霊長類モデル

  精神・神経疾患の発症の仕組みを明らかにし、新しい治療・予防法の開発につなげていくためには、ヒトに近いモデル動物を用いた研究が必要不可欠であると考えられています。

  我が国は、世界に先駆けて遺伝子改変霊長類の開発に成功しており、この技術を広く普及させることにより、国内の疾患研究・創薬開発の研究が促進されることが期待されています。

  本研究開発プロジェクトでは、基盤となる遺伝子改変等による精神・神経疾患モデルマーモセットについて、国内研究者への供給体制の確立と、そのために必要となる技術等の高度化・効率化のための研究開発を行い、低コストでの供給・普及を目指します。

  そのため、中核となる代表機関と参画機関で構成された研究開発拠点を形成し、霊長類モデル動物の創出・普及体制の整備を推進します。また本研究開発プロジェクトの成果は、脳科学・創薬開発以外の研究分野に対しても貢献するものと考えます。

  なお、本課題については、社会との調和に配慮しつつ、適切に研究を推進していくとともに、動物実験の実施に当たっては、動物福祉の精神に則り、関係法令・指針等や機関内規程等を遵守して行うこととします。

具体的なミッション

  言語・思考・記憶・行為・ 学習などの脳の高次機能は、ヒトがヒトらしく生きていく上で重要な機能で、失われたり、損傷したりすると精神・神経疾患となってしまいます。脳の高次機能がどのようなメカニズムで成り立っているのかを明らかにすることは、精神・神経疾患の治療法開発にもつながります。このような脳研究にはマウスを使った研究では不十分なため、霊長類のモデル動物が必要となります。コモンマーモセットは、導入した遺伝子を次世代まで伝えることが可能な遺伝子改変動物を創出できる、小型霊長類の実験動物です。

  本研究開発プロジェクトでは、脳科学研究に有用な遺伝子改変マーモセットを創出するための新技術の開発、遺伝子改変マーモセットの有用性の実証、解析を容易にするための研究基盤整備、遺伝子改変マーモセットを広く普及するための体制作りを行い、より多くの研究者が遺伝子改変マーモセットを使った研究を行うことができるような基盤を作ります。

研究体制

代表機関

実験動物中央研究所 応用発生学研究センター センター長
佐々木 えりか(拠点長)

「遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用」

  本研究課題では、日本発の技術である遺伝子改変マーモセットを多くの脳科学研究者に使用して研究できるような基盤と普及体制の確立を目指します。具体的には、非侵襲的発生工学技術、標的遺伝子のノックイン技術、受精卵クローン技術の確立を行い、遺伝子改変マーモセットモデル動物の有用性の実証、マーモセットゲノム情報の整備、薬剤代謝に重要なシトクロームP450の網羅的解析を行い、マーモセットを用いた分子生物学的研究基盤を整備いたします。本研究課題は、公益財団法人実験動物中央研究所を代表機関とし、慶應義塾大学、自然科学研究機構、広島大学、昭和薬科大学が参加し分子神経生物学、発生工学、ゲノム科学、薬学などの異分野連携による拠点を形成します。
  そこで、実中研では、非侵襲的発生工学技術、標的遺伝子のノックイン技術の確立を中心とした技術開発を行います。また、新たにマーモセットを用いた研究を開始したい研究者に対して、研究開始のサポートを行い、マーモセットのモデルとしての有用性を開発しつつ普及を目指します。

参画機関

慶應義塾大学 医学部 生理学教室 教授
岡野 栄之

「キメラ形成能を持つマーモセットES細胞を用いた新たな遺伝子改変技術の開発とマーモセットゲノム情報基盤の確立」

  マーモセットにおける新しい遺伝子改変技術として、ES細胞を用いたノックイン/ノックアウト・マーモセット作出技術の確立を目指します。また、既に開発した変異型のα-synuclein、TDP43を発現するトランスジェニックマーモセットについて、それぞれパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症のモデル動物としての有用性を、脳画像解析等を通じて検証します。更に、遺伝子改変を含む幅広いマーモセット研究の資源として、充実したゲノム情報基盤の整備を行います。

自然科学研究機構 基礎生物学研究所 光脳回路研究部門 教授
松崎 政紀

「脳科学研究に有用性の高い遺伝子改変マーモセットの創出」

  Tet-On・Tet-Offシステムは任意の導入遺伝子を増幅することが可能で、神経疾患原因遺伝子の導入を過剰発現した疾患モデルに応用可能です。  そこで、本研究では、Tet-On・Tet-Off遺伝子改変マーモセットを用いて、チャネルロドプシン等の発現量を大幅に増幅可能であることを実証するとともに、本マーモセットのライン化を行い、脳科学研究者への普及を加速します。

昭和薬科大学 薬学部 薬物動態学研究室 教授
山崎 浩史

「マーモセットシトクロムP450の網羅的解析」

  小型霊長類のマーモセットは創薬研究において少量の医薬候補品で有効性・安全性試験が行えるメリットがあります。しかし薬物のマーモセット生体内運命に影響を及ぼす薬物代謝酵素であるシトクロムP450には不明な点が残されています。そこでP450遺伝子群の解析を行い、マーモセットとヒトの薬物代謝の相違を明らかにします。さらに有用な代謝特性を持つ動物のコロニーを他技術と連携の上確立し、創薬研究におけるマーモセットの需要を高めます。

広島大学 自然科学研究支援開発センター 教授
外丸 祐介

「遺伝子改変マーモセットの効率的生産に向けた生殖工学技術の整備・開発」

  マーモセットはヒト疾患モデルとして極めて有用な実験動物ですが、マウス・ラットのように高度な系統化を進めることが難しいため、実験データの詳細な比較ができない場合があります。我々はこの欠点を克服すべく、受精卵/体細胞クローンや受精卵分離といった遺伝的に均一な個体作製に有効な技術の構築を目指します。また同時に、この基盤となる生殖工学技術の高度化をはかることで研究に有用なマーモセット生産の効率化を進め、実験動物としての普及促進に取り組みます。
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