平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

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温度生物学トピックス

蜘蛛毒(DkTx)によるTRPV1の活性化における細胞外突出領域の役割

文献紹介者;福井大学・医学部 講師 清水啓史

 TRPV1チャネルを活性化する物質にはカプサイシンやレシニフェラトキシンなどの小分子とペプチド毒であるムカデ、サソリ、ヘビ、およびクモの毒液から単離された分子があり、異なる分子作用メカニズムが予想される。
 本論文で、著者らはカプサイシンと蜘蛛毒であるダブルノットトキシン(DkTx)の2種類の分子に対するTRPV1応答に関与する構造因子、細胞外突出領域(タレットドメイン)の役割について検討した。トランスジェニックCaenorhabditis elegans発現TRPV1(rTRPV1)における電気生理学的記録(全細胞および単一チャネル)と行動分析とを組み合わせて分子レベルの挙動と個体の忌避行動の両方から解析を行った。DkTxがTRPV1をカプサイシンで誘起される1分子電流値より小さい電流が得られる状態(サブコンダクタンスレベル)にロックすることを示し、カプサイシンで引き起こされる忌避行動が生理的濃度範囲ではDkTxによって誘起されないことを示した。タレットドメインを切除したTRPV1を用いると、DkTxによって活性化された電流値はカプサイシンと同等となり、忌避行動も引き起こされることを示した。また、カプサイシンで引き起こされる開状態は不安定となり、開時間が短くなることを示し、不安定な開状態はDkTxによって安定化されることを示し、作用機構が異なることを示唆した。さらに、相同性の高い2つの領域がリンカーでつながった構造をしているDkTxのリンカー部分の長さを長くすることによって、電流値が大きくなることを示すとともに、DkTxとTRPV1複合体の立体構造モデルを用いてイオン透過路の立体構造について検討した。これらの結果から、著者らはタレットドメインがDkTxによるチャネルの開口を立体障害によって制限していると結論し、タレットドメインは活性化分子の種類によって異なる開閉ゲート調節に関与していると指摘している。
 ここで取り上げられた2種の分子が結合した状態での立体構造はすでに得られており、タレットドメインの一部はDkTxとの複合体の構造解析の際に切除されていた部分である。本論文ではこの部分の役割を、単一チャネル電流レベルから下流の忌避行動に至るまで調べて明らかにした。

紹介論文:
Geron M, et.al.
TRPV1 pore turret dictates distinct DkTx and capsaicin gating.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 https://doi.org/10.1073/pnas.1809662115

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