平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

温熱産生能を持つトカゲ

文献紹介者;生理学研究所 細胞生理研究部門 助教
齋藤 茂

 哺乳類や鳥類における恒温性の獲得は低温条件下での活動を可能にし、適応的に有利であったと考えられる。恒温性獲得の進化過程は未解明であるが、 変温動物である爬虫類が鳥類と近縁であることから、恒温性が鳥類と哺乳類で独立に二度獲得された可能性と、祖先状態で一度獲得された後に爬虫類で失われた可能性が考えられる。 本論文でTattersallらは、爬虫類であるトカゲが外気温より高い体温を維持できることを報告した。南米に生息するテグ―の野外における体温を年間に亘って測定したところ、 ほとんどの期間において体温は外気温と同程度であったが、繁殖期では外気温より高く維持されており、最大で10℃ほど差があることが見出された。 爬虫類は日中に日光を浴び体温を上昇させることが知られているが、夜間でも体温は環境温度より高く保たれていた。また、体温の上昇は採餌や活動量とも関連せず、 更には、人工環境下で熱源に曝されることが無い条件下でも体温を高く維持できることが示された。繁殖期における代謝量の増加、熱放散量の低下、 巣材による保温が体温維持に貢献していると推定される。テグ―は繁殖期に巣穴で産卵し、卵の世話をすることから体温の上昇は繁殖に有利であると考えられる。 本研究は、恒温性が繁殖に関連して進化してきたこと、また、変温動物から段階的に恒温性が獲得された可能性を示しており、恒温性の進化過程を考えるうえで興味深い研究成果である。

Tattersall G. et al.
Seasonal reproductive endothermy in tegu lizards
Science Advances (22 Jan 2016) Vol. 2, no. 1, e1500951

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