平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

TRPV1の熱活性はポアドメインに備わっている。

文献紹介者;香川大学医学部・分子生理学 教授 藤原祐一郎

 電位依存性チャネルスーパーファミリーの基本構造は6本のヘリックスからなる膜貫通領域(S1-S6)を有し、前半を電位センサードメイン(S1-S4)、後半をイオンが透過するポアドメイン(S5-S6)と定義される。一部を除き、N端は細胞内から始まりC端は細胞内に終わる細胞内領域を有する。特にTRP(transient receptor potential)チャネルファミリーでは種々のドメインから構成される大きな細胞内領域を有する。
 TRPV1チャネルは侵害熱や酸、炎症物質、唐辛子の辛味成分カプサイシンなどの痛み刺激の受容体である。近年のクライオ電子顕微鏡観測により、その原子レベルでの構造は明らかになっている。カプサイシンなどのバニロイド類は膜貫通領域(S3-S6)の細胞内領域側に結合し、TRPV1選択性クモ毒はポアドメイン(S5-S6)の細胞外側に結合する。いくつかの物質に対する結合サイトは同定されているが、温度センサーの場所はよく分かっていない。本論文で、筆者らは、TRPV1および電位依存性K+チャネルの構造を基に、TRPV1の膜貫通領域をShaker電位依存性カリウムチャネルに移植したキメラチャネルを作成した。TRPV1のポアドメインをShakerに移植したチャネルは機能し、TRPV1選択性クモ毒が細胞外領域に結合することにより活性化された。このポアドメインキメラチャネルは、TRPV1チャネルと同様にカチオン非選択的にNa+, K+, Ca2+を透過し、驚くべきことに侵害熱により活性化された。これらの結果から筆者らはTRPV1のポアドメインは侵害熱による活性化に必要十分な領域であると結論した。
 これまで、温度感受性TRPチャネルファミリーに対して、温度センサーの探索は盛んに行われてきた、細胞内領域や膜貫通領域など、その候補は多岐にわたる。しかしながらこれらの研究は、変異導入などにより温度閾値をシフトさせる研究で、本態的な温度センサーを同定し評価する研究とは言い難い。本論文で、筆者らは温度感受性を持たない電位依存性K+チャネルにTRPV1を移植することで温度感受性を持たせる、本態的な温度センサーを明らかにする大きな手掛かりとなる研究である。イオンチャネルが温度を感知するのは、脂質を含んだ分子全体を用いて感知しているのか?あるいは温度センサーのようなドメインがあり分子の局所で感知しているのか?という議論(Global vs Local)が近年繰り広げられている。本論文はイオンチャネルの分子センサー機構の理解に光明をもたらすものとなる。 

紹介論文:
Zhang F. et al.
Heat activation is intrinsic to the pore domain of TRPV1.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 ;115(2):E317-E324.

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