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2013年10月 伊佐 正 |
英国ツアー またまたアップが随分遅れてしまったが・・・・9月の初旬にロンドンでの学会に呼ばれたので、併せて英国内の他2か所を回ってきた。
翌日の4日は列車でシェフィールドへ。ここ2年ほど共同研究しているPeter Redgraveを訪問した。現在D3の学生のT君はちょうどD1で自分のテーマが決まったところに、Peteが来てその実験系の最初の立ち上げを一緒にやってくれた。その後も頻繁にメールやskypeで進捗についてアドバイスしてくれていて、実質的なメンターになってくれている。そこで総研大の大学院生の海外派遣制度を利用して、8月初旬から1か月シェフィールドのPeteの研究室でラットでの連合学習実験に加えてもらうことにした。日本ではサルで眼球運動、シェフィールドではラットでジョイスティックを用いるのだが基本的に問うているクエスチョンは同じである。それぞれでどういう答えが出てくるのかが楽しみだ。その期間の最後にいわば私が成果をチェックしにいったような形になるのだが、「Nori(T君のニックネーム)は大変良くやってくれている」というお褒めをいただいたのは私も嬉しかった。特に印象的だったのは2年前はほとんど英語が聞けず喋れずで、実験中、私やポスドクのKさんがPeteとやりあっている間はずっと静かだったT君が英語で皆との会話を上手にこなしていたことだった。やはり若い人は進歩が速いなと思った。こういうふうに若い人をある時期、英語しか喋れない環境に放り込むのは大変良いことだと再認識した(今後もやろう)。4日はPeteの自宅に泊めてもらい、5日は現在一緒に書いている論文についてのdiscussionとセミナー。その後列車でロンドンへ移動。
最後はロンドン。15th Spinal Research Network Meeting(6-7日)に招待された。脊髄損傷研究を支援する財団主催の会議で、いわゆる脊髄損傷研究の主立った人が皆集まる会議とのことである。行ってみて分かったのは、元来はとても”molecularな”会議で、損傷後の組織の有害因子を如何に除去するかという研究やひたすら軸索再生を目指す研究、また幹細胞関係の研究が主体だった。しかし、やはりこの分野もきちんと回路の機能を理解しないと本当の治療はできないということが認識されるようになり、「サルの脳・脊髄損傷後の機能回復」を研究している生理学者・解剖学者として米国Vanderbilt大学のJohn Kaas(!)とStuart Bakerと私が呼ばれた格好である。これは実行委員を務めているグラスゴー大学のJohn Riddleのアイデアだったのだそうだ(Johnとは今から約25年前の留学先のイェテボリ仲間。私はLundberg、JohnはJankowskaの研究室。昔の留学時の人脈が今でもつながっている)。こんなことを言っては不遜かもしれないが、トークは、皆にとって新鮮だったようで、自分でも驚くくらいとても「受けた」と思う。今回の会議では、他にはUCSDのMark Tsuzynskiの仕事(Cell, 2012)が圧巻だった。ラットの脊髄損傷モデルに神経幹細胞を移植するのだが、細胞が失われないようにフィブリンやトロンビンなどで固定し、さらに4種類の免疫抑制剤と20種類余りの様々な因子のカクテルを投与すると移植した細胞は軸索を顕著に進展してシナプスも作る。ただ、「やたらめったら」伸びるようで脊髄から嗅球まで伸びる軸索もあるようだ。実際にこれだけ軸索は伸びても機能改善は思ったほどではないようで、今後はリハビリも含めてきちんと「回路を作らせる努力」が必要だとういうことである(そりゃあそうでしょ)。これまで率直に言って私も含めた多くの”オーソドックスな“生理学者や解剖学者は実は「IPS細胞も含めた幹細胞等による脊髄損傷治療」に対して懐疑的で、距離を置いていたと思う(正直にそう言ったらTsuzynskiも「自分もそうだった」と言っていた)。しかし、今回の会議に参加して、細胞を生着させ、グリア瘢痕を溶かして軸索が伸展しやすい環境を作ったりするということについては一山越えつつあるようであるということがわかった。そうなると、そろそろ我々の出番かな、と思った。同じことはStuartもJohnも感じたようである。そういう意味で今回の会議に参加させてもらったのは大変意義深かった。レセプションはシェークスピア・グローブ劇場のレストラン。俳優さんたちの座興の寸劇つき。
出発の日(8日)は空港に行くまでに朝の2時間ほど時間があったので地下鉄に乗って子供の頃からの40年越しの憧れの場所に行き、憧れの横断歩道を渡ってしまった・・・・(感激!)
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伊佐 正 教授 ![]() |
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