平成27年度~31年度 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型) 温度を基軸とした生命現象の統合的理解(温度生物学)

English

温度生物学トピックス

植物の光受容体であるフォトトロピンは、光活性化状態の継続時間を感知することで温度センサーとしての機能を発揮する

文献紹介者;京都大学iCeMS 助教 坂口怜子

 我々生き物は、外界の温度変化を、体内の温度感受性分子によって感じています。この機能を担う分子とメカニズムは生物種によって異なっており、この論文では、植物の温度感受を担うphototropinという分子の温度感知機構を解明して報告しています。
植物は動物と違って移動することができないため、常に光や温度などの環境の変化に晒され、この変化に反応して様々な応答を示します。一例として、細胞の中で光合成を行うオルガネラである葉緑体が、条件に応じて配置を変えることが知られています。葉緑体は強い光に晒されると光ダメージを避けるために光から逃避し細胞側面に集まり、一方、弱い光条件下では光合成を最大化するために、光に集合し細胞表面に集まります。この弱い光に晒されて集合反応を起こした葉緑体は、細胞が低温下におかれると光から逃避し、また細胞側面に集まることが知られており、これまでに青色光受容体であるphototropinが温度感知にも関わっていることが報告されていました。そこでこの研究では、ゼニゴケを使ってphototropinの温度感受機構の詳細な評価を行いました。
 Phototropinは2つのlight/oxygen/voltage (LOV)ドメインLOV1、LOV2とキナーゼドメインを持っており、LOVドメインは、青色光の照射によりフラビンモノヌクレオチド(FMN)と共有結合することで不活化状態から活性化状態へ、可逆的に変化します。この状態変化と温度感受性に関連があるか調べるため、FMNとの結合能をなくした変異体を用いて実験したところ、LOV1ドメインの変異体では、変化がありませんでしたが、LOV2ドメインの変異体では、低温依存的な葉緑体の配置変化が起こらなくなったことから、phototropinの中でもLOV2ドメインが温度変化を感知していることが示唆されました。この配置変化は赤色の光では起きませんでした。
 LOV2が活性化状態の場合、キナーゼドメインによって自己リン酸化が起きることから、自己リン酸化の度合いはLOV2ドメインの活性状態を反映していると言えます。光と温度依存的な自己リン酸化の度合いを評価したところ、低温下では、22℃と比較して自己リン酸化が顕著に起こっていることが示されました。また、LOV2ドメインの不活化までの時間が22℃では30秒程度であるのに対し、5℃では100秒程度と長くなることが分かりました。LOV2ドメインの不活化までの時間が長いと、キナーゼドメインの活性も持続し、自己リン酸化の度合いが高まることから、強い光に晒されてLOV2ドメインが活性化する時と同様に、葉緑体の退避反応につながると考えられます。さらに、寒冷下で正常な退避反応を起こすWTは、phototropin KO株より光合成の効率が高いことが示されました。
 これらの結果からphototropinは青色の光と温度の両方を感知し、この情報を元に最適な光合成効率のために葉緑体の配置を決定していることが示唆されました。多数の光受容体の発色団が温度依存的な寿命を示すことが知られていることから、他の生物種でも同様のメカニズムが存在する可能性が考えられます。

紹介論文:
Fujii et al.,
Phototropin perceives temperature based on the lifetime of its photoactivated state.
PNAS, 114, 9206-9211. 2017

ページトップ