課題C

具体的なミッション

(平成25年3月に終了いたしました)

  脳の働きや精神神経疾患の病態を解明するには、ヒトで観察される高次脳機能を実験的に検証できる個体レベルの動物実験が必須です。

  その際、従来行われてきた動物実験を高度化するためには、特定部位への遺伝子導入や遺伝子改変の技術開発に加え、実験動物の高い品質を維持管理する技術等の開発が必要となります。

  このような脳機能のモデルとなりうる有用な実験動物の開発は、脳科学研究の基盤として不可欠です。
これまでにも、マウスやラット等の齧歯類を用いた開発が行われ、脳科学研究の進展に大きく貢献してきましたが、ヒトと齧歯類では、免疫機能及び神経系の構造や機能において異なる点も多いため、ヒトの高次脳機能や精神神経疾患の病態等を解明するには、齧歯類だけではなく、遺伝的にヒトに近縁である研究用霊長類を用いた開発が必要です。

  このため、中核となる代表機関と参画機関で構成された研究開発拠点を形成し、遺伝子導入技術や発生工学的研究手法等を開発し、ヒトの脳機能研究や精神神経疾患研究等に重要となる以下の研究項目等により、研究用ニホンザル及び研究用マーモセットを用いた独創性の高いモデル動物の開発等を推進します。

・研究用ニホンザルを用いたウイルスベクター等による中枢神経系へのin vivo遺伝子導入技術等を開発し、特定の神経細胞及び神経回路の選択的操作や、分子マーカー発現及びRNAiの可逆的制御等による革新的な高次脳機能研究への展開に有用な霊長類モデル動物を作製する研究
・研究用マーモセットを用いた発生工学的研究手法(トランスジェニック法、ノックアウト法、ノックイン法)、細胞内RNAの制御技術、エピジェネティクス制御技術等を開発し、脳機能研究や精神神経疾患研究に有用な霊長類モデル動物を作製する研究
・ニホンザル及びマーモセットにおける生理学的、分子生物学的解析に必要となる基盤的データの収集
・ヒトの高次脳機能のメカニズムや、その脳機能異常の解明に資する高次脳機能研究への展開に有用な霊長類モデル動物の開発に向けた、1)高生産効率で確実な霊長類に対するウィルスベクターの作製法の確立、2)霊長類を用いたウィルスベクターによる中枢神経系への細胞・神経回路選択的遺伝子導入技術の開発、高度化や、その遺伝子発現パターン等の解析

  なお、本課題については、社会との調和に配慮しつつ、適切に研究を推進していくとともに、動物実験の実施に当たっては、動物愛護の精神に則り、関係法令・指針等や機関内規程等を遵守して行うこととします。

  さらに、研究開発拠点の代表機関においては、PD及びPO等と連携し、各研究開発拠点及び各個別研究課題における情報を共有化し、本プログラム全体の研究進捗状況の管理等を行う事務局機能を担うとともに、研究成果を積極的に社会に発信するに留まらず、脳科学研究と社会との関係を意識した普及・啓発活動や、科学コミュニケーションに関する活動も担うこととします。

代表機関

自然科学研究機構 生理学研究所
総合研究大学院大学生命科学研究科 生理科学専攻 教授

伊佐 正 ( 拠点長 )

「霊長類(マーモセット、ニホンザル)の脳への遺伝子導入法による生理学的機能解析システム構築」

  課題C「独創性の高いモデル動物の開発」では、霊長類の脳への遺伝子導入及び霊長類個体での遺伝子改変技術を用いて脳科学研究に有用なモデル動物の開発を行います。脳機能の分子的基盤に関する研究はマウスを用いて爆発的な発展を遂げてきましたが、それとともに何がマウスで可能で、何がマウスでは解析が困難なのかが次第に明らかになってきました。特に大脳皮質や大脳基底核などの終脳が関与する高次脳機能についてはマウスでは限界があります。また大脳基底核の疾患モデルなどではマウスではヒトのような症状が観察されない例も多くみられます。また近年マウスの脳では発現せず、霊長類の脳に特異的に発現する遺伝子も数多く見出されつつあります。このような「霊長類を用いないとできない」重要な研究について有用な霊長類モデルを開発することは、将来を見据えて今まさしく取りかかるべき研究課題であると考えます。

  本研究課題では、日本発となるコモンマーモセットにおけるトランススジェニック動物の作製技術を用いて脳研究に有用なラインの確立及び病態モデル動物の作成、そしてニホンザルにおいてウィルスベクターを用いて脳神経系での遺伝子発現を操作することによって「高次脳機能とその障害」の分子機構を明らかにする研究パラダイムの構築を目指します。そのため、自然科学研究機構を代表機関とし、京都大学霊長類研究所、慶應義塾大学、実験動物中央研究所、国立精神・神経センター、東京都神経科学総合研究所、日本医科大学、広島大学、福島県立医科大学が参加し、システム神経科学、分子神経生物学、発生工学、ウィルス学などの異分野連携による拠点を形成します。

参画機関

京都大学霊長類研究所 分子生理研究部門 統合脳システム分野 准教授
大石 高生

「遺伝子改変霊長類モデルの開発と高次脳機能の解析」

  ウイルスベクターを用いて部位特異的かつ時間特異的にターゲット遺伝子を導入した霊長類モデルの作出と高次脳機能の解明を目指しています。具体的には、(1)霊長類脳への遺伝子導入に適したウイルスベクターとそれらを利用した脳機能解析のための基盤技術の開発、(2)逆行性感染型レンチウイルスベクターを用いた神経路選択的遺伝子操作による大脳ネットワークの情報処理機構と機能的役割の解明、(3)疾患モデル動物を対象とした認知機能検査バッテリーの開発、などを推進しています。

慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授
岡野 栄之


「遺伝子改変コモンマーモセットによるヒト神経疾患モデルの開発」

  霊長類のヒト神経疾患モデルを用いた研究が現実となれば、齧歯類モデルでは得られなかったより人間の病態に近い情報を得ることが可能です。我々は独自に開発したトランスジェニックマーモセット作成技術を総動員して、ドミナント・トランスジーンの導入によるパーキンソン病およびALSモデル動物の作出を目指します。また、7テスラMRIを用いてコモンマーモセットの神経系の解剖学的構造について詳細な基礎データを収集し、画像データベースを構築します。

自治医科大学 分子病態治療研究センター センター長
遺伝子治療研究部 教授

小澤 敬也

「アデノ随伴ウイルスベクターを用いた脳機能の制御技術の開発」

  霊長類モデル動物の作出には、遺伝子導入法の応用が有用と考えられ、神経細胞に適したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた検討を行います。AAVベクターの構築を検討し、次に、siRNA発現AAVベクターを用いて脳の特定部位での遺伝子発現の抑制を試みます。本チームがAAVベクターを作製し、中核機関が霊長類の脳への遺伝子導入を行います。その他、脳内遺伝子発現を経時的にPET計測する技術を確立します。

実験動物中央研究所 応用発生学研究部 部長
佐々木 えりか

「コモンマーモセットの遺伝子改変技術の基盤整備」

  コモンマーモセットは小型で、非常に扱いやすく、繁殖効率が非常に高い霊長類です。遺伝子改変マウスは、遺伝子の機能解析、病気の発症メカニズムと治療法の研究に貢献していますが、ヒトとマウスでは生理学的、解剖学的に異なる点が多く、よりヒトに近い疾患モデル動物が必要とされています。そこでコモンマーモセットを用いた遺伝子改変によるヒト疾患モデル動物の作出を目指し、今後高齢者化社会によって増加すると言われているパーキンソン病、アルツハイマー病などの治療法の開発に貢献したいと考えています。

広島大学自然科学研究支援開発センター 生命科学実験部門 動物実験部(霞動物実験施設) 教授
外丸 祐介

「コモンマーモセットの遺伝子改変技術の基盤整備(ES/体細胞クローン技術の応用)」

  マーモセットは精神・神経疾患や脳機能の研究に極めて有用な実験動物であり、マウスのような遺伝子組換え技術が応用できれば更にその有用性は高まります。しかし、現状では、マーモセットでは生殖器官へ寄与可能なES細胞は存在しないため、その作製の自由度は非常に低い。そこで、核移植によるクローン技術を応用し、遺伝子組換え操作したES/体細胞からの個体作製を検討することで、自由度の高い遺伝子組換えマーモセット作成手段の構築を目指します。

福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所 生体機能研究部門 教授
小林 和人

「新規レンチウイルスベクターの開発と細胞標的法への応用」

  本研究プロジェクトでは、げっ歯類の遺伝子改変技術であるイムノトキシン細胞標的法や逆行性輸送レンチウイルスベクターの技術を発展させ、神経回路を構成する特定ニューロンタイプの機能を制御するとともに、これらのニューロンタイプで発現する遺伝子の機能を制御するための新しい技術を開発し、サル脳機能の研究に応用します。脳機能の研究においては、大脳皮質と基底核を連関する神経回路に基づく高次機能およびその病態機構の解明に取り組みます。
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