BMI技術

  BMIとはブレイン・マシン・インターフェースの略称です。脳情報を利用することで、脳(ブレイン)と機械(マシン)を直接つなぐ技術(インターフェース)のことです。

  我が国が得意とする低侵襲・非侵襲のBMI技術を活用したロボットアームや歩行用アシスト等と連動させる機能代替・補助・補完技術、リハビリテーション技術及び精神・神経疾患の新規治療法を医工連携等により開発することで、自立支援や精神・神経疾患等の克服を目指す研究開発を実施します。

  また、ヒトを対象とする研究については、世界医師会「ヘルシンキ宣言」(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則)や関係指針等に加え、機関内規程や学会の指針等を遵守して行うとともに、動物を対象とする研究については、動物福祉の精神に則り、関係法令・指針等や機関内規程等を遵守して行うこととします。

具体的なミッション

「身体機能代替グループ」
  脳表面電極により正確な脳波を計測し、これを精緻に信号解読して運動・コミュニケーションを支援する高性能の体内埋込型BMI装置を開発し、これを用いた臨床研究を実施します。大阪大学、自然科学研究機構、情報通信研究機構、電気通信大学との緊密な連携により、このミッションを達成します。

「脳・身体機能回復促進グループ」
  脳のシステム論的理解の下に、有効な治療法が確立していない脳卒中後重度片麻痺の回復に向けた革新的BMIリハビリテーション治療技術の開発と臨床応用を目指します。具体的には多関節複合運動である上肢リーチ運動と歩行の回復に向け、慶應義塾大学(研究統括と臨床フィールドの構築)、(株)国際電気通信基礎技術研究所(上下肢外骨格ロボットの開発と制御)、国立精神・神経医療研究センター(脳可塑性の多次元視覚化)、東京工業大学(デコーディング技術の開発と制御)、の4機関が一体となり研究を進めます。

「精神・神経疾患等治療グループ」
  脳の活動パターンを、数理統計技術を利用して効率的に変容する方法(デコーディッドニューロフィードバック:DecNef法)の原理を解明・改善し、複数施設のデータに基づく、複数の精神疾患のバイオマーカーを開発します。さらにそれら複数のバイオマーカーを統合した多次元的な評価方法による薬効の定量化と、それに基づくニューロフィードバック治療法の開発を目指します。また、臨床の場でうつ病などの治療に用いられている、磁気により非侵襲的に脳を刺激する方法である反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の作用機序について、ヒトと脳の構造が類似している霊長類を用いて、rTMSによる神経細胞の発火や神経伝達物質量の変化を測量することにより rTMSの効果を解読し、安全で有効な脳機能操作法の確立を目指します。

研究体制

拠点長

慶應義塾大学 大学院医学研究科リハビリテーション医学教室 教授
里宇 明元(拠点長)

「BMI技術を用いた自立支援、精神・神経疾患等の克服に向けた研究開発」
 
  「BMI技術」課題の使命・目的は、「BMI技術を用いて、身体機能の回復・代替・補完や精神・神経疾患の革新的な予防・診断・治療法につながる研究を行う」ことにあります。この目的を達成するために、拠点を構成する3つのグループで、18研究機関の研究者が、「グループ間、脳プロ課題間の連携による相乗効果の発揮」、「世界最先端の科学的知見と国民の目に見える成果の発信」を目標に研究開発に邁進しています。

身体機能代替グループ 参画機関

代表機関

大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経外科学 教授
吉峰 俊樹(グループリーダー)

「BMIを用いた運動・コミュニケーション機能の代替」

  大阪大学は低侵襲BMIの研究開発を行います。てんかん患者等を対象とした臨床研究で非拘束・長時間・広範囲の皮質脳波計測を行い、そこから得られる大量のデータ(ビッグデータ)からの効率的な情報抽出法の開発と、脳信号解読の精緻化により、思い通りの運動・コミュニケーション機能の代替を目指します。また128chワイヤレス体内埋込装置の実用化開発を行い、臨床研究での利用を目指します。さらにリアルタイム脳磁計測を用いて低侵襲BMIの治療適応を非侵襲的に評価する手法を開発します。

分担機関

自然科学研究機構 生理学研究所 認知行動発達機構研究部門 准教授
西村 幸男

「BMIによる運動・感覚の双方向性機能再建」

  脳梗塞あるいは脊髄損傷などにより運動機能だけでなく、体性感覚機能も同様に消失します。本研究では、神経損傷の四肢の運動麻痺と感覚麻痺を同時に機能再建することを目指します。その方法を確立するに当たって、低侵襲なECoG電極を通じて大脳皮質への電気刺激による運動・体性感覚機能の補綴・増強法を開発し、臨床現場で安全で利用可能な機能代替方法を動物モデルを用いて検証し、科学的かつ安全性に関する基礎的知見を与えます。

分担機関

情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員
鈴木 隆文

「BMI多点計測システム及びデコーディング技術の開発と応用」

  皮質脳波(脳の表面で直接計測する脳波)を利用したBMIの臨床応用を図るために、埋込み可能なBMIシステムの製品化に向けた安全性や有効性の評価を行います。さらに次世代BMI基盤技術の開発として、神経電極、信号処理LSI、無線通信、大規模データデコーディングなどの研究開発を実施します。こうした課題を大阪大学、電気通信大学、自然科学研究機構、ATR、玉川大学などの研究機関と連携して遂行します。

分担機関

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 知能機械工学専攻 教授
横井 浩史

「BMI制御のためのインテリジェント電動補助装置の開発」

  脳卒中やALSなどの重度の麻痺患者の方の生活を支援するために、脳活動から直接的に機械を操作できるBMIで動かせるロボット義手やパワーアシストスーツを開発します。人が物を持つときは形によって自然に持ち方を変えるように、自動的に指や腕の姿勢が変わるような「賢い」ロボット義手の実現を目指します。また、BMIで機械を上手にコントロールするためのトレーニング法を考案し、BMIで動作するパワーアシストスーツで効果を検証しながら開発を進めます。

脳・身体機能回復促進グループ 参画機関

代表機関

 慶應義塾大学 大学院医学研究科リハビリテーション医学教室 教授
里宇 明元(グループリーダー)

「脳のシステム論的理解に基づく革新的BMIリハビリテーション機器・手法の開発と臨床応用~脳卒中片麻痺を中心として~」

  BMI技術による上下肢多関節複合運動障害の回復を目的として、脳卒中片麻痺例を対象に治療効果を検証するための臨床フィールドを構築し、東京工業大学及び国際電気通信基礎技術研究所が開発するデコーディング技術とロボティクス技術を統合して臨床研究を実施します。また、BMIリハビリテーション前後で臨床評価と電気生理学的検査を実施し、国立精神・神経医療研究センターが提供する多次元脳イメージングと併用することで、介入効果に関する医学的エビデンスを明らかにします。

分担機関

 (株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 脳情報研究所 ブレインロボットインタフェース研究室 室長
森本 淳

「BMIリハビリテーションのための上肢・下肢外骨格ロボットの開発と制御」

  上肢および下肢の運動をアシストするための外骨格ロボットを開発します。独自設計の駆動システムにもとづく安全でしなやかな制御を実現することで、上下肢多関節運動の再建を目指したBMIリハビリテーションに貢献します。上肢外骨格ロボットにおいては、肩動作アシストに注目したハードウェアデザインを実現し、下肢外骨格ロボットにおいては、歩行時のバランスを考慮した制御を行うことで歩行再建リハビリの実施をサポートします。

分担機関

国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター 先進脳画像研究部 部長
花川 隆

「脳卒中のBMIリハビリテーションを支える神経可塑性の多次元可視化」

  ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI) は、脳卒中により失われた機能を再建するリハビリテーションの手法として期待されています。BMIリハビリテーションが誘導する脳の変化を構造と機能の両面から理解することで、BMIリハビリテーションの理論の形成と神経科学における疑問の解決に貢献しつつ、客観的指標を利用したBMIリハビリテーション効果の予測システム開発を通じて、BMI関連技術の医療産業化に繋がるような基礎研究を行うことを目指します。

分担機関

 東京工業大学 ソリューション研究機構 教授
小池 康晴

「筋骨格モデルを用いたデコーディング手法の開発」

  脳卒中片麻痺による上肢や下肢の障害を克服するために、脳活動から運動に関連するバイオマーカーを検出するデコーディング手法の開発を目指しています。リハビリテーションに応用できるように、非侵襲の脳活動によるリアルタイムデコーディング手法の開発と推定された情報を基にロボットを制御し、リハビリテーションに応用することを目的としています。

精神・神経疾患等治療グループ 参画機関

代表機関

 (株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 脳情報通信総合研究所 所長・ATRフェロー
川人 光男(グループリーダー)

「DecNefを応用した精神疾患の診断・治療システムの開発と臨床応用拠点の構築」

  参画機関と緊密に連携を保ちながら、複数施設のデータに基づく、複数の精神・神経疾患のバイオマーカー開発のための研究を推進します。また、DecNef法を応用し、精神・神経疾患の診断や治療に貢献するシステムの開発と、その拠点の構築を実施します。

分担機関

大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経機能再生学講座 特任教授
齋藤 洋一

「簡便な反復経頭蓋磁気刺激およびデコーデッドニューロフィードバックによる難治性疼痛治療法の開発」

  薬剤治療でも除痛できない難治性疼痛(NP)に対して、一次運動野の反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)を在宅でも可能にするために、簡便な機器の開発を行い、医師主導治験を経て、医療機器認可を取得する計画です。NP患者のrs-fcMRI(安静時脳機能MRI)のデータを集積して、精神・神経疾患患者と比較検討して、特異的な変化(バイオマーカー)を捉えたいと思います。それらを踏まえて、脳内機能的結合を評価、解読しフィードバックをかけて(DecCNef)疼痛治療ができないか検討したいと思います。

分担機関

京都大学 大学院医学研究科 精神医学教室 准教授
高橋 英彦

「BMI技術を応用した精神疾患に対するバイオマーカーとニューロモジュレーション技術の開発」

  精神疾患の診断や治療評価は行動観察や自己報告に依存しており、生物学的に裏打ちされたものではありません。より的確な診断のためには、生物学的データに基づいたバイオマーカーの開発は急務であります。他の参画機関と連携し、安静時機能的MRIを中心とした多次元の脳情報から統合失調症のバイオマーカー開発を目指します。バイオマーカーの確立後、解読された脳情報をリアルタイムに被験者に戻し、目標脳活動パターンへ誘導する技術や既存の神経刺激法(TMSなど)との組み合わせによる統合失調症・気分障害に対する新しい治療技術の開発を目指します。

分担機関

昭和大学 大学院保健医療学研究科 精神医学 教授
加藤 進昌

「発達障害の革新的鑑別・治療法の開発とBMI技術による精神疾患治療に向けた臨床拠点の構築」

  本課題では、自閉症スペクトラム障害(ASD)を主な対象疾患とし、その病態を反映する脳情報の解読をベースとしたBMI技術を用いて、ASDの新しい鑑別・治療法の開発を目指します。また、ASDなど精神疾患当事者のアクセスも含め、豊富な臨床資源を所有する当施設において、BMI技術の一つであるDecoded Neurofeedback (DecNef)の臨床研究拠点を形成します。

分担機関

玉川大学 脳科学研究所 教授
坂上 雅道

「DecNefによる可塑性誘導の神経科学的基礎の解明」

  Decoded Neurofeedback(DecNef)法の神経科学的機序の解明のため、ニホンザルを被験体とし、前頭前野ネットワーク(前頭前野外側部、眼窩部、内側部)に設置したマルチECoG電極を使ってDecNef誘導を行い、その前後での行動・前頭前野ニューロン活動の変化を解析します。これに基づき、DecNef誘導の有効性(誘導の方法、誘導部位、誘導時間)・安全性についても検討を行い、その成果はヒトDecNef研究へフィードバックします。

分担機関

東京大学 大学院医学系研究科 ユースメンタルヘルス講座 特任助教
八幡 憲明

「精神疾患バイオマーカーの開発とDecNef等による臨床応用のための技術基盤整備」

  精神疾患の起こるメカニズムには不明な点が多く残されており、臨床場面で患者さんの診断や治療計画の一助となるような「バイオマーカー」はいまだ開発途上にあります。本研究では主にMRI装置で計測される自発脳活動から、自閉症スペクトラム障害やうつ病のバイオマーカーを開発し、これを精神科臨床でDecNef等を用いた疾患治療や、診断の補助に利用できる基盤技術として、必要な方法論や実施プロトコルなどの整備を行います(医学部附属病院)。また、DecNefが成立するための神経基盤を解明することで、より効率よくDecNefを行う方策を模索します。ネズミを用いることで、ヒトやサルでは行うことができないような侵襲的・介入的実験を行い、詳細な神経メカニズムの解明を目指します(薬学系研究科)。

分担機関

広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 精神神経医科学 准教授
岡本 泰昌

「うつ病のバイオマーカーの確立とデコーディッドニューロフィードバックへの応用」

  わが国のうつ病を含む気分障害患者の受診は100万人超とされています。その内、約1/3は治療抵抗性であることから、より効果的な新しい治療法を開発し提供することは喫緊の課題と考えられます。そこで、本研究では、MRIを用いて確立するうつ病に特徴的なバイオマーカーを、比較的簡便な脳機能測定装置であるNIRS-EEGを用いたデコーディッドニューロフィードバック法に応用し、新たなうつ病治療法の開発に着手します。

代表機関

関西医科大学 生理学第二講座 教授
中村 加枝

「経頭蓋磁気刺激(TMS)とモノアミン神経系動態のモニタリングに基づく
脳幹―大脳皮質ネットワークダイナミクスの解明と磁気刺激治療の最適化」

  反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、磁気により非侵襲的に脳を刺激する方法で、すでに臨床の場でうつ病などの治療に用いられています。しかし、その作用機序についてはよくわかっていません。本研究では、ヒトに近い脳を有するサルを用いて、異なる刺激部位や頻度・強さのrTMSによる脳の活動の変化と、その結果引き起こされる行動・自律神経反応の変化を特定することにより、rTMSによる脳機能操作法の確立を目指します。中でも、うつ病に関連が強いとされるセロトニン系の変化を明らかにします。

分担機関

大阪大学 大学院生命機能研究科 脳神経工学講座 准教授
小林 康

「経頭蓋磁気刺激が中脳ドパミン、アセチルコリン系の変化を介して 
意欲・覚醒レベル・学習・意思決定の変容をもたらすメカニズムの解明」

  経頭蓋磁気刺激(TMS)の影響は、大脳皮質の刺激部位にとどまらず、皮質下の大脳基底核、中脳ドパミン、脳幹モノアミン系・アセチルコリン系が間接的に影響をうけ、その効果が脳の広い領域に及ぶとおもわれます。臨床現場での安全で有効なTMSを目指すには、この効果の詳細を動物で検証する必要があります。本研究では、サルに認知行動課題を行わせ、TMSによる脳活動の変化と、その結果引き起こされる行動・生理反応の変化を特定することにより、TMSによるヒト脳機能操作法の確立を目指します。

分担機関

東北大学 大学院生命科学研究科 脳情報処理分野 准教授
筒井 健一郎

「経頭蓋磁気刺激が前頭連合野の神経活動変化を介して意欲・覚醒レベル・学習・意思決定の変容をもたらすメカニズムの解明」

  前頭葉皮質への経頭蓋磁気刺激(TMS)は、すでにうつ病やパーキンソン病の治療などにおいて、臨床での試用が始まっていますが、その作用機序については不明な点が多いのが現状です。本研究では、サルを用いて、前頭葉皮質へのTMSにおいて、刺激部位・刺激パラメータと、それによって引き起こされる、神経活動の変化や、行動・自律神経反応との関係を特定することにより、TMSによる脳機能操作法の確立を目指します。
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