的な行動量変化、行動量の日内変動の異常など、躁うつ病類似の行動異常を示し、この行動異常は気分安定薬であるリチウムにより改善し、躁転を惹起する三環系抗うつ薬で悪化することを示した。この結果は、ミトコンドリア機能障害が躁うつ病と関連している可能性を強く示唆しており、病態解明や新規治療薬の開発研究につながることが期待される。