平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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領域概要

領域代表挨拶

 温度は様々な生理機能に影響を与え、生体の恒常性維持においても最も重要な因子の一つです。そこで、温度が関わる生命現象の解明を目指して新学術研究領域「温度を基軸とした生命現象の統合的理解」(温度生物学)が発足しました。「温度センシング」と「温度応答システム」の2つの研究項目から成り立っています。温度センシング機構や生体温度応答のメカニズムが解明されることによって新たな学問「温度生物学」の創成につながるものと期待しています。

 領域代表;富永真琴 (自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター・教授) 

温度生物学研究の概念図

本領域の目的

 分子の存在状態と反応性を規定する最も基本的な物理量である「温度」は、生物においてもエネルギー産生、生体分子の生合成、細胞内外の情報伝達などの生命現象すべてに対して必須の役割を果たしています。また、温度は、血圧、代謝、生体リズムをはじめとする様々な生理機能に影響を与えることから、生体の恒常性維持においても最も重要な因子の一つです。1997年の侵害熱センサーTRPV1遺伝子クローニングの成功を契機として、生物における温度センサー分子の研究は飛躍的に進みました。また、細胞内にも温度に応答する分子群も存在することも示されつつあります。個体レベルにおいても、生体の温熱恒常性維持を担う神経機構の一端は明らかにされ、生物における「温度」の研究が今まさに飛躍的に進もうとしています。
 一方で、近年、細胞内温度プローブの開発により、細胞小器官の局所温度が変化することが示され、温度の時空間的な変化を細胞外・細胞内温度センサーが協調してセンシングしている可能性やこれら変化が個体の様々な生理機能に影響を及ぼすことが推定されます。また、最近になり、細胞や臓器の局所温度を正確に計測・制御する技術が確立されつつあり、その応用により、温度と生命活動についての新しい生物学研究を推進することが可能となってきました。そこで本領域では、温度分布と温度感知の空間的不均一性と時間的変動の発生機序と生理的役割を明らかにすることで温度の空間的・時間的変動をシグナルとする新たな情報伝達機構「温度シグナリング」の概念の確立・提唱し、「温度を基軸とした生命現象の統合的理解」を目指します。

本領域の内容

 本領域は、分子・細胞レベルから個体レベルまでの広範な研究対象に対して、A01「温度センシング」、A02「温度応答システム」という2つの研究項目を立てて研究を遂行していきます、A01では、細胞膜と細胞内の温度センシング機構が協働して、細胞が温度を感知し機能発現にいたるメカニズムを明らかにし、A02では、感知された温度情報が統合され、個体レベルでの体温・代謝調節、生体リズム調節、行動制御などの生理現象にいたる生体メカニズムを明らかにします。
 A01「温度センシング」は、細胞膜分子、細胞内分子、細胞内代謝機構を対象とする研究で構成し、個々の温度センシング研究に加えてこの3つの要素がいかに協調し連携しながら温度センシングするかを追求します。また、細胞内局所温度計測・制御技術の研究者との連携によって、細胞内局所温度変化とセンシング機構という全く新しい方向性をもった研究を展開していきます。さらに、研究項目A02との有機的な連携を進めることで、A01で同定した温度センシングの分子機構が個体レベルの生体機能において担う生理学的意義を解明します。
 A02「温度応答システム」は、感知した温度情報を統合して生理反応を生み出す神経回路、温度が代謝機能や生体リズムに及ぼす影響、温度情報がもたらす快・不快の情動生成のメカニズムに焦点をあてて研究を進めます。また、臓器内局所の温度計測・制御技術を開発・活用することで、温度応答システムの臓器間およびシステム間クロストーク研究を推進します。さらに、研究項目A01との有機的な連携を進めることで、臓器・細胞間で異なる温度応答の多様性が細胞の温度センシング分子機構のどのような違いで生じるのかという問題を解明していきます。

期待される成果と意義

 温度を基軸として生命現象を統合的に捉えることで、温度の感知・応答・生体調節等の多様性と普遍性から生物を考える学問領域「温度生物学」を創成します。
 本学術領域で創成する「温度生物学」は、温度が関わる全ての生命科学分野の学術水準の向上に貢献する生物学の新潮流を生み出すことが期待されます。特に、本研究で得られる知見は、化学物質をシグナルとする、いわゆる「代謝」を基盤とした従来の情報伝達機構に対し、物理量である「温度」をシグナルとする新たな情報伝達機構の発見につながることが期待されます。また、温度感知機構や温度応答機構の解明と応用は、環境温度変化に適応した健康で安全・快適な暮らしにつながるとともに、医療・健康産業や衣食住にかかわる様々な産業への波及効果が期待でき、「科学技術イノベーション総合戦略」や「日本再興戦略」、「健康・医療戦略」に掲げる、「国民が豊かさと安全・安心を実感できる社会」や「国民の健康寿命の延伸」の実現に貢献できると確信しています。

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