• 根本研究室

二光子超解像顕微鏡の開発と応用

生体深部をサブ細胞スケールの空間分解能で観察できる二光子顕微鏡法は、神経科学をはじめとした様々な分野の研究発展に貢献しています。 ただ、可視化限界は存在します。例えば、記憶が形成される際に神経樹状突起スパインの微細形態がナノスケールで変化することが知られていますが、 その動態を従来の二光子顕微鏡で可視化することは困難です。空間分解能が足りないのです。
私たちは生体深部をまるで電子顕微鏡のように、 ありのままに観察可能な超解像二光子顕微鏡を開発し、これまで可視化困難であったナノスケールの生命現象を探究すべく研究開発を進めています。 例えば2014年のノーベル賞受賞対象となった超解像顕微鏡技術の一つ(STED技術)や独自の先端光技術を応用し、二光子励起顕微鏡法の空間分解能を光学的にサブ100 nmにまで向上させることに成功しています (左図)。また、並行して画像解析による超解像化のアプローチにも挑んでおり、新規の超解像法SRRFを二光子顕微鏡に適用したTP-SRRF法により、 既存超解像顕微鏡では困難だった数百μmの組織深部での超解像観察に成功しています (右図)

H. Ishii et al., Biomed. Opt. Express (2019)

高速3Dイメージング法の開発と応用

一般的な二光子顕微鏡では、レーザーパルスをサンプル上の一点に集光し、その集光スポットを縦横に動かして画像を取得します。一方、私たちが使用する多点走査型顕微鏡では、レーザーパルスを分割してサンプル面の広域に照射し、同時に多点をスキャンします。この原理により、撮像ピクセル数が多い場合にも高速な撮像が可能です。
この顕微鏡を使って、私たちは生体内部の微小構造や細胞内カルシウム濃度変化、グルタミン酸応答を広視野、高精細、多色かつ高速に可視化し、生命システムを理解することを目指しています。図はグリア細胞の一種であるアストロサイトのカルシウムイメージングをした結果です。多点走査型顕微鏡によって、局所的かつ高速なカルシウム濃度上昇が複数箇所で確認できました。

K. Otomo et al., Anal Sci. (2015) T. Kamada et al., Sci. Rep. (2022)

高分子超薄膜(ナノシート)を用いたマウス脳in vivo広範囲イメージング法の開発

私たちは、新規ナノ材料の高分子超薄膜 (ナノシート) を用いて、生きたままの脳組織を広範囲で光イメージングする手法の開発を行っています。 ナノシートとは、高分子を素材とする厚さ100 nm程度の薄膜であり、高い柔軟性、接着性、透明性を持っています。 透明なナノシートでマウス頭頂部のほぼ全域を覆い、生体組織を低侵襲に観察できる二光子顕微鏡を用いて観察を行うことで、 脳深部かつ広範囲の神経細胞を可視化することに成功しています。なお、本研究は東海大学工学部の岡村陽介教授との共同研究で実施されています。

T. Takahashi et al., iScience (2020)

グルコース代謝の研究

私たちの脳とりわけ視床下部領域は、全身の血中グルコース濃度(血糖値)の恒常性を維持するのに重要な役割を果たしています。特に視床下部の腹内側核(VMH)にあるグルコース感受性ニューロンは、周囲のグルコース濃度を感知しその情報を他の脳領域へと伝達します。グルコース感受性ニューロンには、グルコース興奮性(GE)とグルコース抑制性(GI)の二種類のニューロンが存在しており、末梢組織におけるグルコース取り込みや肝臓での糖新生を制御することで、血糖値を制御しています。私たちは、グルコースクランプ法で全身のグルコース代謝の評価や、小型顕微鏡によるカルシウムイメージングにより自由行動下のニューロン活動の観察を行っています。これらを通じて、満腹や空腹、休眠時におけるグルコース感受性ニューロンの特性や役割の解明を目指しています。

ML. Lee et al., Nat. Commun. (2021)

冬眠 / 休眠研究

哺乳類の多くは、食料が枯渇し寒冷に晒される季節には、積極的に熱産生と代謝などのエネルギー消費を抑制し、低体温・低代謝状態を発動します。この冬眠/休眠という生理現象は、古くから知られにも関わらず、分子〜細胞メカニズムの手がかりや研究の方法論において、いまだ全容解明にはほど遠いのが現状です。私たちは先端光イメージング計測を駆使することで、冬眠・休眠状態の哺乳類の脳内で何が起きているかを捉えようとしています。特に概日時計、グルコース代謝、体温感知/産生の脳内機構に焦点を当て研究を進めています。

「冬眠生物学〜哺乳類の低代謝・低体温による生存戦略」

概日時計研究

哺乳類の概日時計の司令塔は脳の視交叉上核に在り、睡眠-覚醒サイクルに代表される周期的な生理機能を調節しています。視交叉上核は約2万個の神経細胞とそれを取り巻くグリア細胞から構成され、ネットワークを形成することで強固なリズムを作り出すと考えられています。私たちは光学顕微鏡を用い視交叉上核における細胞内カルシウムや膜電位などを観察・解析しており、リズム生成のメカニズムやその特性の理解を目指しています。図では細胞内カルシウム濃度変化を感知する光プローブを使い、視交叉上核の活動を見ています。

Y. Hirata, R. Enoki et al., Sci. Rep. (2019)