イベント情報

 第5回脳プロ公開シンポジウム 
基礎研究が支える ~日本発、世界へ~

   日  時 : 2013年2月2日(土) 10:00-18:00
   場  所 : 学術総合センター (東京都千代田区一ツ橋2-1-2)
   主  催 : 文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」

  ※プログラム付き抄録集はこちら(1.28MB,PDF形式)
  ※アンケート結果はこちら(0.87MB,PDF形式)
 
※シンポジウム報告書はこちら(2.7MB,PDF形式)



 ● 開催趣旨 ● 

 
    脳プロ開始から5年目を迎え2012年度で終了する課題A・B「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発」と課題C「独創性の高いモデル動物の開発」のこれまでの成果をご紹介するとともに、日本の脳科学研究の今後を皆様と一緒に考える場として、本シンポジウムを開催いたしました。

    課題A・B・Cの取組みを指導してきた立場から中西重忠プログラムディレクター、また課題を代表して4名の研究者が講演を行いました。さらにパネルディスカッションでは進行にジャーナリストである立花隆氏をお迎えし、本事業の成果が世界に先駆けて研究をリードできているか、日本の脳科学研究が今後どうあるべきかなどを議論し、またフロアからの質問に対してパネリストが意見を述べました。



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 ● 開会のご挨拶 ●  (13:30-13:40)


文部科学審議官
      藤  木  完  治      
(ふじき かんじ)





 ● 基調講演 ● 13:40-13:55)


  「基礎研究が支える脳科学 - 日本初、世界へ-」


   中 西  重 忠 (なかにし しげただ)
   課題A・B・Cプログラムディレクター

    高齢化と高度な情報化社会が進む我が国においては、認知症や運動障害などの神経疾患、さらにうつ病や統合失調症などの精神疾患が個人の生活においても社会全体としても大きな問題となっています。「脳科学研究戦略推進プログラム」は「社会に貢献する脳科学」の実現を目指し、脳科学研究を戦略的に推進するために2008年から開始された脳研究の支援プログラムです。
    この中で課題A及びBは、著しい進展が見られる情報科学を駆使して脳情報の解読を進め、その理解の下に脳活動を精緻に操作して、障害を受けた脳機能の回復、補完を可能にする
ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発と応用を進めています。

    一方、課題Cは分子生物学的な方法を導入して、霊長類の脳機能を自在に操作する新しい基盤技術の開発を進め、またトランスジェニックマーモセットの作製によって新たな脳研究の展開を図り、より高次な脳機能の解明を目指しています。
    本シンポジウムでは2012年度で終了する課題A~Cのプログラムの主旨、目的、その成果を御紹介し、立花隆氏をお迎えして、今後の脳研究の方向性と発展性を議論しました。





 ● 講演1 ● 13:55-14:20)

  「脳の機能を明らかにして、
      失われた機能を代償し、回復する」


   川 人  光 男 (かわと みつお)
   (株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 脳情報通信総合研究所 所長

    ブレイン・マシン・インターフェースは、失われた機能を代償し、回復を助ける事を目的としたコンピュータを含む人工的な電気回路であると定義できます。人工内耳や脳深部刺激などが実用化されてから30年近くたち、世界で何十万人の方の福音になっています。最近は、コミュニケーションを含む運動機能の代償と治療応用が大変進み、既に実用化されつつあります。
    このような応用には、霊長類や昆虫、またヒトを対象とした50年近くに及ぶ基礎研究の積み重ねが必須でした。
特に、神経系の活動を電気的に記録して解析するシステム神経科学の研究、脳の外側から脳を傷つけずに活動を測り、脳で表現されている情報を読み解くデコーディング研究が応用の核になりました。
    脳科学研究戦略推進プログラム課題Aでは、基礎、臨床、工学系の異なる背景を持つ研究者が緊密に共同することにより、幾つかの分野で世界をリードする成果が得られました。例えば、体内に完全に埋め込んで義手ロボットを制御できるシステムの開発や、薬とは全く異なる精神・神経疾患の治療法の原理の発見です。
    本講演では、以上の課題Aから得られた主な成果と、特にATRで取り組んでいる新しい神経科学研究の手法やその可能性について詳しくお話ししました。





 ● 講演2 ● 14:20-14:45)


  「BMIがリハビリテーションに新たな可能性を拓く」


   里 宇  明 元 (りう めいげん)
   慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室 教授

    肢体不自由者を支援するための革新的医療技術の開発・実用化は、生活の質(QOL)の向上と社会参加のために重要です。BMIは脳機能の一部と機械を融合させ、外界を操作する技術ですが、その臨床応用が実現すれば大きな福音になると期待されます。私たちはBMI技術のリハビリへの応用を担当し、以下の成果を上げてきました。

1)頭皮上脳波から運動イメージに関連した情報を高い精度で取り出す信号処理方法を考案し、実用レベルの脳波BMIを開発しました。これを用いてインターネット上の仮想世界のアバターを念じただけで制御することに成功するとともに、運動イメージで手指を動かすことが可能な電動装具を開発しました。
2)脳波BMIと電動装具を用いたリハビリにより、従来、治療困難であった重度上肢麻痺の回復が得られる可能性があることを見いだしました。現在、その効 果を臨床評価、脳機能イメージング、電気生理学などを用いて検証するとともに、臨床応用に向けた製品化を進めています。

    BMI技術の確立と臨床応用により、失われた機能の代償にとどまらず、脳の可塑性を誘導し、障害そのものを回復させる新たなリハビリを展開することが期待されます。
    本講演では、BMIリハビリの有用性とこれまでの成果、また今後期待できる社会応用についてお話ししました。





 ● 講演3 ● 14:55-15:20)


  「ウイルスベクターを用いた霊長類の神経回路機能解析」


   伊 佐  正 (いさ ただし)
   自然科学研究機構 生理学研究所 教授

    私は、脳や脊髄が損傷を受けた後に、訓練によって機能が回復してくるメカニズムを、特に人間に近い脳と身体の構造を有するサルを用いて研究してきました。もし、ある経路が損傷を受けた時に、機能を代行する別の経路が特定でき、その細胞を元気にしてあげれば、機能回復が促進できるかもしれません。
    脳は、しばしばコンピュータのような電子回路に例えられますが、脳の組織は、様々な種類の細胞と神経線維が絡まるとても複雑な構造をしており、電子回路のように部品を1個ずつ外して性能を調べるようなことはできませんでした。
    しかし、今回、私たちは2種類のウイルスベクター(遺伝子の運び屋)をうまく組み合わせることで、サルの脊髄の特定の経路の細胞の機能を操作し、行動に影響を与えることに世界で初めて成功しました。これは私のような生理学者と最先端の分子生物学の専門家とのコラボによって成し得たことです。
    本講演では、このような日本発の技術がどのようにして生まれたのか、そして今後の脳研究、特に高次脳機能の研究や、脳・脊髄損傷後の治療戦略を開発する研究にどのように貢献できるのかについてお話ししました。



特定経路を操作する技術:投射先と細胞体の位置に注入した2種のウイルスに感染した細胞でスイッチが入る




 ● 講演4 ● 15:20-15:45)


  「遺伝子改変霊長類を用いた脳研究の最前線」


   岡 野  栄 之 (おかの ひでゆき)
   慶應義塾大学 医学部 生理学教室 教授

    ヒトの脳の正常な機能や心の問題と、これらが破綻した時の疾病を正しく理解するためには、これらの脳構造とそこに基盤を置く機能を解明する必要があります。これまで、進化過程で保存された脳機能の解析には、遺伝子改変齧歯類・魚類等を用いた遺伝子操作による還元的アプローチが主であったのに対し、霊長類以上で特異的に獲得された脳高次機能は心理学的アプローチなどの複雑な行動解析が主体であり、分子・細胞レベルの研究が十分にはありませんでした。
    しかし最近、私達は世界で初めてコモン・マーモセットを用いた遺伝子改変霊長類の作成に成功し(Sasaki et al.: Nature, 2009)、マーモセットの遺伝子改変技術を通して両者を統合することが可能となりました。
    現在、この遺伝子改変技術を用いてヒトのパーキンソン病などの神経難病のモデルマーモセットの作出を進めており、これら神経難病の治療法開発研究などへの貢献が期待されます。さらに遺伝子改変マーモセット作成の技術開発を進めるとともに、ヒトあるいは霊長類に固有な脳の構造と機能の解析、さらにはこれらが障害されたヒト精神・神経疾患モデルの開発を行いたいと考えます。
    本講演では、新しい霊長類モデルであるマーモセット研究の最先端の成果を御紹介しました。
 





 ● パネルディスカッション ● 16:00-16:55)
【進行】:立花 隆(評論家・ジャーナリスト、東京大学大学院 情報学環 特任教授)
【テーマ】:「日本の脳科学は世界を変えるか」















 ● 閉会のご挨拶 ● 16:55-17:00)


課題D・E・Fプログラムディレクター
     津  本  忠  治    
(つもと ただはる)



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当日は、449名の皆様にお越しいただきました。
お陰様で、サテライト会場もいっぱいになるほど多くの皆様にご来場いただき、誠にありがとうございました。





 ● 体験展示 ● 午前の部10:00-13:20、午後の部17:00-18:00)

  リハビリテーション応用を目指した外骨格ロボット
  ~脳とロボットをつなぐ~(ATR・森本グループ)
  皮質脳波を用いたブレイン・マシン・インターフェース
  の臨床応用(大阪大・吉峰グループ)



  ヒトにおける脳内植込み電極と体内埋設刺激
  デバイスを用いたBMIの開発(日大・片山グループ)
  高性能電極とCMOS技術を用いた、歩行と読書が
  可能な次世代人工網膜
  (大阪大・不二門グループ/奈良先大・太田グループ)

 

遺伝子改変マーモセットが生まれるまで (実中研・佐々木 グループ)
    
 
  霊長類で脳の特定の神経回路を"除去"する
  遺伝子導入法を開発 (京大霊長研・高田グループ)



  遺伝子から見る精神疾患 (理研・吉川グループ)   新しく開発した小脳機能評価法(医科歯科大・
  水澤グループ)



  広汎性発達障害の早期診断システムの開発
  (金沢大・東田グループ)
  ニューロイメージングで抑うつ気分と意欲の低下を
  可視化する(広島大・山脇グループ)



  前頭側頭葉変性症(FTLD)の病態解明と
  治療法開発に向けて(名古屋大・祖父江グループ)
  脳科学研究を支える情報基盤の構築:
  リン酸化プロテオミクスデータベース
  (名古屋大・貝淵グループ、OIST・吉本グループ、
  理研・臼井グループ)

総務省
厚生労働省

  日常生活支援を目指すネットワーク型ブレイン・
  マシン・インターフェース(ATR・石井グループ)
  障害者自立支援のためのBMI型環境制御システム
  (国リハ・神作グループ)






   



    今回は、2008年の脳プロ開始時から5年間にわたって取り組んできた課題A,B「ブレイン・マシン・インターフェースの開発」及び課題C「独創性の高いモデル動物の開発」の集大成報告となるシンポジウムでした。各課題の5年間の成果を発表させて頂くとともに、今後の課題、未来への展開についてもお話しさせて頂きました。

    パネルディスカッションでは立花隆さんをお迎えし「日本の脳科学は世界を変えるか」というテーマで、脳プロの成果報告を交えながら、世界の中での日本の脳科学研究についてお話しさせて頂きました。また、立花隆さん、そして会場の皆様からお寄せ頂いた研究への疑問にお答えしつつ、日本の脳科学研究の今後について考える貴重な場ともなりました。

    展示会場では、パネル展示や映像をご覧頂く他、実際のロボットのデモンストレーションや顕微鏡を覗きながらの疑似実験などを体験して頂きました。ご来場の皆様と研究者が直接対話をさせて頂くことで、最先端研究の詳細についてご説明させて頂くことができました。

    今回も、多くのお申し込み・お問い合わせをいただき、誠にありがとうございました。満席の会場に加えて、展示会場に設けた特設サテライト会場にも多くの皆様にお越し頂き、脳科学への関心の高さを感じております。定員を超えてしまい、残念ながらご来場頂けなかった皆様のためにも、追って報告書を発行いたします(今秋発行予定)。是非そちらもご覧くださいませ。

    今後も、より分かりやすく、より充実したシンポジウムを目指し、積極的な情報発信に努めていきますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(大塩、嶋田)


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