平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

視床下部オキシトシン分泌の温度感受性メカニズム

文献紹介者;生理学研究所 細胞生理研究部門 助教
鈴木 喜郎

 オキシトシン(OT)は感情の変化など様々な刺激に応じて分泌され、主に不安やストレスに対する応答を軽減する役割を担っていると考えられている。しかしながらOT分泌がどのような分子メカニズムによって制御されているかについては不明な点が多く残されている。例えばOT分泌には温度依存性があることが古くから知られており、発熱時に増加するが、発熱時の体温上昇によってどのようなメカニズムで増加するかはよくわかっていない。
 CD38はADP-ribosyl cyclase活性を持つ膜タンパク質であり、視床下部においてOT受容体刺激で活性化しβ-NAD+からcyclic ADP ribose (cADPR)を産生する。このcADPRが小胞体に存在するリアノジン受容体チャネルに作用し細胞内Ca2+濃度を増加させることによってOTニューロンにおいて脱分極刺激がなくてもOT分泌が亢進すると考えられている。一方、cADPRのようなβ-NAD+代謝産物は、視床下部において温かい温度で活性化するイオンチャネルに作用し生体の温度調節への関与が示唆されているが、そのイオンチャネルの分子実体は不明である。
  TRPM2は富永研究室によって温かい温度においてcADPRで活性化されることが明らかにされていた(Togash K et al. EMBO J. 2006)。本論文ではTRPM2が視床下部OTニューロンの温度感受性イオンチャネルの分子実体ではないかとの仮説の下、視床下部組織を用いた薬理学的手法、CD38KOマウスを用いたin vivo解析等を用いて検証を試みている。その結果、TRPM2が発熱時におけるCD38を介したOT分泌増加に関与することが示唆された。具体的にはTRPM2のshRNAを発現させるレンチウイルスをマウス第三脳室に微量注入し、2週間後の単離視床下部におけるTRPM2発現量および温刺激後のOT分泌量を測定したところ、両者とも有意な減少が確認された。また、視床下部におけるTRPM2発現量はもともと低いものの、従属ストレス(♂マウスをグループで飼育)を与えた際に発現量が増加することから、次の発熱もしくはストレスに対応するための適応機構にTRPM2によるOT分泌制御が関与しているのかもしれない。

Zhong J et al.
Cyclic ADP-ribose and heat regulate oxytocin release via CD38 and TRPM2 in the hypothalamus during social or psychological stress in mice.
Frontiers in Neuroscience 2016, 10: 304

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