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研究内容(富永グループ)RESEARCH

1)痛み刺激受容の分子機構の解明に関する研究

感覚神経に特異的に発現して侵害刺激受容に関わるイオンチャネル型受容体が近年明らかにされつつあります。 その中心的な分子群がTRP チャネルです。カプサイシン受容体TRPV1 (VR1)、TRPV2, TRPA1 (ANKTM1)等が含まれます。 TRPV1は、カプサイシン、プロトン、熱(43度以上)という複数の侵害刺激によって活性化し、 陽イオン流入から細胞興奮をもたらします。TRPV1が多刺激痛み受容体として機能することは、 遺伝子欠損マウスの行動解析からも明らかになっています。 また、TRPV1は炎症関連メディエイターの代謝型受容体と機能連関してPKCによってリン酸化されて機能増強し、 活性化温度閾値が体温以下に低下することによって体温で活性化して痛みを惹起しうることが分かっています。 これは、炎症性疼痛発生の新しい分子機構として注目を浴びています。このように分子生物学的手法、 電気生理学手法を駆使して感覚神経終末における侵害刺激受容の分子機構を明らかにしていこうとしています。 この研究では、遺伝子欠損マウスの行動薬理学的解析も行っています。

カプサイシン受容体TRPV1

2)温度受容の分子機構の解明に関する研究

 私達は様々な温度を感じて生きていますが、どうような機構で温度受容がなされているかは殆どわかっていませんでした。 カプサイシン受容体TRPV1は初めて分子実体が明らかになった温度受容体であり、 現在までにTRPイオンチャネルスーパーファミリーに属する9つの温度受容体(TRPV1,TRPV2,TRPV3,TRPV4,TRPM2,TRPM4,TRPM5,TRPM8,TRPA1)が知られています。 TRPV1, TRPV2は熱刺激受容を、TRPV3, TRPV4は温刺激受容を、TRPM8,TRPA1は冷刺激受容に関わります。 また、TRPV3,TRPV4は感覚神経のみならず皮膚の角質細胞にも発現しており、 皮膚表皮細胞で温度が感じられることが示唆されます。さらに、低浸透圧でも活性化されるTRPV4は視床下部にも 発現がみとめられ、浸透圧調節・体温調節にも関与する可能性があります。 これら温度受容体の異所性発現系を用いた解析、変異体等を用いた構造機能解析、感覚神経細胞を用いた電気生理学的な 機能解析、組織での発現解析、遺伝子欠損マウスを用いた行動解析を通して温度受容機構の全容解明を目指しています。 新規温度受容体の探索も進めています。

温度計

研究内容(曽我部グループ)RESEARCH

 曽我部グループではキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)をモデルに、温度をはじめとする環境刺激受容の分子メカニズムの解明、ならびに次世代の害虫防除ストラテジーの確立に取り組んでいます。

3)ショウジョウバエを用いた環境刺激応答および分子機序に関する研究

 生物にとって温度は切っても切れない環境要素であり、周囲の温度を常に感知しながら生育に適した環境を求めています。生体温度センサーとしてはこれまでにTRPチャネルが同定され、ショウジョウバエにもその分子システムが保持されています。いくつかの分子については温度センサーとしての直接的な役割が明らかにされていますが、多くのTRPチャネルやその他の膜センサーについては、正確な機能や役割はまだ多くがベールに包まれています。センサー(蛋白質)は細胞膜と呼ばれる脂質二重膜の中に包埋された状態で機能します。したがって、膜蛋白質の機能を理解するためには、それらを取り囲む脂質との関係性を明らかにしていくことが必要です。
 そこで私達は、感覚受容システム、特に温度受容における膜蛋白質と脂質の機能相関および脂質の機能的役割に焦点を当てて研究を進めており、脂質による膜蛋白質の機能制御を評価する系としてショウジョウバエを活用しています。ショウジョウバエは我々哺乳類と共通した多くの遺伝子および分子機能を保持しており、優れた感覚機能を有しています。一方で、環境刺激に対する個体応答はシンプルな神経系によって脊椎動物よりも単純化されており、なおかつ遺伝子にコードされた嗜好性に基づいて誘引か忌避といったステレオタイプな応答を示します。したがって、感覚神経の脂質組成や代謝を調節する遺伝子の働きを個体の行動や嗜好性を基準に評価することが可能です。
 現在、私達はショウジョウバエの強みである遺伝学的ツールや変異体を活用し、個体の行動解析を指標に温度受容において機能する脂質関連遺伝子を探っています。さらに各種の生理学的解析やカルシウムイメージング、電気生理学的なアプローチを駆使しながら、環境センサー(膜蛋白質)の機能に関わる脂質関連遺伝子の役割を解析することで、感覚受容の分子メカニズムを「機能性脂質」の側面から理解しようとしています。

温度Assay

            昆虫における温度受容の分子基盤

4)昆虫感覚センサーを標的にした次世代昆虫忌避・殺虫成分に関する研究

 人口増加と文明発達にともなって、人類と他生物種の共存戦略はますます重要な課題となりつつあります。とくに害虫による被害は、物資と人の移送手段の多様化にともなって発展途上や先進地域など場所を限らず世界中で深刻化しています。殺虫による駆除はより短期間で大きな効果を発揮しますが、同時に環境や人体への悪影響が常に懸念されるとともに、作用が強力なほど耐性昆虫の出現を促す危険性をはらんでいます。一方で忌避による防除は効果が時空間的に限定的であるという欠点があるものの、環境や生態系、人体への影響が小さいことから大きな需要があります。代表的な忌避剤として1950年代から用いられているDEETが最も効果的とされていますが、使用上の制限が多く、新しい忌避剤が求められています。
 TRPチャネルは生理的な環境刺激センサーであり、昆虫においても重要な機能を果たしています。TRPチャネルには様々な物理的・化学的な侵害刺激を受容する特性があり、生体を危険な環境から遠ざける役割を担っています。たとえば我々が好んで摂取する香辛料はTRPチャネルのリガンドとなる成分を含んでおり、昆虫では忌避的な応答を引き起こします。TRPチャネルはそれ以外にも多彩な刺激を受容しますので、その活性を人為的に制御することで昆虫の侵害刺激受容システムを活性化あるいは混乱させることができ、害虫マネージメントに有効であると考えられます。
 そこで私達は、昆虫のTRPチャネルをターゲットとして次世代の昆虫忌避剤のシーズを開発しようとしています。最終的には感染症媒介蚊や農業害虫に個体レベルで効果のある成分の同定を目指しながら、そこへ至る手段としてショウジョウバエをモデルに用いています。ハエの行動解析と標的昆虫のTRPチャネル遺伝子を用いた分子機能解析から新規昆虫忌避物質の特性を明らかにし、ドラッグデザインによる改良を施します。実際の標的昆虫への個体作用も評価しています。TRPチャネルという新しい感覚センサーを対象に、その侵害刺激応答性を利用した昆虫忌避物質の探索を通じて、自然や他生物種に対して低侵襲性の棲み分けによる害虫防除の新ストラテジーを提唱しようとしています。

忌避

          TRPチャネルをターゲットとした昆虫忌避物資探索


以上のテーマに興味を持ち、神経科学と感覚生物学を嗜好するチャレンジングな大学院生を求めています。お気軽に曽我部までメールください。
研究履歴(Research Gate): https://www.researchgate.net/profile/Takaaki_Sokabe

バナースペース

生命創成探究センター
 温度生物学研究G
(生理学研究所 細胞生理研究部門)