イベント情報

 包括脳・脳プロ合同企画 
生活習慣脳-生涯に亘る脳と心の健康のために-」

日 時 :
2013年8月31日(土)15:30 - 18:30
会 場 :
名古屋国際会議場1号館4階 レセプションホール
(名古屋市熱田区熱田西町1番1号)

主 催 : 脳科学研究戦略推進プログラム
共 催 :
包括型脳科学研究推進支援ネットワーク

プログラム付き抄録集はこちら(250KB,PDF形式)




◆開催趣旨
    少子高齢化社会を迎える我が国にとって、経済的・社会的活力を維持するためには、小児期・成人期・老年期に亘り、脳と心が健全に機能することが必要不可欠です。本企画では、「発生から老化まで」という人の一生に亘って、脳の健康を脅かす外的要因である環境因子と内的要因である脳の健康を維持する分子基盤の相互作用を解明し「生涯に亘る脳と心の健康」を維持するためには、今後如何なる研究が必要かを、脳科学コミュニティ全体の課題として
実質的な議論を行うべく、本企画を開催いたしました

    生活習慣がリスクとなる精神神経疾患に関する脳科学研究戦略推進プログラムにおける研究成果、環境・遺伝相互作用の解明に必須なエピジェネティクス研究、さらに「先制医療」のフロントランナーである糖尿病などの生活習慣病の研究の紹介を通じ、「生涯に亘る脳と心の健康」を維持するための研究戦略の方向性を議論しました




◆開会のご挨拶・趣旨説明(15:30-15:40)
    文部科学省研究振興局 板倉康洋ライフサイエンス課長より開会のご挨拶を申し上げ、引き続き、脳科学研究戦略推進プログラムの津本忠治プログラムディレクターよりご挨拶と今回のワークショップの趣旨についてご説明をさせていただきました。

板倉康洋ライフサイエンス課長 津本忠治プログラムディレクター



◆講演
<司会>
 
 柚﨑 通介 (脳科学研究戦略推進プログラム)
 岡澤 均 (包括型脳科学研究推進支援ネットワーク)


脳プロの成果と今後の展開について(15:40-16:50) 



 
  「環境が促す健康な脳の発達」


  下 郡 智 美
  (理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー)


    「脳」は正常な身体の働きや人間らしい感情の何もかもを司る、身体と心の司令塔である。特に乳幼児期には、脳の働きが経験や学習によって変わり易い時期があり、発達環境に対して非常にセンシティブである。そして今、その成長の過程のなかで、脳はさまざまなダメージを受けていることがわかってきている。さらに、幼児期にダメージを受け、脆弱になった脳は成長した後、多くのストレスや負の環境要因にさらされることにより、うつ病・摂食障害・睡眠障害等の精神疾患を引き起こしやすくしていることも示唆されている。これらの疾患治療の研究は進んでいるものの、脳が心身の健康を維持するメカニズムを生涯にわたり体系的にとらえた研究は未だかつてないというのが現状である。

    脳プロ課題Eの「健やかな育ち」班は、様々な精神疾患と関連する大脳新皮質・海馬・扁桃体・視床・視床下部の形成機序を解明し、各脳部位の形成障害がどのような高次脳機能の異常をもたらすか、包括的な解析を行っている。我々の研究成果は、環境要因がどのようにどの程度のダメージを脳に与えるかというメカニズムを明らかにするとともに、発達期に脆弱になった脳をその後のストレス環境から守り、生涯に亘り健康な脳を維持する方法をもたらす。

    



   



 
  「食生活・睡眠習慣とうつ病」


   功 刀 浩

  (国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 部長)


    ス
トレス社会の現代、メンタル休職者が急増し、自殺者は年間およそ3万人を数え、うつ病は、その大きな要因となっている。うつ病は、後年、認知症のリスクも高めることが知られている。近年、うつ病や認知症は生活習慣病であるという指摘もなされるようになっているが、その背景には、人間関係などのストレスに加えて、文明化に伴って生じた食生活の欧米化、夜型生活、運動不足などの生活習慣が、これらの発症リスクと関連することを示唆する研究結果の蓄積がある。

    脳プロ課題Eの「活力ある暮らし」班では、食生活習慣、食欲制御の分子メカニズム、睡眠―覚醒リズム異常、うつ病に焦点をあてた研究を行い、成果を得ている。うつ病は栄養学的異常や食生活習慣と関連があることが明らかになり、そのメカニズムが一部わかってきた。また、睡眠リズムの異常が食欲やうつ病と関連することについて明らかにし、リズム異常と体内時計の関係についても明らかにしてきた。神経ペプチドのネスファチンやオキシトシンによる食欲制御、摂食リズム形成、肥満症改善とそのメカニズムについて明らかにした。これらの結果は、うつ病が生活習慣によって発症することを支持し、食生活や睡眠への介入法や、食欲制御分子を活用した治療法開発の可能性を開く。








 
  「生活習慣病と認知症
        -生涯に亘る脳の健康をもたらす遺伝・環境因子とそれらの相互作用-」


   水 澤 英 洋
  (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授)

   
少子高齢化社会を迎えるわが国にとって、経済的・社会的活力を維持するためには、小児期・成人期・老年
期に亘り、脳と心が健全に機能することが必要不可欠である。脳はその発生から成熟までに特に長期間を要し、出生前から発達期、成人期、老年期に至るまさに生涯に亘って、内因たる遺伝的分子基盤と外因たる環境の影響を受ける。

    脳プロ課題E「生涯健康脳」では人の一生に亘って脳の健康を維持したり、破綻させたりする内因と外因およびそれらの相互作用を解明することを目指している。「元気な老い」班では、生活習慣病である糖尿病や、より広く食の問題と、認知症や他の神経変性疾患との関連の解明を進めている。例えば、動物モデルを用いて高脂肪食や酸化ストレスが脳内Aβ蓄積の増加によりAlzheimer病を増悪させること、その背景としてのインスリンシグナルの異常やカロリー制限による治療介入で発症予防が可能であることなどを明らかにした。リン酸化蛋白の網羅的解析でも各種の認知症における病態シグナルネットワークを解明しつつある。これらの成果を脳科学コミュニティ全体で共有し、「生涯に亘る脳と心の健康」を日本から世界に発信したい。






『生涯に亘る脳と心の健康のために』
(16:50-17:50)




  「養育環境と脳-うつ病・ストレス脆弱性とエピジェネティクス」


  渡 邉 義 文
  (山口大学大学院医学系研究科 教授)


    密接な関連を有するストレス脆弱性とうつ病をはじめとする精神疾患の発病脆弱性の形成には、遺伝的要因のみならず環境要因、すなわち
エピジェネティックな機構が関与していると考えられている。実際、幼児期の虐待などの不遇な養育環境によってエピジェネティックな機構を介し、生涯に亘るほどの長期に持続するストレス脆弱性が形成され、成人後にうつ病をはじめとする種々の精神疾患の発病危険率が高まることが確認されている。動物においても母子分離ストレスや母ラットの貧弱な養育行動によって、視床下部—下垂体—副腎系におけるストレス脆弱性がエピジェネティックな機構を介して形成されることが確認されている。

    このようにストレス脆弱性を示す動物は、ストレス誘発性に不安・抑うつ行動を容易に示す。我々が見出したうつ病モデルマウスは、遺伝的にストレス脆弱性を有しており、軽微な慢性ストレス負荷により抑うつ行動を示すが、その抑うつ行動の発現は抗うつ薬投与により抑制される。このモデルマウスのストレス脆弱性の本体は、側坐核におけるGDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor) 遺伝子発現が、上流のMeCP2にHDAC2が結合して脱アセチル化することで抑制されるというエピジェネティック機構の異常であった。  









 
「ライフヒストリーよりみた医学-とくに脳医学の課題と先制医療を中心に-」


   井 村 裕 夫
 
(京都大学 名誉教授、(公財)先端医療振興財団 理事長)


    哺乳動物は胎生期、幼仔期を経て成熟期になり、子孫を残してやがて老化して死亡する。このライフ・ヒストリーは、それぞれの種が環境に適応して進化させてきたとするのが
、進化生物学におけるライフ・ヒストリー理論である。
   
    ヒトの特徴は脳を極めて大きく発達させたこと、長い成長期を必要とすること、生殖期以後の老年期が長いことなどであるが、それらはやはり進化の過程で獲得した特質に基づくものである。ただヒトの場合には長い進化の時間からすれば、極めて短期間に生活環境を一変させてしまった。そのことがいわゆる生活習慣病と呼ばれる疾患の増加と深く関わっている。これらの疾患は遺伝素因に環境因子が働いて発症するものであるが、環境因子としては胎生期、新生児期から成人までの環境が関与している。ここでは脳疾患を中心に、とくに先制医療の重要性について述べた。   





◆総合討論(18:00
18:30)

<ファシリテーター> 柚﨑 通介(脳科学研究戦略推進プログラム)
岡澤  均(包括型脳科学研究推進支援ネットワーク)





 
  この総合討論ではこれから取り組むべき脳科学研究の方向性として、生活習慣に重点をおいた研究と時間軸に重点をおいた研究の二つのテーマについて活発な議論がなされました。

    脳の健康維持に向けて、ヒトの一生を通じ、一人一人の遺伝素因や(世代をまたぐような)環境因子をもきちんと捉えた新しい研究の展開、長期コホート研究を今後も継続する必要性を感じました。

    本イベントは包括脳ネットワークとの共催企画として開催いたしました。123名の方にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。
(丸山)
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