平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

スモール熱ショックタンパク質Hsp27はオリゴマー形成部位と基質タンパク質Tauとの相互作用により機能が調節される

文献紹介者;東京農工大学 教授 養王田正文

 Small Heat Shock Protein (sHsp)は細胞内のプロテオスタシスにおいて重要な役割を担っている分子シャペロンである。温度上昇やストレスにより変性したタンパク質を捕捉して細胞内におけるタンパク質凝集体の形成を防いでいる。sHsp自体はATPase活性がなく、リフォールディングできないが、Hsp70などに受け渡すことでリフォールディングを促進する。Hsp27は哺乳類細胞に普遍的に存在するsHspであり、HspB1とも呼ばれ、神経変性疾患を含めた様々な疾病に関与している。しかし、その分子機構の解明は進んでいない。Freilichらは、Hsp27の基質として知られているTauタンパク質を用いて、Hsp27との相互作用部位を解析した。Hsp27は一般的なsHspと同様に保存されたalpha crystallin ドメイン(ACD)とN末端(NTD)及びC末端領域(CTD)から構成されている。CTDに存在するIXIモチーフ(VPI)がACDのβ4-β8 grooveに結合することでオリゴマー構造を形成する。NMRによる解析などで、基質であるTauもβ4-β8 grooveと相互作用することが明らかになった。Tauにおけるβ4-β8 groove相互作用部位は275VQIINK280と306VQIVYK311の2箇所であり、いずれもTauの凝集に重要な配列として知られており、IXIモチーフと類似の配列を有している。Hsp27のTauのアミロイド形成に対する効果を調べると、Hsp27はTauのアミロイド形成を遅延するが、ACD単独では効果を示さなかった。この結果から、Tauとβ4-β8 grooveとの相互作用ではHsp27の機能は説明できないことが分かった。また、NTD欠損体もTauのアミロイド形成に効果を示さないことから、NTDがシャペロンとしての機能に重要であることが示された。Hsp27のNTDには3つのリン酸化部位があり、リン酸化によりオリゴマーの解離が促進される。リン酸化されるSをDに変換したリン酸化模倣体では、Tauとの相互作用が増強し、アミロイド形成抑制効果も増強された。さらに、C末端のIPVをGPGに変換した変異体でも、Tauとの相互作用が増強された。また、β4-β8 grooveとIXIモチーフ及びTauとの結合はいずれも比較的弱いことがITCによる解析で示された。
 以上の結果から、次のようなモデルが提唱された。Hsp27はβ4-β8 grooveにCTDのIPVが結合することでオリゴマーを形成している。この結合は弱く、温度上昇やNTDのリン酸化により解離する。Tauが存在すると、β4-β8 groove に結合しているIPV配列とTauに存在する類似の配列が交換する。その結果、オリゴマーの解離が促進され、NTDが露出して、Tauと相互作用することでアミロイド形成を抑制する。基質タンパク質であるTauがIXIモチーフとβ4-β8 grooveの相互作用を干渉することでHsp27の機能が制御していることが明らかとなった。しかし、この制御機構がTauに特有なものなのか、他のタンパク質にも適用されるかは不明である。  

紹介論文:
R. Feeilich et al.
Competing protein-protein interaction regulate binding of Hsp27 to its client protein tau.
Nat Commn., 9:4563. 2018

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