池中先生からのメッセージ

Prof. Ikenaka

分子神経生理部門研究内容の概略

まず正常な脳神経系の発生・分化過程を研究し、そこで得た知識をただちに精神・神経疾患の病態解明や治療に反映させるようにしています。神経発生の分野は脳神経系の再生医療と直結しているのです。成人脳内に神経幹細胞の存在することが明らかとなり、内在性の神経幹細胞や移植した神経幹細胞を目的とする細胞(ドーパミンニューロンやオリゴデンドロサイトなど)に分化誘導させる試みが世界中で行われています。再生医療への応用を考える時、非生理的な条件でも目的細胞が得られればいいのですが、われわれのスタンスはきっちりと正常発生を研究し、その結果を再生医療に応用することにおいています。やみくもに分化因子を加えるやり方では短期的にはいい結果が得られるかも知れませんが、すぐに底をつきますし、真の新たな発見がないと信じています。この一連の研究は「脳細胞の発生・分化・再生の分子機構」という課題名で平成12年から16年まで未来開拓学術研究事業に採用されました。

神経幹細胞は発達過程においてまず神経細胞を産生し、その後グリア細胞を生み出します。グリア細胞は従来神経細胞を支持するだけの細胞であると考えられて来ました。しかし、最近グリア細胞は脳機能発現のために神経細胞と同じ程度重要な働きをしていることが明らかとなってきたのです。この領域の研究の重要性は特定領域研究に2度取り上げられていることから理解できます。第1回目は平成10年から13年まで「グリア細胞による神経伝達調節機構の解明」という研究課題名で池中が総括班長を務めました。2回目は平成15年から今年までの5年間の予定で現在活動中です。脳神経系の特定領域研究の数が減少している中、「グリア-ニューロン回路網による情報処理機構の解明」が東京薬科大学の工藤先生を総括班長として採用され、池中はその班長として活躍しています。われわれはグリア細胞に注目しています。

また、われわれがもう一つ着目しているのが糖蛋白質糖鎖です。神経発生においても他のいろいろな領域でも細胞−細胞間認識は極めて重要な働きをしています。にもかかわらず、今まで糖鎖はあまり注目されていませんでした。それは簡便な解析方法がなかったためです。分子神経生理部門では10年以上前から糖鎖(特に糖蛋白質糖鎖)の重要性に気づき、その解析方法を開発してきました。今それがやっと実用レベルに到達し、これから精力的に糖鎖解析をして行きます。