平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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研究報告

熱センサーTRPV2がメカノセンサーとして神経軸索の伸長を促すメカニズム

研究の背景

 Transient receptor potential vanilloid 2 (TRPV2)は52℃以上の侵害熱刺激で活性化する熱センサーである。成体では中型の感覚神経細胞(Aδ線維)に発現し、熱からの忌避反応に関わっている。以前に我々は、このTRPV2がいつから発現開始しているのかを調べ、マウスでは胎生10日目頃から全ての感覚神経細胞に発現することを見いだした。子宮内の胎児は母体内で均一な温度環境に存在するため、TRPV2が熱センサー以外の機能を持ち、神経細胞の発生・分化に関わることが示唆された。その後解析を進めた結果、TRPV2はメカノセンサーとして機能し、TRPV2活性化により軸索伸長が促進することで円滑で効率的な神経回路形成を行うことを明らかにした(Shibasaki et al. J. Neurosci. 2010)。今回、我々はTRPV2がどのような分子機構でメカノセンサーとして物理刺激に反応し、軸索伸長を促しているのかを解析した。

研究成果

 TRPV2は細胞膜上でアクチンと結合していることを見いだした。細胞膜上に機械刺激が付加するとまずアクチン(細胞骨格)に変動が生じ、この変動がTRPV2に伝わることでTRPV2活性化が起ることを明らかにした。また、TRPV2活性化に伴うCa2+流入が、細胞内に存在するTRPV2局在を変化させ、機械刺激付加が生じている場所へとTRPV2を瞬時に集積させることを突き止めた。TRPV2活性化→Ca2+流入→TRPV2の集積(機械刺激の増幅)→細胞骨格の再編成→成長円錐運動の促進というカスケードを通じて、軸索伸長が惹起する細胞内メカニズムが存在することを突き止めた。

研究のまとめ・意義

 今回の研究から、発生期にどのようにして1メートル以上もある感覚神経軸索を張り巡らせているのかが分子・細胞レベルで明らかになった。また、機械刺激付加に伴うTRPV2活性化の分子メカニズムが明らかになった。この知見を応用し、TRPV2活性化剤を開発することで、損傷軸索再生を促す有効な治療法開発へと結びつく可能性がある。従来は熱センサーとして知られていたTRPV2が、実はメカノセンサーとして機能するDual Functionを持っており、神経回路形成や損傷軸索の再生過程に関与していることが明らかになった。今後は、温度センサーのマルチ機能という視点からさらに研究を発展させ、臨床応用に結びつく温度生物学的成果をあげたいと考えている。




発表論文

Sugio S, Nagasawa M, Kojima I, Ishizaki Y, Shibasaki K*.
TRPV2 activation by focal mechanical stimulation requires interaction with the actin cytoskeleton and enhances growth cone motility.
The FASEB Journal in press
doi: 10.1096/fj.201600686RR

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