研究内容

神経幹細胞の発生・維持

 神経幹細胞は、発達期の脳において神経細胞やグリア細胞を供給するのみならず、成体の脳においても継続的に神経細胞を産生し、脳の機能維持に関与していると考えられています。マウスでは胎生8.5日以降の胚で神経幹細胞が検出できますが、それ自体の起源や発生機構は不明な点が多く残されています。また、胎仔期の脳における神経幹細胞の増殖から、神経細胞・グリア細胞への運命決定や分化機構、成体脳での維持機構や老化に至るまで、解明すべき問題点が少なくありません。当研究室では神経幹細胞に関わる全ての過程で多くの課題を設定し、研究しています。例えばこれまでに、神経幹細胞の自己複製能にはNotchシグナルが重要な役割を担っていることを明らかにし、Notchシグナル活性の減弱によって成体脳の神経幹細胞が維持できなくなることを報告しました。また最近では、神経幹細胞が出現する胎生8.5日より早期の胚に、より大きな分化能をもつ未分化神経幹細胞が存在することを提唱しました。

 神経幹細胞の基礎的な性質や正常発生における役割を理解することは、病的状態における神経幹細胞の動態の理解や脳の再生を目指す研究に対しても、大きな意義を有しています。ヒトの脳では1度障害された神経細胞は補充されないと考えられてきたが、最近の研究で必ずしもそうではないことが判ってきました。しかし、神経幹細胞が障害脳においてその機能を充分に発揮していないことも確かであります。その理由を明らかにし、神経幹細胞が障害脳を再生できる条件を探すことも、当研究室の重要な課題です。疾患モデルマウスを利用し、チップテクノロジーや当研究室で開発した糖鎖解析技術などを駆使しながら、研究に邁進しています。