イベント情報

第53回日本神経学会学術大会市民公開講座
  「高齢期を豊かに生きる
         ~脳の老化と認知症の克服~


DAY                 2012. 5. 26  [Sat.]
TIME                13:00 - 16:00
PLACE              東京医科歯科大学M&Dタワー2階 鈴木章夫記念講堂
Organizer         日本神経学会
Co-organizer    文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」


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  開会のご挨拶
    快晴の中、主催 日本神経学会、共催 文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」による、高齢期の健康に焦点を当てた認知症の克服についての市民公開講座を開催いたしました。

    総合司会にNHKアナウンサーの桜井洋子さんをむかえ、第53回日本神経学会学術大会 大会長、慶應義塾大学医学部神経内科 教授 鈴木則宏先生より開会のご挨拶をいただきました。



第53回日本神経学会学術大会
鈴木則宏大会長                

講演1,2,3司会の鈴木先生と岡澤先生


講演4,5司会の水澤先生と祖父江先生

 
    講演1,2,3の司会は、鈴木大会長と東京医科歯科大学難治疾患研究所 神経病理学分野 教授  岡澤均先生に、講演4,5の司会は講演1演者の水澤英洋先生と講演3演者の祖父江元先生に務めていただきました。



●  講演1.「認知症とは?-とても大切な脳のお話-」


水 澤 英 洋




東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学分野 教授
                                                                                                                           
    認知症では、物忘れなど記憶の障害を中心として、周りの事物のことがよく分からない、言葉がうまく出せない、よく知っていたはずの行為がうまくできなくなるなどの脳の機能が損なわれます。これは、一時的なものでなく徐々に進行して悪くなっていくことが普通です。したがって、軽いものから重症なものまであり、それによって会社での仕事や日常生活をうまく送ることができないくらいのときに初めて病気として認知症と診断します。

    認知症には、様々な原因による病気が含まれています。いずれも、記憶、認知、行為の遂行といった脳のもつ重要な機能を司る場所の神経細胞が障害されて徐々に減っていってしまうことにより生じます。最も多いのがアルツハイマー病で、その他にレビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症もまれならず見られます。また、普通の脳卒中でも繰り返せば認知症を来たしますが、もっとジワジワと血液の循環が悪くなり生じることもあり血管性認知症と呼ばれています。

    認知症は、初老期から見られ始め、年を取ると共にその頻度が増していきます。すなわち加齢に関連した病気です。我が国では、急速に高齢者が増えていて認知症の頻度も増加しており、その克服は神経内科などの認知症を診療する医師のみならず、国にとっても重要な課題です。ヒトが生まれてから、小児期の健全な発達を経て、成人となり活力ある生活を送り、やがて健やかな老年期を迎えるためには、その重要な機能を担う脳が健全に発達し、活力を保ち、健やかに老いることが必要です。

    本講演では、脳の仕組みや大切さの理解、脳の病気である認知症の理解と克服に役立つお話をしていただきました。




●  講演2.「レビー小体型認知症を正しく理解する」



伊 東 大 介




慶應義塾大学医学部神経内科 専任講師
                                                                                                                           
    レビー小体型認知症は老年期に発症する認知症の一つです。進行性の認知機能障害や幻視などの精神障害に加えて、パーキンソン病に似た症状(歩行障害、手の震えなど)を呈する神経疾患です。アルツハイマー病、脳血管性認知症に次いで3 番目に頻度が高く、最近増加傾向にあると言われております。また、小阪憲司先生(横浜市立大学名誉教授)によって世界で初めてその存在が示された疾患として、我が国では特に注目されています。

    本疾患は、大脳の神経細胞内に「レビー小体」と呼ばれる特殊な変化が現れることが特徴です。レビー小体は、元来パーキンソン病患者の中脳に観察されるもので、この二つの疾患は病気のメカニズムに共通性があると考えられています。また、臨床症状で重なり合う点が多いことからもレビー小体型認知症はパーキンソン病の近縁疾患とされています。

    症状は、認知機能障害に加えて幻視が特徴です。幻視は早期から認められるため、他の認知症と鑑別するのに重要な症状です。人物、虫などが出てくるリアリティのある幻視であることが
典型的で多いです。反復性であり、夕方など薄暗くなる時間帯に多く出現します。

    治療は、アルツハイマー病で使うお薬(アリセプト® など)がこの疾患にも有効です。しかし、現時点では保険適応外ですので使用に際しては医師との相談が必要です。また、パーキンソン病と似た症状に対しては、パーキンソン病の薬が有効で、専門医の治療が必要となります。現時点では根本的な治療は困難ですが、お薬や介護の工夫でうまくお付き合いすることができる病気です。

    本講演では、レビー小体型認知症とその治療法について詳細にお話いただきました。




●  講演3.「前頭側頭葉変性症の臨床像と病態」


祖 父 江 元




名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授

                                                                     
                                                      
    " 神経変性" とは、大脳や脊髄において特定の神経細胞が消失し、その部位が萎縮する病態を指し、神経変性が原因となっている疾患を神経変性疾患と呼びます。前頭側頭葉 変性症は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症と並んで、神経変性疾患が原因となる認知症に含まれます。

    前頭側頭葉変性症は、前頭葉と側頭葉が萎縮することを特徴とし、65歳以下の働き盛りで発症することが多く、初期から、行動に対する抑制が効かなくなる、 周囲への配慮や遠慮が無くなる、同じような行動ばかりする、暴力行為や悪ふざけが目立つ、落ち着きが無くなる、自分や社会に対する関心が低下する、身だしなみがだらしなくなるといった症状を様々な程度で認め、軽犯罪を引き起こす場合もあります。また、会話量が減ってくる、物品の意味が分からなくなるといった言語障害が目立つ症例もあります。これらの症状はゆっくりと進行しますが、途中筋力低下、筋萎縮、嚥下、呂律の障害を伴う場合もあり、最終的には寝たきり状態になります。

    前頭側頭葉変性症は複数の疾患群から構成され、症例によって臨床像も異なるため、神経内科専門医による適切な診断と治療方針の決定が必要ですし、精神科と協力して対応することが重要な場合も少なくありません。
適切な治療法を開発していくためには、その病態の解明が重要ですが、近年詳細な病理学的な検討から、タウ、FUS、TDP-43 と呼ばれる蛋白質が病態に密接に絡んでいることが分かってきました。


    本講演では、前頭側頭葉変性症に関するご研究内容、病態や治療への展望などをお話いただきました。



●  講演4.「脳卒中、 認知症を予防する生活習慣」


冨 本 秀 和




三重大学大学院医学系研究科生命医科学専攻 神経病態内科学分野 教授
                                                                                                                            

    脳卒中に罹患すると、その後2~3割の患者さんが認知症を発症し、脳卒中後認知症と呼ばれています。その最大の原因は血管性認知症ですが、潜在性のアルツハイマー病が脳卒中を契機に発症するというケースもあります。血管性認知症はアルツハイマー病と合併することも多く、両者の合併したものは混合型認知症と呼ばれています。

    高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が脳卒中の危険因子であることは広く知られていますが、最近の疫学調査から中年期の生活習慣病がアルツハイマー病の発症リスクを増やすことが分かってきました。また、生活習慣病は、アルツハイマー病の脳の病変(老人班、神経原線維変化)や脳卒中と並び、認知症の原因になることが分かっています。したがって、生活習慣病を防ぐことはアルツハイマー病や混合型認知症を予防する上でも意味があります。

    本講演では、脳卒中および認知症を予防し、健康で長生きするための秘訣について分かりやすくお話いただきました。




●  講演5.「アルツハイマー病の根本治療をめざして」


岩 坪 威




東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経病理学 教授
                                                                                                                           

    高齢化社会の本格化と共に、アルツハイマー病 による認知症が急増しており、その根本的な対策が急がれています。アルツハイマー病で認知症が起こる原因は、大脳皮質の神経細胞が脱落することにありますが、これと同時にβアミロイド(Aβ) と呼ばれるタンパク質が脳に蓄積してくることが、その原因の1つと考えられています。したがって、脳にAβが溜まることを抑制する治療法は、アルツハイマー病の根本的な治療法として有望と考えられ、過去数年の間にいくつかの薬剤が開発され、大規模な臨床治験も行われてきましたが、まだ成功を見ていません。

    Aβを標的とする療法を始めとする、あらゆる根本治療法は、認知症の症状が明らかになった「臨床的なアルツハイマー病」の発症後よりも、前駆段階の「軽度認知障害」、あるいは脳に変化は生じ始めているが全く症状のない「前症候期アルツハイマー病」などの超早期に行うのが理想的と考えられるようになりつつあります。しかし、症状が軽微な時期に治療薬の効果を判定するためには、問診や心理テストなどの臨床的な評価方法だけでなく
、脳で起こっている変化を客観的に捉える方法(バイオマーカー)が必要になります。

    アルツハイマー病のバイオマーカーとして有力な手段に、画像診断法があります。MRI法で脳の形を精密に描き出して、容積の変化を測ること、またPET法で脳のブドウ糖代謝や、アミロイドの蓄積を画像化することは優れた方法です。また腰椎穿刺で脳脊髄液を採取し、Aβやタウなどのタンパク質を測定することも診断や評価に役立ちます。

    本講演では、アルツハイマー病についておよび根本治療を目指す上で現在米国と我が国で進められている大規模臨床研究や、我が国で進められている臨床研究などのご紹介や、アルツハイマー病根本治療薬の早期実用化についての研究などをお話いただきました。




  会場の様子 




  脳プロ事業パネル展示の様子 




  開催レポート 
    本イベントは日本神経学会との共催企画として、認知症に関する講演会を開催いたしました。それぞれの講演者よりご専門の疾患について、その病態の特徴や治療法、最新の研究成果に関してご紹介がありました。
 
    講演後には会場の皆さんからたくさんのご質問をいただき、現在使われているお薬や認知症の予防法などについて、わかりやすくお答えいただきました。

    また、会場そばに脳プロに関する展示ブースを設け、プログラムの目的やこれまでの歩みのほか、認知症やうつ病、発達障害などの精神・神経疾患に関連した研究のご紹介を行いました。

    300名以上もの多くの方にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。
(丸山)

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