「脳科学研究を支える集約的・体系的な情報基盤の構築 (神経情報基盤)第2回ワークショップ」 日 時 : 2011年6月21日(火) 13:30~16:30 会 場 : 大阪大学中之島センター 佐治敬三メモリアルホール(10階) 主 催 : 文部科学省 プログラム付き抄録集はこちら 新規課題説明資料はこちら |
![]() 68名の方にご参加いただきました。 ご来場誠にありがとうございました。 |
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ライフサイエンス課長 石井康彦氏 | 三品昌美プログラムディレクター |
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「新たな神経情報基盤の構築に向けて」 最新の高スループット計測技術と情報技術を最大限に生かして、脳に関する新たな重要な理解を得るためには何が必要でしょうか?それを考える上でまず、新たな技術シーズ、神経科学や精神医学でのニーズ、世界各地で進むプロジェクトの趨勢の把握することが必要です。その上で、1) どのようなデータを系統的に取得すべきか、2) そのためにどのような計測技術開発が必要か、3) それらを新たな理解につなげるために、どのようなアルゴリズム開発、情報インフラと人的ネットワークが必要か、を議論する必要があります。このパネルでは、発表者の知識の範囲で有望と思われるプランの提示を試みました。 |
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「大脳視覚野の神経細胞の活動の網羅的な記録に向けて」 全ての神経細胞の活動を記録することは、脳の研究者にとって夢とされてきました。Charles Sherringtonは、このことを最初に夢想した一人で、もし全ての神経細胞の活動が見えたら、魔法の機織り- enchanted loomのように見えるのではないかと記述しています。近年のイメージング技術の進歩は、この夢へと近付きつつあります。 このセッションでは、二光子カルシウムイメージングを用いれば、数百ミクロンの範囲内にあるすべての細胞(~ 10,000個)の活動を、生きたままの個体から計測することが可能になることを説明するとともに、さらに技術を進めて、どのように視覚野の全ての細胞(マウスで~200,000個)の活動の記録を目指すかを議論しました。また、このように視覚野にある全ての細胞の活動を見ることができるようになって、どのような実験が可能になるか、長所と短所を含めて議論しました。またこのような網羅的な記録の結果として膨大なデータが取得されますが、その結果を共有し利用するために、どのようにデータベースを構築すべきか、またその結果を解析するのにどのようなソフトウェアが必要かについても議論しました。 |
「大脳皮質領野が示す細胞および神経回路の多様性」 ヒトやサルなど霊長類の大脳皮質は50を超える領野からなります。それらは元来、細胞構築に基づいて分類され、その後、破壊症状、細胞の機能的性質、入出力関係が明らかにされ、それぞれの部位の機能が推定されるようになりました。異なる領野は情報処理や認知行動過程において異なった役割を果たしています。この機能的相異は、大脳皮質の神経経路における位置の違い(すなわち、入出力の違い)に起因すると捉えられていることが多いです。各領野を構成する神経細胞は、同じ層、同じタイプに注目すれば、同様の形態と膜生理学的性質を持つとの暗黙の仮定がなされています。しかし、実際には、樹状突起や軸索の構造、膜の生理学的特性、シナプス伝達の性質、これらの生後発達過程は領野によって異なることを示す研究結果が出つつあります。各領野の個々の細胞は、それぞれの果たす機能に最適化した形態、生理学的性質、発達プロファイルを持つのではないでしょうか。これらの特徴を大脳皮質の各領野について包括的に明らかにしていくことの展望と意義について議論しました。 |
「モデル動物:高精度計測、時間軸、そしてゲノム科学」 脳機能のモデル化の実現のためには、脳を構成する様々な神経細胞集団が、局所回路レベル・マクロ回路レベル・行動レベルにおいて、どのように機能しているかについて、高精度測定データの蓄積が必要不可欠です。そのためには、低侵襲的に、脳の個々の神経細胞集団の形態・活動を定量的に計測し、限れた細胞群を再現性良く操作する事が可能なモデル動物の確立が必須です。これを実現するには、長年蓄積されてきた脳神経系の分子発生生物学の成果を十分に活用する必要があります。また、実験データの取得において、動物の一生を見渡す時間軸に言及しました。さらにゲノム科学の進展と技術基盤の整備が、遺伝学的手法が発達したモデル生物、および比較的発達していないモデル生物の両方に与えるインパクトについても触れました。 |
「情報基盤としてのプロテオミクスの現状と展望」 学習記憶や認知などの高次脳機能および快・不快や不安などの情動についてそれぞれ特有の神経核、神経回路が同定され、CaMKやMAPKなどの関連する細胞内シグナルの一部が明らかになりつつあります。しかし、現状ではこれら脳機能と関連する細胞内シグナルの網羅的解析は全く手つかずの状態です。シグナル伝達機構を理解するためには、シグナルを構成する分子群のネットワークや個々の分子の働きを解明する必要があります。具体的には、シグナル分子間の相互作用(インターラクトーム)やリン酸化に代表されるような蛋白質修飾を網羅的に解析することが重要です。近年の質量分析技術の飛躍はめざましく、f mol オーダー以下の蛋白質の同定やその修飾の解析が可能になってきました。その結果、蛋白質を免疫沈降させた際に共沈降してきた蛋白質の同定が可能になっており、インターラクトーム解析が飛躍的に進む可能性がでてきました。また、目的とする蛋白質のリン酸化サイトの同定も可能です。実際、蛋白質のリン酸化サイトがランダムに多数同定されデータベースとして提供されています。一方、リン酸化酵素は約500種類存在しており、その多くが神経細胞やグリア細胞において重要な機能を果たしていると考えられていますが、その標的である基質蛋白質は殆ど同定されていません。私共は、目標とするリン酸化酵素の基質蛋白質を網羅的に同定する方法を確立しつつあります。本ワークショップでは、情報基盤としてのプロテオミクスの現状と展望について紹介しました。 |
「運動学習のオミクス統合型研究」 近年のゲノミクスやプロテオミクスなどの爆発的進展とともに、脳科学研究においても情報基盤としてこれらを利用する必要性が高まってきました。特に神経情報基盤としては、網羅的に神経結合を解析する手法であるコネクトミクスがここ数年でようやく実用レベルに達しつつあり、今後の研究の進め方を根本的に変革する潜在性を持っていると考えられています。つまりこれらの潮流は、ある特定の作業仮説に基づく仮説ドリブンの研究手法から、データをありのまま解析しそこから仮説に依存しない新しい発見を導くデータドリブンの研究手法への変革の可能性を感じさせます。しかしながら、これらのオミクス手法においては膨大な情報の中から色眼鏡なしに意味のある有用なメッセージを引き出すことは、現状では大変困難であるといわざるを得ません。それは、データ量が膨大すぎてどこから手を付けてよいか見当がつかなかったり、そもそも解析のためのソフトウェアがなかったり、一つのオミクスのみではアーチファクトやノイズに由来する情報を見抜くことが必ずしも容易ではない、などの理由によると考えられます。そこで、私は「運動学習」を例にとり、時間域と空間域を極めて限定すること、および複数のオミクス手法を組み合わせて統合的に解析することによってこの問題に挑戦し、脳神経科学研究における新しいひとつのビジネスモデルを提案しました。 |
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