イベント情報

 脳プロ公開シンポジウム in KYOTO 
をささえるのはたらき

 日 時 : 2012年9月8日(土)  10:00-18:00
 場 所 : 烏丸コンベンションホール カラスマプラザ21 8階
              (京都府京都市中京区烏丸通 六角下る七観音町634)
 主 催 : 文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」
 
 ※プログラム付き抄録集はこちら
(5.79MB,PDF形式)
 ※アンケート結果はこちら(1.00MB,PDF形式)
 ※シンポジウム報告書はこちら(3.65MB,PDF形式)
   


▼開催趣旨

    文部科学省では、『社会に貢献する脳科学』の実現を目指し、社会への応用を明確に見据えた脳科学研究を戦略的に推進するため、脳科学委員会における議論を踏まえ、重点的に推進すべき政策課題を設定し、その課題解決に向けて、「脳科学研究戦略推進プログラム」(「脳プロ」)を平成20年度より開始しています。
 
    脳プロでは、本事業による研究成果や活動について、
講演や体験展示を通じて、広く一般の皆様にご理解を深めていただくとともに、多くの幅広いご意見、ご要望をいただくことを目的として、 毎年、公開シンポジウムを開催しております。関西では、今回で2回目の開催となりました。



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▼開会のご挨拶・基調講演 (13:30-13:50)
    脳科学研究戦略推進プログラムの津本忠治プログラムディレクターよりご挨拶を申し上げ、引き続き、基調講演を行いました。


  「現代社会における精神疾患研究の重要性」

    津 本 忠 治
    理化学研究所脳科学総合研究センター
    シニアチームリーダー・副センター長
    脳科学研究戦略推進プログラム
    課題D・E・F・脳基盤プログラムディレクター


    超高齢化、高度情報化の進む現代社会では、認知症、うつ病などの気分障害、心的外傷後ストレス障害、依存症など広い意味での精神疾患が激増しているといいます。また、統合失調症も依然として多くの若者を蝕んでいます。これら精神疾患の特徴は、薬代や入院費などの直接的な負担もさりながら、長期にわたる介護や休業など本人や家族などの持続的かつ膨大な負担が存在する点です。これらの財政的な負担は、社会全体としても莫大なものとなっていることが、ヨーロッパなどから具体的数字とともに報告されています。

    一方、医学的あるいは神経科学的には、最近のヒト脳イメージング技術の目覚ましい発展や遺伝学的手法の進展・普及によって、ヒトの脳機能の仕組みや脳神経疾患の遺伝子情報がかなり明らかになり始めています。最近目覚ましく発展した技術や手法を上記の精神疾患研究に適用すれば、その病因の解明、早期診断や治療法、更には予防法の開発に何らかの形で結び付くことが期待できます。
    本講演では、これら精神疾患に対する研究の発展への期待と、それによって患者や家族、更には社会の負担をも軽減し得る可能性についてお話ししました。
 





▼講演1 (13:50-14:15)

 「人生の各ステージに発症する
   うつ病の発症脆弱性とその診断・治療」



    三 國 雅 彦
    群馬大学大学院医学系研究科
    神経精神医学分野 教授


    児童・思春期から中高年期までの人生の各ステージでのうつ病は共通して、胎生期~思春期までの間に様々なストレスにさらされて形成されるストレス脆弱性と、周囲の人との絆で形成される復元力とのバランスの中で、ストレスとなるライフイベントが誘因となって発症することが多いと考えられています。したがって、家庭・地域での子供たちの心のケア対応が必須であることは論を待ちません。
    一方、各ステージに特徴的なことも認められます。児童・思春期と青年期のうつ病では家族・親族内に遺伝的要因を有することが多く、躁病相の出現率が高く、男女での発症に性差はありません。しかし、この遺伝的要因についても、養育環境との相互作用で、脆弱性や復元性が決まってくる
可能性も報告されています。
    また、中高年うつ病は生活習慣病のリスク、閉経や微細な脳虚血と関連する脆弱性を有していることが多く、躁病相の出現はまれであり、女性に多いことが知られています。2010年の統計では、日本人男性の平均寿命が79.6歳、健康寿命は70.4歳です。種々の疾病罹患、その疾病に加えてうつ病の併発などによる寝たきりなどの状態の期間が9年あるため、経済的負担も大きく、この健康寿命の延長には中高年の心のケアが必須です。
    本講演では、自殺リスクの高い疾患と言われるうつ病が、人生の各ステージでの特徴に合わせた薬物療法と精神療法・心理社会的支援を実施することで治療可能な疾患と考えられており、そのため、適切な治療法の研究・開発が求められていることについてお話ししました。
 






▼講演2 (14:25-14:50)

 「ヒトはなぜ落ち込むのか?
   脳科学からのアプローチ」



    山 脇 成 人
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院
    精神神経医科学 教授


    ストレス社会において急増しているうつ病は、自殺や長期休職の主要因となっており、脳科学を駆使した病態解明とそれに基づく客観的診断と治療法の開発が望まれています。
    うつ病は落ち込み(抑うつ気分)、無気力(興味・喜びの喪失)などの精神症状と、不眠、食欲低下などの身体症状を呈します。うつ病の病態には、セロトニン、ドパミンなどの神経伝達物質や、コルチゾールなどのストレスホルモン分泌異常が関与することが知られていますが、最近ではこれらの神経回路維持に重要な役割を果たす脳由来神経栄養因子(BDNF)の異常が注目されています。うつ病の発症には遺伝的要因だけでなく、幼少時の養育環境が密接に関与するという報告が
あり、
遺伝-環境相互作用により形成されるストレス脆弱性関与することも報告されています。
    うつ病の病態解明には、物質レベルの異常だけでなく、脳のどの神経回路における異常かを複合的にひも解いていく必要があります。落ち込みは情動を制御する神経回路の異常が、無気力は報酬系を制御する神経回路の異常が関与することが想定され、最近の機能的磁気共鳴画像(機能的MRI)を用いた脳機能画像解析により、うつ病の症状に関連する神経回路ネットワークの異常が解明されつつあります。
    本講演では、うつ病の病態に関する最新の脳科学研究の成果を分かりやすく解説するとともに、脳プロで計画されているうつ病研究についてご紹介しました。
 
 






▼講演3 (14:50-15:15)

 「『私たち』の脳科学
   2個人同時計測MRI研究」



    定 藤 規 弘
    自然科学研究機構生理学研究所
    大脳皮質機能研究系 教授


    「私たち」がどのようにコニュニケーションを取りつつ人間の仲間入りを果たすのか、という問いは、急激な少子化、学級崩壊、引きこもり多発などから、大きな社会的関心を集めています。従来、様々な社会的行動特性は、子供の発達過程を観察することによって得られてきました。それらがどのような神経メカニズムを持つのかということは、機能的磁気共鳴画像(機能的MRI)による非侵襲的脳機能画像を用いた研究の展開によって明らかになりつつあります。しかしそれらの研究の多くは、個人が単独で特定の課題を行っている時の活動を計測するものであり(I-mode)、コミュニケーションの特徴である「双方向性」(We-mode)の神経活動を計測するものはありませんでした。     生理学研究所では、2台のMRIを用いて、コミュニケーションをとっている2名の神経活動を同時に計測することに成功しました。これによって、対面する「私たち」は目でつながっていること、「私たち」は注意を共有することからコミュニケーションを始めること、そしてその時の「私たち」の脳活動は、アイコンタクトで同期し、共同作業を通じてその同期は強まることが分かりました。一方、他人とのつながりが弱いという特徴をもつ自閉症の方では、脳活動の同期が下がっていることが分かりました。
    本講演では、これまでの1名を対象とする機能的MRIでは分からなかった、「私たち」の脳科学 ( We-mode neuroscience ) についてお話ししました。

 






▼講演4 (15:25-15:50)

 「統合失調症の新しい治療と予防をめざして」


    西 川 徹
    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
    精神行動医科学分野 教授


    統合失調症は、思春期以降の人生早期に約0.8%の高率で発症します。治療困難な症状によって慢性化することが多いため、患者個人と社会に与える損失が極めて大きく、病気のメカニズムの理解を深め、より優れた治療法を見いだすことが急がれています。
    統合失調症では、主な症状として、幻覚・妄想を中心とした陽性症状や、感情・意欲・行動等の調和が障害される陰性症状が現れます。現在の治療薬は、陽性症状を改善しますが、陰性症状にはほとんど効果がありません。脳研究の進歩とともに、前者にドーパミンという分子の機能の亢進が、また、双方にグルタミン酸という分子の機能の低下が、密接に関わることが分かってきま
した。
    そこで、難治性の症状に対して、グルタミン酸の機能を調節する物質の効果が注目され、臨床試験が行われるようになり、有効性が報告されています。このうちD-セリンは、D型アミノ酸であるために哺乳動物の体には存在しないと信じられてきました。しかし、私たちの研究から、ヒトの脳にも多く含まれることが明らかになり、統合失調症のメカニズムや治療法を探る新たな手掛かりとして重視され、研究が進展しています。
    本講演では、以上の内容についてお話しし、さらに、統合失調症の発症・再発や重症化(進行)を防ぐ方法を見いだすことを目指して進めている、思春期から発症が始まる仕組みに関係する分子の研究についてもご紹介しました。
 
 






▼公開質疑応答 (15:55-16:25)
ファシリテーター:
脳科学研究戦略推進プログラム 課題Dプログラムオフィサー 吉田 明





▼閉会の辞 (16:25-16:30)
    脳科学研究戦略推進プログラムの三品昌美プログラムディレクターより閉会の辞を申し上げ、本ワークショップを終了させていただきました。



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当日は、218名の方々にご来場いただきました、誠にありがとうございました。

 




▼体験展示 (午前の部 10:00-13:00、午後の部 16:30-18:00)

課題C

課題D

 

  小型霊長類コモンマーモセットの
  MRニューロイメージング (慶應・岡野グループ)
    社会性と脳発達の関係を細胞・分子レベルで調べる
    (東大・狩野グループ)

課題D

課題D

 

  遺伝子から見る精神疾患
  (理研・吉川グループ)
    社会的に隔離された環境が脳に与える影響の
    分子細胞メカニズム (横浜市大・高橋グループ)

課題E

課題E

 

 環境ストレスと子供の脳発達
 (理研・下郡グループ)
      生きた脳の中を動く神経細胞を光らせて、
      脳が形成されるしくみを探る (慶應・仲嶋グループ)

課題E

課題F

 

  遺伝子改変マウスを用いた精神疾患の病態解明と
  治療法の開発 (東京医科歯科・田中グループ)
    オキシトシンによる知的障害を伴う自閉症の
    治療試験研究へ (金沢大・東田グループ)

課題F

 

課題F

 

 てんかんを伴う自閉症関連遺伝子の同定と解析
 (理研・山川グループ)
     血液検査でうつ病が分かる?若年発症うつ病の病態
     メカニズム (山口大・山形グループ)


    今回のシンポジウムでは、精神疾患の予防・治療につながる基礎研究について理解を深めていただくことを目的に、課題D、E、Fの参画研究者より、最新の脳科学研究の成果、今後の展望についてご紹介いたしました。

    また前回と同様、講演ではご紹介しきれない脳プロの研究の一部を紹介する展示も実施いたしました。専門的な内容の多い基礎研究についても、来場者の方と研究者が直接顔を合わせて対話することで、研究の詳細から疾患治療への発展性まで、詳しくご説明させていただくことができました。

    今回も、多くのお申し込み、お問い合わせをいただき、精神疾患への関心の高さを感じました。当日、ご参加いただきました皆様からのアンケート結果も参考とさせていただき、より分かりやすく、より充実したシンポジウムを目指してまいります。今後も積極的に情報発信に努めていきますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(大塩、今津、市原)

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