行動・代謝分子解析センター 感覚生理解析室

研究内容

感覚機能の分子基盤と生理的重要性の解明ならびに新たな害虫防除戦略の創出
 本研究室では生物の環境適応と生存において最初の入口となる感覚機能について、その分子メカニズムと生理的重要性を明らかにする研究を進めています。特に膜タンパク質である温度感受性TRPチャネルなどの受容体とその周囲にある膜脂質の機能的連関に焦点を当てて、受容体と脂質が担う感覚受容の新たなメカニズムを提唱しようとしています。手法としてはショウジョウバエの遺伝学的技術を用いた温度走性や温度適応などの行動解析に加えて、神経や細胞のイメージング解析や受容体を発現させた培養細胞を用いての電気生理学的解析など、個体から遺伝子まで幅広い階層のツールを用いて感覚機能の真の姿を明らかにすることを目指しています。
 また、老化やアルツハイマー病などの神経変性疾患で生じる感覚機能障害において、その一因となる酸化ストレスが膜脂質と受容体機能に与える影響についてもショウジョウバエや哺乳類細胞を用いた解析を行っており、感覚機能の破綻の機序解明とその回復技術の開発に取り組んでいます。さらに、昆虫の感覚受容体や神経機能をターゲットにしたこれまでにない忌避および殺虫成分を探索・開発することで、次世代の害虫防除戦略の創出を目指しています。
 以上のように本研究室では生物の感覚機能とそのメカニズムをコアとして、感覚受容プロセスの基盤解明を目指す基礎的研究と医および農に関連する社会課題の解決に資する応用的研究を展開しています。これらを推進するための共同研究と大学院教育にも積極的に取り組んでいます。

図1 膜タンパク質と膜脂質が一体となった感覚受容のメカニズム。
細胞膜の感覚受容体の構造と機能は周囲を取り巻く脂質によって維持されています。脂質は代謝物の産生、直接修飾や膜ドメインによる膜タンパク質の局在化、膜の物理化学特性の伝播などを介して感覚受容体の活性を制御していると考えられますが、その全容はまだ未解明です。
図2 昆虫の受容体をターゲットにした害虫防除策の確立。
侵害刺激受容や生理機能調節に重要な働きを持つTRPチャネルや神経のイオンチャネルを対象に、新しい化合物による忌避や殺虫、生理機能の撹乱手法を探索・開発しています。また、化合物の効果を増強する活性修飾物質についても解析を行っています。