平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

褐色脂肪から分泌されるアディポカインとして新たに同定されたCXCL14は、M2マクロファージを介して褐色脂肪や白色脂肪を環境温度変化に適応させる

文献紹介者;新潟大学 大学院医歯学総合研究科 教授 神吉智丈

 褐色脂肪の主たる役割は、熱を産生し環境温度変化に対応することである。一方、褐色脂肪の活性が高いと、肥満やそれに伴う代謝異常に抵抗性になることが知られている。最近の研究から、褐色脂肪から幾つかの生理活性物質が分泌されており(白色脂肪から分泌されるものも含め、脂肪組織から分泌されるものはアディポサイトカインもしくはアディポカインと呼ばれている)、これらが環境温度変化への応答や肥満や高血糖を抑制する働きがあることが知られるようになってきた。しかしながら、褐色脂肪から分泌されるアディポカインの研究は始まったばかりであり、褐色脂肪の機能を深く理解するためには、さらなるアディポカインの同定と解析が必要である。
 褐色脂肪から分泌される新規アディポカインを同定するために、著者らはマイクロアレイとRNA-seqを併用し候補因子を選抜した。具体的には、マウスの褐色脂肪と白色脂肪のマイクロアレイの結果を比較し、褐色脂肪で転写が上昇している遺伝子を選抜し、さらにTargetPやSecretomePを使って分泌タンパク質をコードしているものに絞り込んだ。また、4℃と30℃で飼育したマウスの褐色脂肪のRNA-seqにより4℃で転写が誘導されている遺伝子の選抜し、さらにGeneOntlogyデータベースから細胞外に分泌されるタンパク質をコードするものに絞り込んだ。この二つのスクリーニングからCXCL14 (C-X-C motif chemokine ligand-14)とKNG1 (kinonogen-1)が共通して選抜された。ここではCXCL14に注目し、実際に低温飼育により褐色脂肪でCxcl14の転写が亢進し、CXCL14の分泌が増加することを確認した。
 Cxcl14ノックアウトマウスでは、インシュリン抵抗性が増強、褐色脂肪に脂肪滴が認められ白色脂肪様となる形態異常、褐色脂肪部位の表面体温の低下、M2マクロファージの褐色脂肪への局在減少など、褐色脂肪の機能低下が認められた[M2マクロファージは、褐色脂肪の活性化や白色脂肪のベージュ細胞化(白色脂肪が褐色脂肪の様にUCP1を高発現し熱産生能を持つようになること)に関わっている]。また、CXCL14投与は、M2マクロファージを褐色脂肪や白色脂肪に局在化させ、褐色脂肪の活性化や白色脂肪のベージュ細胞化を促進した。高脂肪食による肥満マウスでは、血中のCXCL14が低下しているが、CXCL14の投与することにより血糖値上昇やインシュリン抵抗性が改善することも示した。
 白色脂肪のベージュ細胞化には、IL-4やIL-13といったtype 2 cytokineやその下流にある転写因子Stat-6が関与していることが知られている。CXCL14による白色脂肪のベージュ細胞化にtype 2 cytokine signalingが関わるかどうかを調べるために、Stat-6のノックアウトマウスを用いて、CXCL14による白色脂肪のベージュ細胞化が起こるかどうかを観察したが、ベージュ細胞化は起こりにくくなっていた。このことから、CXCL14による白色脂肪のベージュ細胞化はtype 2 cytokine signalingを介していると考えられた。
こうした研究により、著者らは、低温環境により活性化した褐色脂肪は、CXCL14を分泌し、M2マクロファージを遊走させ、褐色脂肪の活性化や白色脂肪のベージュ細胞化を起こすことで環境温度変化に適応させていると結論付けた。

紹介論文:
Cereijo R. et al.
CXCL14, a Brown Adipokine that Mediates Brown-Fat-to-Macrophage Communication in Thermogenic Adaptation.
Cell Metab. 2018 Aug 10. pii: S1550-4131(18)30458-3. doi: 10.1016/j.cmet.2018.07.015.

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